モテ力発動
処分屋 守屋祐の怪異譚
『くねくね』と『羨望と怨嗟』の間の話です
人生で3回は訪れると言われるモテ期。
モテ期を迎えると、異性から思い慕われるような雰囲気や言動を感じるという。
このモテる期間については個人差があるようだ。
モテ続けて困るぐらい長いものもあれば、気付くと終わってしまっている儚いものもある。
しかし、本当にモテ期というものはあるのだろうか。
本人の体調の変化などはあっても、何もなしにモテ始めることはない。
それは本人の努力や日頃の行いの結果であろう。
人の好き嫌いは、時の流れにより二転三転する。
モテる要素も流行物のように次々と変わって行くのだ。
そんな時の流れの中で人から求められ、惹かれる要素が巡ってくるのがモテ期ではないだろうか。
もちろん、容姿の良し悪しのような変わりにくいものもあるが……。
優しき心を持ち、人を助けることに魂を燃やした男に訪れたモテ期。今回はそんな話をしよう。
・ ・ ・
8月中旬
祐は暗闇に包まれて漂うような感覚に身を委ねていた。
『モテたいか?」
いきなりの質問に何を言っているのか分からない。
『モテたくはないのか?」
モテたくはない? 今はそうは思わないが、昔はそう思っていた。
『やっぱりモテたいのではないか』
まあ、間違いではない。
女性関係でさぞや楽しい思いをしていたであろう、三善を見ているとそう思った時もあった。
『モテたいのならくれてやろう……』
・ ・ ・
「いらないから!」
意味が分からない声に驚いて大声を上げながら、布団を跳ね上げるように起きた。
何か嫌な汗をかいている。
横に寝ていた座敷童子を起こしてしまったようだ。
まだ起こすには早い時間なので、頭を撫でて布団を掛けなおした。
今から寝ることもできないだろうと思い、仕事に行く準備をする。
着替えを済まし、部屋から出るとリリエールが自室に向かっている所に鉢合わせした。
「リリエールさん、おはようございます。もうお休みですか?」
「おお、化け物人間。わしが寝る前に血を献上しに来るとは感心感心……」
相変わらず酷い言われようだ。日常のことなので嬉しいことだが。
そう思っていると、リリエールはこちらをまじまじと見て、吸血しに来ない。
「あの? リリエールさん?」
「ん? おお、すまぬ。何やら、普段と違う気がしてのぉ……。まあ良い、いただくとしよう」
何の事を言っているのか分からないまま、血を吸われて気持ち良くなった。
気持ち良さが名残り惜しく消えていくように、リリエールも自室に戻って行った。
しかし、リリエールの言葉が気になった。自分を見回しても特におかしな所はないと思うが。
食堂兼台所に入るとシュタルクが食事の片づけをしている。
少し早めに来てしまった。たまには朝食は自分で作ることにしよう。
「シュタルクさん、おはようございます」
「おはようございます、祐さん。申し訳ありません、片付けが済みましたら朝食の支度を致しますね」
「いえ、今日は自分で作りますよ。いつも任せっぱなしなので」
そう言ってフライパンを取り出し、卵と調味料を取り出してスクランブルエッグを作り始めた。
シュタルクの料理に比べると格段に劣る。
昔はこれが普通だったが、今となってはシュタルクの料理が当たり前になってきている。
これをずっと食べれればと思ってしまう程だ。
そう思いながら雑に朝食を作っていると、シュタルクがこちらを見ていた。
普段、俺を見るような目ではない。何を見ているのだろう……。
「あの、シュタルクさん? どうかしました?」
「あ、いえ、何か普段と違う気がしまして」
「それリリエールさんも言ってたんですよ。何か分かりますか?」
「何と言えばいいのでしょうか……。何か強い力というか……」
強い力? シュタルクの言葉を邪推すると、普段は頼りないという事になる。
ただ、そんなことを言う人じゃない。となると、余計に分からない。
「祐さん、すいません。曖昧なことを言ってしまいまして」
「いえいえ。私の体調が絶好調なのかもしれませんね。悪いように思われてないようですし」
俺の言葉にシュタルクは笑顔で頷いた。
確かにスポーツ選手等は、その日の体調次第で醸し出す気力が違うこともある。
そう思うことにして、朝食を終え、事務所に向かった。
・ ・ ・
普段より早めの出社になるので、途中のコンビニで時間を潰す為に寄った。
新作のお菓子を色々と品定めでもしようと考えながら車を降りると、思いもよらぬ人物がいた。
「えっ? 相馬さん?」
「あれ? 守屋くん、何してんの?」
コンビニから出てきたのは魔法協会の相馬 仁と稲光 更紗であった。
「もしかして天野原で怪異騒ぎでもあったんですか?」
「違う違う。別の所の案件を処理して、本部に報告しに行くところだったんだよ。
まさか守屋くんが自主的に僕達と本部に来てくれるなんてねぇ。おじさん泣けてきちゃった」
「勝手に協会に連行するような事を言わないでください」
「えぇ~、良いじゃん? これも巡り合わせじゃん? 運命かもしれないじゃん?」
いつも通りのやり取りを相馬とする。相変わらず、あの手この手の協会への勧誘方法だ。
「ただの偶然ですよ。行く気になったら連絡しますから」
「えぇ~、またそれぇ? 分かった! 今なら更紗ちゃんを守屋くんの車の助手席に乗せよう。
完全にプライベートな空間だよ? 仕事で疲れた更紗ちゃんを癒してあげれば、2人は公私共のパートナーに……?」
これは電撃を食らうな、間違いなく。と、思っていたが反応がない。
相馬も拍子抜けした顔をしている。2人で同時に更紗を見た。
更紗は顔を背けて、普段の毅然とした姿勢ではなく、少し緩んだ感じをしていた。
思わぬ事態に相馬と顔を見合わせてしまった。とりあえず声を掛けることにしよう。
「あの、更紗さん、大丈夫ですか? 具合が悪いんですか?」
普段と違い過ぎて、本当に心配をしてしまう。
「いえ…、大丈夫です。ありがとう…ございます」
顔を背けたまま、更紗があまり大丈夫じゃなさそうな返事をしてきた。
これにまた相馬と2人で顔を見合わせた。
「もしかして、相馬さんの言ったことですか? それなら天野原で依頼がある時にでも、」
「それは! その時は……、お願いします。…相馬さん、早く本部に行きましょう」
更紗は俺の言葉を遮ると相馬を車に押し込み、コンビニを後にした。
何が何だか、さっぱり分からない。
まあ、依頼があれば更紗の方が情報を的確に教えてくれるだろうから、助手席に乗ってもらうのはありがたい。
改めてコンビニでお菓子を仕入れて、事務所に向かった。
事務所に着いた時は、いつもの時間よりも遅くなってしまった。
事務所の電気が点いているのが見えたので、幸は起きているだろうと思いドアを開ける。
「おはよ~。今日は寝覚めが良いみたいだね?」
「おはよぅございまぁす。祐さん、いつもより遅刻ぎ……」
俺の挨拶を幸はいつも通りの気怠い物言いで返してきたと思ったが……。
幸は俺から視線を外し、すぐにソファベッドから降りると給湯室に向かった。
蛇口から水を出している音が聞こえる事から、顔を洗っているのだろう。
「幸ちゃん、昨日の夜に仕事の電話とか、」
「ありません!」
速攻で残念なことを幸は教えてくれた。
しかし、普段の幸とは思えない焦った口調であったが……。
「…おはようございます……」
萌香が事務所のドアを開けて挨拶をした。
休日なので今日は朝一から仕事に来てもらった。
「や、おはよう、萌香ちゃん」
右手を上げて軽く挨拶を返すと、急に萌香は顔を背けた。
そう思っていると、顔を背けたまま給湯室に入って行く。
「えっ!? ちょっと、萌香ちゃん? 幸ちゃんも何? 俺、何かした?」
何が何だか分からず、率直な疑問を投げることしかできなかった。
「そう言う訳ではありません」
「…はい。幸さんの…言う通りです……」
更に訳が分からなくなる事を給湯室から2人は返してきた。
では、どういう訳で俺を避けているのか?
「分かった分かった。何か分かんないけど……。じゃあ、給湯室に2人している理由は?」
「祐さんを見ると胸がざわつくんです」
胸がざわつく? 幸の言葉で更に俺の頭の中は混乱していく。




