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マンイーター

 男が放った言葉、『マンイーター』に頭の中が占拠された。


 『マンイーター』。主に食人鬼を指す言葉、怪異の1つだ。

 もとは自然発生的なグールや、それに近い何かが人や動物の腐肉を漁って成長する。

 その凶暴さは少しずつ顕在化し、更に腐肉が多いであろう人里に下りてくるので、退魔士等に退治されやすい。


 だが、一部の『マンイーター』は違う。

 人の腐肉を漁り、漁り続け、人の味を占めるようになる。

 こうなるとやつ等の主食は腐肉では飽き足らず、より良い鮮度の生きた人間になる。


 ただ、それも何かしらの問題を起こして、退治されるのがほとんどだ。

 そうなると、この男達は人の味を占めたものを退治しにきたのか?


 「また、少しだけ顔色が変わったな。同業者…という訳ではなさそうだが、その類に詳しいということか」

 細面は俺から目を逸らして言った。

 納得したものとして、さっさと退散するのが良いだろう。


 「どういうことだ、佐久間。そいつはハンターじゃないのか?」

 小太りの男が、細面…佐久間とやらに問いただした。

 自分の存在が異質である為、細かく知りたいのかもしれない。


 「清水、あまり大きな声を出すな。…おそらくは違うだろう。こいつは1人だったからな」

 佐久間は小太り…清水という男に小さな声で、押し黙らせる力強さを込めた言葉を発した。


 佐久間の一言で露天風呂の中は静まりかえった。

 温泉にお湯を注ぐ音だけが響いている。


 「まあ、今の通りです。そちらに多少は詳しいですが、専門外なので。

 あなた方のご武運をお祈りしております」

 厄介事はごめんだ。さっさとこの状況から逃げ出そう。


 「それが良いだろう。おそらくだが…他の宿泊客にもハンターがいる。

 あまり接触はしない方が得策だと思う……」

 佐久間の言葉から、旅館に漂っていた空気の正体が分かった。


 おそらく、『マンイーター』の情報網があるのだろう。

 それがあって、ここにハンター達が集結している。


 少し助けるか悩んだが、下手なことに巻き込まれるのはごめんだ。

 それにかなりのハンターが集まっているなら、退治するのも難しいものではないだろう。


 佐久間に向けて、頭を下げて露天風呂を後にした。

 『マンイーター』……。ヴァンパイアとまた違った、嫌われた存在。

 いや、ヴァンパイアよりも残虐だろう。人が食料なのだから……。


    ・   ・   ・


 旅館中に響き渡る悲鳴によって、目が覚めた。


 布団を蹴り上げて、素足のまま、旅館の中を駆けた。

 悲鳴の出所に辿り着くと、酷い光景が広がっていた。


 肉を貪られた跡を残した人が倒れている。

 頭部や胸部等の食べづらい所は避けて、骨から肉をこすり取ったかのように、骨に少しだけ肉が残っている。

 へたり込んでいる仲居さんを他所に冷静に観察していると、人が集まってきた。


 集まった中には嘔吐する者や悲鳴を上げ目を背ける者もいたが、何名かは死体を見据えていた。

 こいつ等がハンターなのだろう。顔色から判断するに8人はいる。


 先日の3人を含めて、こんなにいるのか……。

 それに女性も2人いる。どれだけ恨みを買う存在なのかが分かる。


 その8人は静かにその場から離れていった。

 おそらくは『マンイーター』を退治する為の準備だろう。


 しかし酷いものだ。これが『マンイーター』が恨まれる要因と言ってもいい。

 ただ、気になったのは、従業員の殺され方だ。


 ただの『マンイーター』であれば、食すのに時間が掛かると思う。

 だが、発見されるまでに時間が掛かっているような気がする。

 ここまで綺麗に食べるような時間はあまりないだろうから、もう少し早く見つかるのでは?


 観察をしていると、すぐに昨日とは別の3人組が旅館を飛び出した。

 それの後に続くように1人の男性が飛び出していった。


 「え!? ちょっと待ってください! 皆で協力して!」

 何を考えているんだ。他の者達と協力した方が、撃退できる確率も上がる。


 「言っても聞きゃしないっすよ」

 昨日の3人組の若者が声を掛けてきた。


 「何でさ? 数が多いに超したことはないんじゃないの?」

 「『マンイーター』は場合によっちゃあ、人に化けるんすよ。まあ、それ以外にも化けるみたいっすけどねぇ」

 若者の言いたいことが分かった。自分達以外は信用できない。

 もしかしたら『マンイーター』が化けている可能性があるからだ。


 「じゃあ、君達は何かの符丁のようなもので、お互いを確認しているってことか」

 「そです。なんで、俺達は俺達以外を信用しないんすよ」

 若者は少し得意気に言った。こうなると、数よりも信頼が勝るということになる。


 下手に連携を組めば、揃って皆殺しになりかねない。

 そう思っていると別の声が聞こえた。


 「すいません! あの、髪が癖っ毛で茶色がかった男の人が出て行きませんでしたか!?」

 顔色を変えなかった内の1人が俺達に駆け寄ってきた。


 「多分ですが、4人の内の1人だったと思います。置いて行かれたんですか!?」

 「はい……。色々と準備をしていたんですが、先に準備を済ませてしまったようで……」

 連携が命のハンターで1人だけ突出してしまった。これはかなり不味い状況だろう。


 「おい! 明石! 俺達も行くぞ!」

 「うぃっす! じゃ、あんま来ない方が良いすよ」

 若者…明石は軽やかな口調と動きで、外で待っている2人に合流しに行った。


 「…行かれないんですか? 今なら、間に合うかもしれませんよ?」

 うつむいている女性に声を掛けた。

 先に行ったにしても、急げばまだ間にあう。


 「はい……。でも、今まで彼がいたから戦えていたので……」

 女性の声が暗くなった。男性がアタッカーだったのだろう。

 そうなると女性はサポートか……。


 ここまで来て、放置するのは性に合わない。

 女性と男性が合流するまでは手伝うとしよう。


 「少しだけ待ってください。あなたが男性と会える所までは付いて行きますから」

 「え!? いいんですか? 本当に?」

 「はい、それなりに物はあるので、まあ、何とかなるでしょう」

 女性の顔が少し明るくなったのを確認して、車に向かう。


 幸い、退魔用武器や道具は持って来ている。

 あとは祝福の手を使えば、とりあえずはしのげるだろう。


 そう考え、車のトランクを開いた。

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