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死して尚、死ぬ者

処分屋 守屋祐の怪異譚

『過去からの襲撃者』と『禍ツ狂い(前編)』の間の話です。

 人は死んだ後どうなるのか。

 それについては最初に触れたように、あの世へ行くことになる。

 天国か地獄か……。


 だが、何らかの未練や思いを残した者については、その限りではない。

 基本的に天国からの導きの光を拒絶した者達だ。


 その者達は、何故、自らの死を受け入れず、天国へと向かわないのか。

 人に見てもらうことも少ない霊となってまで……。


 それは人…霊自身にしか分からないだろう。

 ただ言える事は霊になれば苦しい存在になるということだ。


 人に知られることなく、触れられることもできない。

 生きていた時には当たり前にできたことが、できなくなる。

 霊を見えない者には存在すら認めてもらえない虚無な者。


 あの世とこの世の狭間を彷徨さまよう霊

 霊が求める世界はそんな狭間の世界なのか……。


 狭間の世界に残った霊は何を思い、何がしたいのか。今回はそんな話をしよう。


    ・   ・   ・


11月上旬

 祐は天野原大学病院の入院病棟へ向かっていた。


 先日、仕事終わりに弥生の愚痴の相手をしていた時に急に腹痛を訴え出したのだ。

 話しを聞けば盲腸とのことで、5、6日の入院が必要となったのだ。

 お見舞いとゆっくりな時間のお供になる本を買って病室に向かっていた。


 しかし、病院という所は不思議なものだと思う。

 命の誕生から、人の死まで……。人間の人生は全て病院から始まり終わる。

 良いか悪いかは別にしてだが、それだけ人にとっては病院が人生の大部分に関わってくる。


 人の死を嘆く声、人が生まれたことへの歓喜の声、病気が良くなった安堵の声、病気に苦しむ声……。

 これも良い悪いの声で、病院内は埋められている。

 この空間の中で働ける人達の精神力は並大抵のものではないだろう。


 そう思いながら病室に向かっていると、今度は嬉しそうな泣き声が聞こえてきた。

 患者に抱きついて、涙声で喜びの言葉を上げている。


 とても心配していたのだろう。何度も無事を喜ぶ声が聞こえる。

 その光景には思わずこちらも嬉しくなってしまう。

 そんな光景を横目に弥生の病室に向かった。


 綺麗な個室にしたとは言っていたが、扉からしてデカい。

 ノックをすると招く言葉が聞こえたので扉を開く。


 物自体はあまりなく、白く清潔な空間に、室内に洗面台とトイレの部屋が設けられている。

 窓際の大きなリクライニングベッドを少し上げて、弥生は少し疲れた顔をしていた。


 「や。弥生ちゃんの疲れた顔は二日酔いの時以外で初めて見たかも」

 「祐くん……。普通は私を気遣う言葉を口にするのが最初じゃないかしら?」

 弥生の言う通りなのだが、それは聞き飽きているだろう。

 それならいつも通りの軽いノリで話したかった。


 「まぁまぁ。ここに来たってだけで気遣いがバンバン伝わるでしょ?」

 「そうねぇ。まあ、暇だから話し相手になるぐらいのことはしてもらえるしね」

 「そうそう。弥生ちゃんが仕事に戻んないと、事務所に依頼しづらいじゃん」

 「入院した人にいきなり仕事を振る気? 皆とは面識があるんだから、頑張ってコミュニケーションぐらい取りなさい」

 全くもって、その通りな事を言われた。


 でも、弥生のお父さんは怖い。他の人で若い人もいるが、俺とは合わない。

 つくづく弥生の存在が大きいことを知らされた。


 「でも、俺が弥生ちゃん以外に頼んだらジェラシー感じない?」

 「感じないわよ。むしろ成長したって、嬉しく感じるくらいよ」

 「いや~、意外に女心は読めないからねぇ。言葉の裏から感じ取らないとね」

 「呆れた。いつからデキる男発言をするようになったのかしら」

 弥生の仰る通り。ジェラシーを感じるかどうかは別として、女心を読むことができればデキる男になるのだろう。


 「意外にデキる男を見せようか?」

 「そうなの? じゃあ、じっくり見させてもらおうかしら」

 「また意地悪な……。はい、これ。弥生ちゃんの好きな作家さんの新刊」

 鞄から取り出したのは、弥生の好きな刑事ものの最新刊だ。

 なかなかにエグイ描写があるのに、それが好きなのもどうかと思うが……。


 「へぇ~、ホント意外にできるじゃない。成長してるようね」

 「ありがと。素直に喜んでも良いんだよ?」

 「はいはい、ありがとありがと。じゃあ、楽しみに読ませてもらうわね」

 弥生にあしらうように扱われたが、その目から優しい感じが伝わってきた。

 嬉しく感じてくれたのだろう。そう思うとお見舞いに来て本当に良かった。


 「じゃ、そろそろ帰るね。長期連休なんだから、仕事を忘れてゆっくり休んでね」

 「ありがと、祐くん。祐くんは仕事、頑張ってね」

 仕事が大量にある弥生の事務所と比較されると、うちは暇なもんだ。

 あいまいな表情で頷き、病室を後にした。


    ・   ・   ・


 家に帰るための道は隣の市へと繋がるものだが、辺鄙な片側1車線の道路である。


 主要の幹線道路は別にあり、ここを通る車は精々ドライブがてらの人間だろう。

 コンビニも幹線道路の近くにしかない為、ちょっとした買い物はここで済まさなければならない。


 そんな道を走っていると道の脇に一台の車が停まっていた。


 あまり見かける光景ではない。

 車の中に人影はない。そう考えていると、横の雑木林に人影が見えた。


 これはまさか……。すぐに車を脇に止めて駆け出した。

 だが、その人…女性に辿り着いた時には首をくくり、苦痛の表情を浮かべていた。


 すぐに人命救助を行う。合わせて救急車と警察に連絡しながら、人口呼吸を繰り返す。

 首を吊って初期の段階だと思うが……。

 とにかく救急車が来るまで、ここにいなければならない。


 女性が救急車に乗せられているのを見ていると、警察から事情を聞かれた。

 下手なことは言わずに無難に返した。後日、警察署で話を聞くかもしれないとの言葉にも頷いた。


 翌日、帰宅していると頭に思い浮かぶのは、昨日の自殺の件だった。


 女性が自殺を選んだ理由は分からない。

 ただ、彼女に誰か大事な人がいたとしたら悲しい選択だろう。

 その選択を取っても悲しみから逃げることができるのは本人だけなのだ。


 悲しみから逃げても、誰かがそれを引き継がなければならない。

 愛が深ければ尚更、その悲しみは増幅して重く圧し掛かってくる。


 事故で死ぬのも、自殺するのも、残るのは悲しみ。

 誰も喜ばない死ほど苦しくて悲しいものはない。

 死んでないにしても、それに走らせてしまったことに対する負い目も、また悲しみを増長させる。


 何故あの時、気付いてやれなかったのか……。と思うだろう。

 そんなのは分からない。気持ちは察せても、どう行動するかなど分からないのだ。

 そう思っていると女性が自殺を起こした場所の近くにさしかかった。


 何気なく車を降りて、雑木林の中に入る。

 すでに縄や踏み台は撤去されているようだ。


 自殺を選んだ痕跡は、ここには残っていない。

 何も残っていない場所から立ち去ろうとした時、半透明な女性が俺の横を通過した。


 思わず振り返ると女性は見えない台に上るように、何もない空間に足を上げた。

 女性は宙に浮くように立つと、木の大きな枝に何かを掛けるような動作をしている。

 これはもしや……。


 少し女性はためらっている。

 息を飲んでしまったが、彼女は……。


 「待て! 死んではいけない……。死ぬようなことをしてはダメだ!」

 女性は変わらずためらっている顔をしている。

 聞こえていない……? 呪縛霊のような存在になってしまったのか?


 「…別にいいでしょ? …もう、私には生きる意味なんてないんだから……」


 そう言い終えると、女性は何もない空間から急に下がり、首が限界以上に伸びて宙をぶらついた。

 苦痛に満ちた顔を見せながら、女性は消えていった。

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