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農民さんがVRMMOを楽しむらしいですよ  作者: 笹桔梗
第1章 チュートリアル編
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第11話 農民、大蛇と戦う

「よし! その調子だ! ぷちラビットの動きも見つつ、あっちのノーマルボアの攻撃にも注意しろ!」

「わかった! てか、でかいな、あの蛇!」


 こっちに向かって、直線的に体当たりをしてくるぷちラビットをかわしつつ、視線は大きめな蛇へと向ける。


 森の入り口にたどり着くまでに、ぷちラビットを何匹か倒して。

 そして、『お、ようやく、森か』とか思っていたら、いきなり、この大蛇が姿を現したのだ。

 いや、どこがノーマルなんだよ、あの蛇。

 普通に三メートルぐらいあるんだが。

 地を這ってるんじゃなくて、頭を起こして、こっちを睨んでいるんだが、その高さだけでも、俺の身長より高いぞ?

 初っ端から、随分と大迫力なモンスターだな、おい。

 他に、二匹ほど同時にぷちラビットとも一緒に遭遇してるんだが、そっちは手のひらサイズで、比較するとかわいくてしょうがないぞ。

 おまけに、体当たりの衝撃こそ怖いが、動きがまっすぐなせいか、対応しやすいし。


「見た目はでかいが、動き自体はそれほど速くないんだ。だが、油断はするなよ。一応、ゆっくりでも体当たりもしてくるし――」

「そっか! だったら、先にちょこまかしてる方を倒した方がいいな!」


 一度にうさぎと蛇を対応するのは大変だ。

 まずは、弱い方を潰す!

 ぷちラビットなら、ここに来るまでに倒し慣れてるしな!


「爪を食らえ!」

「ぷぎゅう!」


 体当たりをしてきたぷちラビットの攻撃を回避して、その隙だらけの横っ腹へと、切り裂くようなイメージで、両手で攻撃する。

 ショートソードではなく、爪を使った攻撃をしたのはスキルレベルを上げるためだ。

 何度かすでに試したが、間合い自体はかなり近づく必要はあるが、威力に関しては、普通に拳で殴りかかるのと、ショートソードを使って切り裂くとの間くらいのダメージがあるようだ。

 攻撃する瞬間、ちょっとだけ爪が伸びて、それが終わると元の長さに戻るのだ。

 右手と左手で交互に繰り出せるので、なかなか連続攻撃としては使えるんだよな、この『爪技』スキルって。

 うん、思ったより悪くないな、もぐら族。

 体術とかと組み合わせると、面白いことになりそうだ、この『爪技』。


 そのまま、何度か攻撃すると、ぷちラビットが力尽きて倒れた。

 まあ、この攻撃の欠点は、五本爪による攻撃なので、けっこう、終わった後の傷がひどいことになるんだよな。

 たぶん、これだと、はぎ取った素材の品質がかなり悪いぞ?

 そういう意味では、もうちょっと考えた方がいいかもしれない。


「おい、セージュ! 意識を逸らすな――!」

「えっ!? うわっ!? 痛っ!?」


 どん! という衝撃を横っ腹に受けて、身体が少しだけ飛ばされる。

 何だ!? 今のは!?

 痛みを感じて、腹の部分を見ると、どろっとした液体のようなもので濡れているのに気付いた。


「何だ、今の?」

「ノーマルボアの攻撃だ。説明の途中だったが、あの蛇、動きは遅いが遠距離でも、口から水弾を吐いてくるんだよ」

「そうなのか!?」


 あー、なるほど、つまりはこのドロッとしたのは蛇の唾液まじりの水ってことか。

 あれ? ちょっと待てよ?


「蛇ってことは、もしかして、毒か、これ!?」

「いや、それは大丈夫だ。まだ、ノーマルボアは危険度が低い方だからな。身体に毒は持ってない蛇だ。体当たりと、水弾に気を付けるだけでいいぞ。てか、だから油断するなって言ったろうが。複数の敵を相手にする時は、両方に意識を残すのが基本だぞ」


 ノーマルボアが離れてるからって、うさぎ倒すのに集中し過ぎだ、と呆れたようにカミュが言う。

 ああ、それに関しては俺も反省だな。

 毒液じゃなかったとはいえ、けっこう痛かったし。

 ドロッとしてまとまっていたせいか、けっこう重かったぞ、今の水弾って。

 俺の身体ごと飛ばされるくらいだし。


 とにかく、カミュの方も残ってたぷちラビットを片付けたようだし、改めて、ノーマルボアへと集中する。

 ぷちラビットの攻撃がかわしやすかったせいか、ゲームの中でまともにダメージを受けたのは今のが初めてだしな。

 何気に、よそ見して躱せるようなゆっくりした速度ではなさそうだ、その水弾。


「鎧のないところで受けないように注意しろ。特に、頭部な。今のセージュなら、良い角度で直撃すれば、意識飛ばされるぞ」


 下手すりゃ、死ぬな、とカミュ。

 その言葉を聞いて、あることを思い出す。


「そういえば、カミュ。このゲームの場合、死んだらどうなるんだ?」

「ああ、一応、エヌが管理してる世界だったら、死んだ直後に最寄りの教会へと送られるみたいだな。何だっけ……確か、『死に戻り』、か? まあ、それでもただじゃあ済まないらしいがな。あんたらの意識は、元の世界へと戻されるし、しばらくはこっちに戻れなくなるはずだ。エヌのシステムによって、死んだ身体が修復されるまではな」

「そうなのか」


 なるほど。

 あー、良かった。

 一応は、死に戻りのシステムはあるんだな。

 同時に、デスペナルティもしっかりあるようだが。


「あんたらの世界の時間で、日付を跨ぐまではダメだって話だ」

「なるほど、つまり、死んだら、次に来られるのは翌日ってことか」

「まあ、そうらしいが……あたしには理解できない感覚だな」


 そう言って、カミュが肩をすくめているのがちらりと見えた。

 今、俺たちが話している間も、ノーマルボアが時々、こっちに向かって水弾を撃ってきている。

 ただ、カミュはぷちラビットを倒した後は、少し離れた場所で静観しているようだ。

 まあ、あくまでも俺についてきているだけみたいだし、後は頑張れってことらしい。


 ただ、カミュの話を聞いた感じだと、カミュたちNPCは死に戻りはないのかも知れないとは思った。

 カミュ自身は、死んだことはないらしいし、その、エヌって相手から説明こそ聞いてはいるようだが、ピンとは来ていないという態度をしているし。

 もっとも、それがすべて演技だって可能性もあるよな。

 俺も、心のどこかでは、カミュの中の人が運営側の人間じゃないか、って疑ってるし。


「他に死んだらペナルティみたいなものはあるのか?」

「身体とかは元に戻るようだが、装備品とか持ってるアイテムの破損とかは、修復するつもりはないって言ってたな。あ、そうそう、あんたが着てるその革鎧、一応、教会のもんだから、あんまり壊すなよ? ホルスンの罰が当たるぞ」

「いや……好き好んで壊すやつはいないと思うんだが」


 借り物だから、その辺は気を付けるけどさ。

 目の前の大蛇とか、誰もが無傷で倒せるとは限らないんじゃないのかね?

 動きがゆっくりということもあって、蛇の目と、口から水弾を吐き出そうとする時の後ろに少しだけ反るような仕草に注意すれば、何とか攻撃パターンは読める。

 なので、その攻撃を回避した直後に間合いを詰めて、ショートソードでの攻撃を繰り返す。


「この野郎――!」


 ノーマルボアの皮膚を切り裂くたびに、その体液が飛び散っていく。

 てか、やっぱり、近づくとかなり怖いぞ、この大きさの蛇は。

 こっちも勇気を振り絞るために、思いっきり叫んだりしないと身体が竦めるような感覚があるし。

 下手すれば、向こうの熊より大きいしな。

 この距離だと、迫力なら熊の方が上のような気もするが。


「うわっ、っと!?」


 うわ、危ねえ!? 思いっきり、尻尾の方を振るって来やがった。

 間合いが狭くなったら、頭を振って頭突きみたいなこともしてきやがるし。


「あー、頑張れ頑張れー」

「いや、適当だな、おい!?」


 我関せずって感じで、応援してくるカミュの声を背に受けつつ。

 ようやく、対峙していたノーマルボアの首の部分の傷が深くなって来た。


 ――――そこを狙う!


「これでとどめだーーーっ!」

「――――――――――――――!?」


 俺の全力を乗せて、ショートソードを振り切る。

 と、ノーマルボアの断末魔の叫びと共に、その首が落ちて。

 分断された頭と、胴体が力を失って崩れ落ちた。

 まだ、胴体の方がぴくぴくと動いているので、そちらも半分になるように斬りつけて。

 ようやく、動かなくなったノーマルボアを見て、力を抜く。

 気が付けば、俺自身も身体が脱力していた。

 呼吸が荒い。てか、戦っている時は変なテンションだったせいか、今頃、かなり息苦しくなってるのに改めて気づかされた。

 

 うわ、けっこう、きついな、これ。

 ぷちラビットとの戦闘とはまったく別物だろう。

 かなりの間、殺し合いって意味での緊張感の中にあったからな。

 それが例えゲームだとしても、ここまで感覚がリアルだと、山で熊に出くわした時みたいな恐怖感もそれなりにあるしな。

 カミュと戦闘中に言葉をかわしていたのも、これがゲームだって、思い込まないと身体が竦んだから、ってのもある。


「よーし、よくやったな。ふふ、あたしの見込み通りだ。新米冒険者でも、このノーマルボアを単独で倒せるくらいなのは少ないからな」


 カミュから労いの言葉をかけてもらう。

 そもそも、このノーマルボアって、数名のパーティーで戦うくらいで新米冒険者にとってはちょうどいいって強さのレベルなのだそうだ。

 一匹で現れるとも限らないし、もしまともに体当たりとかを食らえば、それが大ダメージにつながることもある、と。

 もちろん、カミュぐらいになると、単独撃破とかも、そう難しい話じゃないらしいが。


「いよいよとなれば、手伝うつもりだったしな。ま、何にせよ。討伐系のクエストの課題としては、合格だよ。よくやったな、セージュ」

「ああ、ありがとう」


 そう、俺が笑顔を返すと、更にカミュが良い笑顔を浮かべて。


「よし、それじゃあ、さっさと解体するぞ、この蛇。ほら、ぼさっとしてるとまた別のモンスターがやってくるかも知れないぞ。急げ急げ!」

「うわ!? 容赦なしかよ!?」


 せめて、呼吸ぐらいは整わせてくれよ、とぼやきながら。

 カミュの無茶振りに嘆息しつつ、俺はノーマルボアの解体へと取り掛かった。

この作品では『ボア』=『大蛇』でお願いいたします。

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