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モテ期の終焉

 プレシャス・タイムの扉を開ける。

 客の来店を告げるドアベルが優しい音色を奏でる。


 「いらっしゃいませぇ」

 「いらっしゃいま、ちょっ祐!」

 驚いた声を上げた三善の元へ急ぐ。


 「何でここに来たんや? 円ちゃんがおんねんぞ?」

 「三善……。こいつの解決方法はこれしかないんだ」

 「どういうこっちゃ? あかん、円ちゃんが来るで」

 横目で見ると円がトレイに水を乗せて、こちらに近づいて来る。


 「ああ、円ちゃん。祐の相手はわいがするからええよ。ホールに、」

 「円ちゃん、お疲れ様。今日も大変そうだね」

 三善が円を俺から遠ざけようとしてくれたが、それでは解決にならない。


 円の俺を見る目が変わりつつあった。

 怪異の力が発揮されてきたのだ。


 「あ、いえ、祐さんも…大変ですよね。いつも来てくれて…嬉しいです……」

 「俺も楽しいから来てるんだよ。三善や円ちゃんと話せるからね」

 顔がほんのり赤く染まってきたところで、更に追い打ちをかける。

 さあ、後もう少しだ……。


 「そうなんですね……。私も、とても楽しいです。…もっと色々と、」

 円の顔が完全に赤面になった。ここしかない。


 客の来店を告げるベルが響く。

 「あ、いらっしゃいませ」

 「いらっしゃい、あれ、天ちゃん!?」

 三善の驚いた声を耳で聞きながら、視線は天から外さない。


 「三善さん、円さん、こんばんは」

 そう言うと天は俺の横のカウンター席に座ると、円が慌てて注文を取りに近づいてきた。

 ここしかない。

 

 「ねぇ、天ちゃん」

 「何です、んん~!?」

 天が俺を見たところで肩を引き寄せて、無理やり唇を重ねた。


 唇を重ねたまま、円の目を見る。

 その顔は驚いた顔から、少し照れくさそうな顔に変わっていった。


 怪異が俺から離れていくのを確認し、薄くした百足で捕食した。

 この地獄から解放された……。処分完了である。


 唇を離すと、天は驚いた顔から少し怖い顔をしてきた。

 「祐さん! 急に何するんですか!? 人前ですよ?」

 「ごめんごめん。キスしたくなっただけだよ。確かに人前じゃ不味かったね」

 「当たり前です。こんなに明るい所では、金輪際しないでください」

 膨れっ面をしているが、少し嬉しそうにしてくれているのが嬉しい。

 騙すような形になったが、天が好きだからこそしたのだ。


 しばらくは三善からいじられることになったが、力が消えた安堵感からか楽しいものだった。

 しかし、人の望みを逆手にとるような、本当に恐ろしい怪異であったとつくづく思った。


    ・   ・   ・


翌日

 事務所に入るのに躊躇ちゅうちょしてしまう。

 だが、力はなくなったはずだ。きっと大丈夫。意を決してドアを開ける。


 「おはよ~」

 「おはようございますぅ~。祐さん、昨日は大変でしたねぇ」

 幸はいつも通りの気怠い挨拶をしてきた。

 それに昨日のことを大変だったと言えるのは力がなくなったからだろう。


 「大変どころじゃなかったよ。皆、話しにならないんだもん」

 「まあ、そうでしょうねぇ。どうやら怪異の力はなかなかに厄介なもんでしたからぁ」

 厄介なもの? それは確かにそうだが。


 「幸ちゃん、その怪異ってモテさせるだけじゃなかったの?」

 「違います。モテたのは祐さんの良い所を全開以上に引き出した為です」

 どういうことだ? 幸の言う通りであれば、そこまでの力はないと思うが……。


 「それって何? 顔とかじゃないよね? 精神的なもの?」

 「それは人それぞれみたいですね。ただ、ある程度、その人に対して好意的じゃないと効果はないようです」

 「じゃあ、俺の良い所が増幅されて、それに心が奪われてしまったって事?」

 「そうなります。良い所があるから、人から多かれ少なかれ好意を持たれます。

 祐さんの良い所がなんだったのかは不明ですが、知っている人からは悪くは思われてはいないようですね」

 俺の良い所が不明という厳しい言葉を幸は口にしたが、多少は好意を持たれていると思うと悪い気はしない。


 「なるほどねぇ。ま、嬉しい話ではあるね。

 ところでさ、今回の怪異って何であんなことをしたの?」

 目的は分かった。負の力を得る為に、人を絶望に落とす。なかなかにえげつない方法で……。


 「大体はモテなかった人の無念が集まって出来た怪異のようですね。

 大方、自分達と同じか、それ以上に苦しんでしまえ。という感じなんでしょうね」

 何と悲しい出自であろう。それなら俺も同類だったはずだ。彼女ができたら即対象とは恐ろしい。


 「そう言えば祐さん、どうやって力を消したんですかぁ?」

 「ああ、それは天ちゃんにお願いしてね。天ちゃんには力が及ばなかったから」

 「ほほぅ。それで円さんに何をしたんですかぁ?」

 「…円ちゃんの前でキスをした……」

 思い出すと赤面ものだ。あの時は怪異を処分することに専念していた為か落ち着いていたが。


 「なるほどぉ。円さんを一瞬惚れさせて、逆にフルようなことをしたということですかぁ」

 「ご推察通り。賭けだったけど、結果的に人に嫌な思いをさせて傷つけることなく処分完了。俺以外は万々歳だね」

 「祐さんにも良い事があったじゃないですかぁ。罪作りな男を1日体験できたんですからぁ」

 あんなのが罪作りなら一生要らないと思った。


 「ってことはさぁ、幸ちゃんの記憶の中に残っているってこと?」

 「はい、残念ながら。一生の汚点ものですねぇ」

 「酷っ!…まあ、強制はダメだよね。そのままの自分を受け入れてもらわないと」

 自分のまま……。自分が持っているものを、受け入れてもらえるものであることが、モテることに繋がるのだろう。


 「そうですねぇ。結局、祐さんは多少の水増しはあったにせよ、良い所を持っているっていう証拠ですもんねぇ」

 幸の言葉が嬉しい。良い所……。自分では分からない所も多いだろう。でも、周りはそれを知っている。


 「だね。嬉しい事だよ。やっぱり日々の行いのお陰かなぁ」

 「多分、ヘタレな所じゃないですかぁ?」

 「それ良い所じゃないじゃん! 絶対、他にあるだろう! 何かが、きっと……」

 最後は尻すぼみになってしまった。でも、きっとあるはずだ……。


 人に好かれたい。誰しもが考えることだろう。

 では、どうしたら好かれるのか……。

 答えはないと思う。


 ただ言えることは、自分がしてもらったら嬉しい事、他人から見てそれが嬉しい事。

 自分だけではなく、他人も嬉しくなるようなことをする。


 他人から求められるような強みを持つ。それがモテることに繋がるのではないのだろうか。

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