歪な食物連鎖
人間は食物連鎖の頂点に立つ生き物だと言われる。
それもそのはずだろう。多くの命を食べて、蓄えてきたもの達を食すのだから。
そんな人間も死ねば土に帰り、微生物などによって食べられ、次の命に繋がって行く。
結局は食物連鎖の頂点とは言っても、生と死の流れの中で、より多くの命を食べることができるだけなのだ。
そう…小さなもの達を大きなもの達が食していき、その最後を人間が食すのだ。
誰もが生きる為に他の生物を食す。それが自然界では当然なことである。
だが、人間は他の生物とは違う点がある。
自分達の食するもの達を、自分好みに、より美味しく改良や配合などを行う。
ただ生まれて、生きる為に食するのではなく、自分達の味覚を更に満足させる為に、他の生物を改良する。
食物連鎖の中で歪な関係を作った人間は、一番上等な食物になるだろう。
それは人間を食べた事で、人間を標的とする生物が度々いることからも分かる。
しかし、普通は人間を食べることはできない。人間には知能と武器があるからだ。
別の生き物から襲われても、撃退する力が人間にはある。
だが、もし、その力が及ばず、人間を主食とするような者がいれば、どうなるのだろうか。
知能を持ち、力を持ち、人間を食物として見なす者が現れたとしたら……。今回はそんな話をしよう。
・ ・ ・
10月上旬
祐は出前の寿司を、家の門の前で受け取っていた。
寿司屋からだいぶ離れた場所に家があるので、届けてもらうのに少し抵抗があった。
ただ、宅配をすることを強調もしているし、自分の帰り道とは違う方向にあるから買って帰るのも面倒だ。
それなら家に来てもらった方が楽だし、鮮度もそこそこ良いだろう。
そう思いながら、プラスチックの容器に入ったお寿司を持って家に入った。
食堂に向かっていると、シュタルクが申し訳なさそうな顔をして出てきた。
そもそも出前を頼んだのは、シュタルクにたまには楽をしてもらいたいと思ったからだ。
「祐さん、申し訳ありません。料理でしたら、あまり苦に感じた事はないのですが」
まだ申し訳なさそうな顔をして言った。
しかし、そうであっても面倒になることもあるだろう。
「いえいえ、いつもお世話になっているので、たまには楽をしてください。
それに普段ではあまり食べることもできないと思いますので」
明るくシュタルクに言い、食堂に入る。
食堂では完全に腰を据えているリリエールとマゴロクがいる。
ワラベエはシュタルクから何か言われたのか、食器などを椅子を使って揃えている。
「もう…、ワラベエが頑張ってるんですから、2人も何かしたらどうですか?」
見たままのことを言った。
「なぁに、化け物人間が買った食事を楽しみに待っておったのだぞ?
静かに座って待つのが礼儀であろう?」
「俺は酒を出しといたぜ。寿司には酒が合うだろ?」
2人共、何という自己中心的な事を言った。
テーブルにお寿司を置き、ワラベエの頭を撫でてから、椅子に座らせる。
シュタルクも椅子に座ると食事を始めた。
刺身自体は時々買っている。
と言うか、マゴロクから要求されるので買っている。
「このお寿司というものは、お刺身とまた違った味なんですね」
少し感心するようにシュタルクは咀嚼を完了して、口の中の味を確かめるように言った。
「そうなんです。やはりシャリがあるのが、大きな違いかもしれませんね。
ご飯にお酢を入れたものですが、程よい酸味がお魚の味を強調してくれる感じがしますね」
シュタルクと同じように寿司を食べて語った。
「ふむ、やはり生魚は口に合わんな。そのシーチキンとやらをもらおうか」
リリエールは生魚はやはり好みではないようだ。
でも、何で俺がリリエールの分を取って、渡さなければならないのだろうか。
「守屋、寿司も良いな、酒が進む。今度、また買って来てくれ」
流石は日本人のマゴロクだ。舌にかなり馴染むのだろう。
寿司を食べては、お酒を飲み、食を存分に楽しんでいる。
「分かりました。でも、リリエールさんやシュタルクさんに合わせた物も買いたいので、そんなに頻繁には買えませんよ?」
マゴロクはただでさえ、お酒を飲むのに、これ以上個人的嗜好を要求されても困る。
「祐さん、私はこれはこれで美味しいですよ。また食べたいと思います」
「わしは、またピザとやらを食べたいのぉ。手が汚れるのが気にくわぬが」
シュタルクの広い心と、リリエールの勝手な要求を聞き、曖昧な顔をしてしまった。
「まぁ、他に食べ物は色々ありますからね。皆で美味しく食べれるものが見つかると良いですね」
そう言うと、それぞれが納得したように、少しだけ頷いてくれた。
こう言ったはいいが、我が家のエンゲル係数の上昇が気になってきた。
・ ・ ・
式神と共に探偵業に勤しんでいた。
相変わらずの浮気調査だ。
妻のいぬまに、浮気相手との温泉旅行とは。
その背徳感がおそらく快感なのだろう。
しかし、そんな快感もいずれは絶望に変わる。
今を精一杯楽しんだツケが回ってくるのだ。
旅館に入る所や、仲睦まじく浴衣で腕組みしている所も確認できた。
証拠としては十分だろう。明日、止めの証拠を確保しようと思い、式神に調査続行を指示した。
俺は近くに止めていた車に乗り込み、今日の宿を探す。
どうやらこの山を上って行った先にも旅館が有るようだ。
あまりここから離れていないので、そこに向かう事にした。
旅館に到着して、駐車場に車を止めようとしていると、誰かがワゴン車のトランクで何かをしていた。
その時に一瞬だけ見えた。退魔用に装飾されたショットガンと、なにがしかの投擲武器だ。
男がこちらに気付くと、すぐにトランクのドアを閉めた。
触らぬ神に祟りなしというので、何も知らない振りをして車を止めた。
旅館に入り、問題なく本日の宿はゲットできた。
その間に数人の客が旅館内を歩いているのを見たが、何人かから漂う空気が違っていた。
さっきの退魔用の装飾を施した武器……。ヴァンパイアハンターか?
部屋に案内されがてら、周りに観光スポットなどがあるのかを聞く。
そうすると、ここから森に入り、かなり進んだ場所に壮大な滝があると言った。
平日なのにお客が多いと聞くと、事前の予約客もいるが、急に来た人が大半らしい。
部屋に通されると、早速浴衣に着替えた。
食事はもう時間外なので食べれない。少しだけ山の幸を堪能したかった気持ちはあった。
まあ、事前に食べておいたから問題はないので、風呂に向かうことにした。
風呂は露天風呂で、見上げれば澄んだ空気のお陰か星が綺麗に輝いている。
もう10月だ。山の夜は少し肌寒い。
だが、温泉から体を出して、足だけ入れていると柔らなか温かさに包まれる。
そうして1日の疲れを癒していると、3人の男性が露天風呂に現れた。
1人は俺より若い。オシャレなボーズカットをして、見た目通り活発そうな顔をしている。
もう1人は30代中盤か? 少し小太りだが、筋肉で盛り上がったもので、髪は短めに揃えている。
最後の1人は……。駐車場で見た男だ。
おそらくは30代か40代前半。全体的に細身だが無駄のない筋肉だ。
顔は細面で、眉間にしわが寄っている。全体的に険しい。髪は額の両側が少しだけ後退している。
「露天風呂とか良いっすねぇ~! 明日に備えて、たっぷり堪能しないとですね!?」
若者が体を一通り流して、楽しそうに顔以外の全身を湯船に浸かった。
「おい! あんまりはしゃぐな。他の人もいるんだからな?」
小太りの男性が若者を嗜めている。明日に備えて……?
小太りの男性も露天風呂に入ると、若者と何やら小声で話している。
どうやらあまり良い事ではない気がする。
湯船から早々に退避しようとした時、細面の男が近くに寄ってきていた。
「…お前はあれを見たんだろう? 一瞬で顔色を戻したが分かる。お前、何者だ?」
なかなか渋い声で、こちらを見ながら問いかけてきた。
その表情は乏しいものだ。どう言えば、無難に済ませられるか……。
「急に何の話をされているのか分かりませんが……。
あまり話すのもどうかと思いますが、私は探偵をしてまして。まあ、そういう事に慣れるように訓練をしてます」
さて、これで無難な回答になっただろう。
あとはこのまま探偵として逃げ切ろう。
「お前から感じる霊力は、そんなに軽いものじゃない。隠しているのだろうが……。俺には分かる」
霊力を感じ取られた? 普段からかなり抑えるようにしてはいたが、それを感じ取る程の者なのか?
「あまり人のことを詮索するのは良くないのでは? こちらばかり話すのもフェアじゃないでしょ?」
「そうだな……。俺達はハンターをしている。『マンイーター』のな……」
細面の男の言葉に、思わず眉間にしわが寄ってしまった。




