第12話 農民、蛇素材を得る
【素材アイテム:素材】ノーマルボアの皮
オレストの町周辺に生息するノーマルボアの皮。加工することで色々なものを生み出すことができる。傷が多いため、品質はあまり良くない。
【素材アイテム:食材】ノーマルボアの肉
オレストの町周辺に生息するノーマルボアの肉。少し肉質は硬いが、貴重なタンパク源となる。小骨が多い。傷が多いため、品質はそこそこ。
【素材アイテム:素材】ノーマルボアの血
オレストの町周辺に生息するノーマルボアの血。そのまま飲むことで、強壮剤にもなるが、生臭いので注意。素材としての使い方は不明。
「よーし! 処理が終わったぞ!」
「おう、お疲れさん。何だ、セージュ。あんた、蛇もさばいたことがあるのか? あたしがほとんど手本を見せないのに、綺麗にさばけてるものな」
「いや、さすがに、こんな大物は初めてだよ」
目の前に残ったノーマルボアの素材の山を見ながら、思わず苦笑する。
さすがに、こんな蛇、向こうの日本だとまずお目にかかれないぞ?
しいて言えば、沖縄とかで大成長を果たしたやつとかはそれに近いのかも知れないけどな。ウナギとか馬鹿でっかいし。
ただ、まあ、俺にとっても幸いしたのは、ゲームの中の蛇も、現実の蛇の身体と、構造的には大きな差はなかったってことだな。
頭部は倒す時に切断済みだったし、後は皮を剥いで、手順通りに丁寧に処理しているだけだったからな。
「それに、カミュにもちょっと手伝ってもらったしな。すごいな、こっちの魔法って。水も発生させられるんだな? さっきのが水魔法なのか?」
さっきの光景を振り返りつつ、カミュに尋ねる。
この蛇の解体だと、やっぱり生臭さを取るためにも、水辺とかで作業をした方がいいんじゃないかって話をしたところ、目の前の金髪シスターがあっさりと、どこからともなく水の塊を呼び出して、それで蛇の身体を洗い流してくれたのだ。
さすがに、ちょっとびっくりした。
よくよく考えると、ゲームの中でまともな魔法を見たのってこれが初めてだしな。
「まあな。水魔法は教会でもよく使うんだよ。聖水関係とかもな。だから、あたしらシスターにとっては、覚えておいた方がいいって感じの魔法になるな」
「さっきみたいに、呼び出した水が消えてなくなるのも水魔法の特徴なのか?」
「物によるな。生成するタイプの使い方なら、水がそのまま残るぞ。さっきのは水流による洗浄が目的だから、ちょっと近くにある水場から、水を呼び出して、すぐに戻したって感じさ。細かい部分の理屈については、あたしも魔法屋じゃないから、教えてやらないけどな」
なるほど。
というか、水魔法って一口に言っても、色々な種類があるんだな?
魔素ってものから水を生み出す方法もあれば、周辺の水を召喚するみたいな使い方もあるらしい。
まあ、俺としては、理屈はどうあれ、水魔法があれば、解体の時とか水洗いがしやすくて、便利そうだなって感想ぐらいしかないんだが。
「なあなあ、カミュ。俺でも、その水魔法は使えるようになるか?」
「資質があれば、魔法屋に相応の金を払って覚えられるぞ。水属性の資質がなければ、ちょっと覚えるのが難しくなるが、まあ、不可能じゃないとは言っておこうか」
それ以上は秘密だ、とカミュが含み笑いをする。
やっぱり、なんでも聞けば教えてくれるってわけではなさそうだ。
その辺はゲームの楽しみを奪っちゃうからかもしれないな。
自分で色々と試してみるのが面白いわけだし。
「それにしても、結構な量になったな。カミュの持ってるアイテム袋に入るのか? この蛇の素材って」
「当たり前だろ。このくらいは余裕だよ。ってか、ノーマルボアなんて、はぐれモンスターの中でもそんなに大きくない方だぞ。この程度でいっぱいになるアイテム袋なんて、普通の袋と変わらないじゃないか」
容量があってこその魔法の袋だ、と。
そっか、ゲームだもんな。
ポーションのビンを99個とか、鉄の鎧を99個とか持てないとダメってことか。
その辺は、四次元空間でも広がってる作りになっているらしい。
そんなことを言いながらも、カミュがテキパキとノーマルボアの素材を片付けていく。
全長数メートルの蛇があっという間に袋の中へと消え失せた。
カミュが持ってるアイテム袋自体は、両手に収まる程度のポーチくらいの大きさしかないんだが、やっぱり魔法ってすごいな。
水魔法もそうだが、空間魔法も便利そうだ。
今の俺の適性だと、まだまだ使えないようだがな。
ちなみに、ここまでの戦闘で、少しステータスのレベルが上がったぞ。
名前:セージュ・ブルーフォレスト
年齢:16
種族:地の民(土竜種)
職業:農民
レベル:3
スキル:『土の基礎魔法Lv.1』『農具Lv.1』『爪技Lv.2』『解体Lv.4』『土中呼吸(加護)』『鑑定眼(植物)Lv.1』『鑑定眼(モンスター)Lv.2』『緑の手(微)Lv.1』『土属性成長補正』『自動翻訳』
身体の方のレベルはふたつ上がってレベル3になってるな。
魔法はほとんど使ってないから、そのままだな。
後は、もぐらの爪攻撃で、そっちもちょっと上がってるし、鑑定眼も上がったか。
中でもひとつだけ一気に増えてるのが『解体』スキルだ。
刃物を突き刺してやるやり方じゃなくて、地道に解体すると、その分の経験値とかがあるのかもしれない。
てか、手に入る素材の数とか量を考えると、正直、普通に『解体』スキルと使うのって馬鹿馬鹿しいんだが。
いや、まあ、普通はうさぎだの、蛇だのをさばいた経験とかないのが当たり前だろうから、普通にゲームする上では、かなり重要なスキルなんだろうけどな。
お手軽に素材が手に入るし。
ただ、ステータスを見ていて気になったのは、ここまでの戦闘でショートソードを使い続けていたのに、そっちのスキルに関して目覚めるとかはないのな。
まだ、始めたばかりだし、『ギフト』と違って、普通はそう簡単にはスキルって増えたりしないのかも知れないが。
「それにしても、やっぱりノーマルボアって強いのか?」
「駆け出しの冒険者にとってはな。下手をすれば命に関わるわけだし、単独で倒そうとするやつは多くないとは思うぞ? だが、別に、この辺にしたって、ノーマルボアが一番大きな蛇ってわけじゃない。もうちょっと別のところには、もっと大きなラージボアってのもいるぞ。さすがにそっちは、新米がらみのクエストじゃあやらせないがな」
「へえ、ラージボアか」
というか、ノーマルボアでも数メートルあったんだが、そのラージボアって全長どのぐらいの蛇だよ?
少なくとも、単独のプレイヤーで倒せるモンスターじゃなさそうだな。
「そうだな。収集系のクエストも残ってたよな? せっかくだから、ラージボアが出る辺りを少しかすめて、採取をしていくか?」
「えっ!? マジか!?」
「いや、実際、そっちの方が良い素材が採れるんだよ。パクレト草の方は、そこまで深くまで入らなくても生えてるんだが、ミュゲの実の方はなあ、一応、収集系のクエストでもちょっと難しい方の素材だから、できれば、その辺まで出張った方が良いんだよ」
あー、なるほどな。
つまり、収集系のクエストも、討伐系のクエストで言うところの、ぷちラビットとノーマルボアみたいに、それぞれのクエストでの難度が違うのか。
実際、ぷちラビット十匹分でも、ノーマルボアと比べると全然だしな。
「わかった。そういうことなら、もうちょっと頑張ろうぜ」
「ふふ、心配しなくても、逃げるだけの時間ぐらいは稼いでやるよ。ラージボアが相手なら、さっきまでの戦闘みたいに、セージュが勝手に倒れるのとはわけが違うからな。一応、監督者としての義理は果たしてやるって」
そう言いながら、カミュが悪そうな表情で笑う。
むぅ。
やっぱり、さっきのノーマルボア戦は、俺が死んでも見殺しのパターンだったか。
そういう意味では、この金髪シスターは優しくないよな。
どっちかと言えば、スパルタタイプの監督だ。
「それじゃ、もうちょっとだけ進むぞ。こっちだ、ついてきな」
「わかった」
そのまま、俺とカミュは森の中の道を歩き始めた。
「うん……!?」
「どうした、カミュ?」
「おい、セージュ……聞こえるか?」
「えっ……何がだ?」
突然立ち止まって、俺たちが歩いている道から外れた方角を真剣な表情で見つめるカミュ。
言われて、俺もそっちの方へと集中するが、カミュが言っていることがわからない。
何か違和感でもあるのか?
一見すると、普通の森ってだけなんだが。
「少し離れたところで、何者かが戦っているような音がする……これははぐれモンスター同士じゃないな」
「音……か?」
もう一度、耳を澄ませてみるが、俺にはまったくわからなかった。
「俺の耳だとわからないな」
「そうか。まあ、普段なら放っておくんだが、ちょっと嫌な予感がするんでな。クエストの監督中に悪いが、そっちの方に行ってもいいか?」
「ああ。カミュがそう考えるなら、その方がいいんだろ? 俺もついて行けばいいのか?」
「そう……だな。うん。その方が安全か……よし、頼む」
「わかった」
「本当は、クエストが終わってからにするつもりだったんだがな……急いだ方がいいから先に済ませるぞ」
「えっ……何がだ?……って、うわっ!?」
いきなり、俺の身体が淡い光に包まれた。
何だ、これ?
「カミュ、これは何だ?」
「付与魔法の『身体強化』をあんたにかけた。これで、今は『身体強化』を使っている状態になってるはずだ。とにかく、詳しい説明は後だ。急ぐぞ。走ってあたしについてきな」
「何だかよくわからないが、ついて行けばいいんだな?」
「ああ……こっちだ!」
そう言うなり、一気に走り出すカミュ。
うわ、早いな!?
その姿を見失わないように、俺も必死に走ってついて行くのだった。




