ハンティング
車のトランクの二重底から退魔用武器や道具を取り出す。
体に装着をしていると、女性が森の入り口で待っているのが見えた。
あとは俺の準備待ちかと思い、銃のホルスターのベルトをきつく締めた。
「すいません、お待たせいたしました」
「いえ、こちらこそ、ごめんなさい。あの…、あなたもハンターなんですか?」
女性と合流し、森の中に足を進めながら、話しをする。
多分、こちらの装備などを見て、そう思ったのだろう。
「そうですね……。まあ、色々です。ハンターの仕事は初めてですけどね」
返答に窮したので、ざっくりとした回答をした。
最後の言葉は明るくおどけたが、少し失言だったかと思った。
「そうなんですね。それなのに手伝っていただいて、ありがとうございます」
女性は俺の後ろを歩きながら、お礼を述べた。
「いえいえ、私はあくまで彼の元へあなたを送るだけなので。
まだ銃声が響いてこないので、接触はしてないようですね」
「…はい。早く合流しないと、1人では……」
女性の声が暗いものになった。不安を煽ってしまったか?
「では、もう少しペースを上げましょう。ただ、警戒は緩めないようにしないとですね」
女性に振り返り、笑顔を見せながら言った。
これに女性も頷いたので、湿り気を帯びた森の地面を足早に進んだ。
そういえば、自己紹介もしてない。
あと聞くのが良いのか分からないが……。
「自己紹介が遅れてました、私は守屋 祐と申します。少しの間、よろしくお願いいたします」
少し軽めに自己紹介を済ませる。女性も少し面食らった顔をした。
「ごめんなさい、こちらこそしてませんでした。二階堂 由美です。本当にありがとうございます」
一旦、女性は足を止めて、自己紹介の後に頭を下げた。
しっかりした人ではあると思ったが、こんな普通な女性が危険なハンターをしているのか。
それが単純に知りたかった。
また、歩みを進めながら由美に声を掛ける。
「…あの、言いたくないかもしれませんが、どうして『マンイーター』のハンターを? 命が危険に晒されるのに」
かなり直線的な質問を女性に掛けると、女性は少し目を背けた。
「……彼の妹さんが襲われたんです。それから彼は、この為に生きるようになりました。どれが妹さんの仇か分からないのに……」
悲痛な声にも聞こえる響きで女性は小さく言った。
ただ、よくある話ではある。
ヴァンパイアも場合によっては人をグールに変異させたりするし、血を残らず吸って殺すことも多い。
だが『マンイーター』は同等か、それ以上に酷い。人を食すため、その亡骸は酷い有様だ。それを見せられた者達の心の傷は深いだろう。
しかし、ヴァンパイアと違って、『マンイーター』は強いものではない。
今回のように人数が多ければ、倒すのに苦労はしないだろう。
森の中を足早に歩いていると、銃声が響いてきた。
『マンイーター』と接触したものと思われる。
女性を見て頷くと、女性も頷いた。
滑りやすい足元に注意しながら、全力で駆け出した。
響いた銃声も最初の数発だけで、それ以降は森に平穏が戻ったように静かになった。
戦いの結果が悪いものでなければ良いが……。
駆ける足を緩めることなく走り続けると、少し離れた所に人影が見えた。
1人は右腕を肩の近くまで、ごっそりと失っている。
それを担いでいる女性が、しきりに男性を心配しているようだ。
「大丈夫ですか!?」
思わず大声を上げてしまった。
現状を今更理解して、自分の迂闊さに苛立った。
すぐに辺りを見回して、『マンイーター』の存在を確認する。
それに合わせて、集中して霊力の流れを追ってみる。
だが、ここからでは嫌なものは察知できなかった。
「それ以上、近づかないで……」
厳しい顔をした短髪の女性が、俺達に向けて銃口を向けている。
何故、こちらに武器を向けているのか……。
「でも、そちらの方の手当てをしないと」
「あんた達が『マンイーター』じゃないって保証がないからね」
女性はいぶかしんだ目でこちらを見ながら、俺と由美、交互に目と銃口を動かした。
そういえば、あの若者が言っていた。
『マンイーター』は他の生物にも化けることができる。
どこまでのレベルかは分からないが、人間を模すことができるのだ。
「それでは、せめて彼の応急処置用の物をお渡ししますので、止血だけでも。
あと、我々は下がりますから。これで良いでしょう?」
先ずは大怪我の男性の治療が先だ。それには、疑いを晴らせないまでも、遠ざけることができれば受け入れてくれるだろう。
「…分かった。正直、大半の道具を置いてきてしまってたから……」
「無理もないと思います。では、投げますね」
女性が苦渋に満ちた顔をしている。それにできることはないと思い、応急処置セットを投げた。
投げた後、俺と由美は後ろに下がった。
女性はそれを見て、銃を下ろして、治療に取り掛かった。
少し安心していると、由美が2人をしきりに見ていた。
そうだ。由美の彼氏が来ていない。ここにいる男性は黒の短髪だ。
そうなるとまさか……。
「あの、あなた達は4人で行かれましたよね? 他の方は……?」
聞きたくない事だし、大体の見当は付くが知る必要がある。
「…死んだよ。今回のは馬鹿デカい『マンイーター』だったんだ……」
「すいません……。あなた方と一緒に行った男の人は……?」
「…あなたの連れだったの? 最初に襲われた……。いきなり丸呑みにされて、やつの中に……」
短髪の女性の言葉に、由美は腰が砕けたように地面に座り込んだ。
無理もない。確実に命を奪われただろう。
しかし、人を丸呑みにできる程の大きさになっているとは……。
余程、頭の切れるやつに育ってしまったのだろう。
由美がへたり込んでいるのを元気づけることもできず、周囲を警戒し続けた。
横目で見ると、短髪の女性は応急処置を済ませているようだ。
「どうやら終わりそうですね。救急車を呼びましょう。それは私が、」
すぐに異変に気付いた。右側の大地が盛り上がってきている。
その土山が爆発するように飛び散ると、そこには『マンイーター』が大口を開けて飛び掛かかって来ていた。
「なっ!?」
すぐに体を『マンイーター』の進行方向の横に回るように、飛び退く。
そのまま左手で、腰のホルスターからピースメーカーを取り出し、撃鉄を起こして、引き金を絞る。
横っ腹に銀の銃弾がめり込むと、不快な叫び声を上げて、そのまま森の土の中に潜って行った。
痛手ではあっただろう。だが、致命傷にはなりえない。
一瞬しか見えなかったが、顔は人のようだが、頬から顎までが異常に大きい。
手が肩から2本ずつ太いのが生えている。体自体は人間と変わらず、肌色をしていた。
しかし、デカかった。おそらく、5メートル以上はあるだろう。
それに加えて、あの俊敏さに、土を一気に掘り返すような力……。
ただ、直前まで霊力を感知できなかった。
土の中に逃げると、また霊力を感じなくなった。
霊力を隠すこともできて、あの巨体……。
禍ツ喰らいが使えないことが恨めしい。
銃を構えながら、辺りを見回そうとした時、直上から霊力が急に降り注いできた。
顔を上げると、口を限界まで広げて涎が垂れるのと同時に『マンイーター』が降ってきていた。




