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ゼミキャンプ

処分屋 守屋祐の怪異譚

 『結ばれぬ恋』と『くねくね』の間の話です。

 生命を育み、生物に多大な恩恵をもたらす山。

 山には生命力や活力が満ち溢れている。


 世界を覆う酸素を作り、生きとし生ける者をその身を持って包み込む。

 更には山の恵みとして、多くの食物を生み出し、生物の命を繋ぐ。


 そう思えば、海は生命の根源であり、山は生命を育む所である。

 ただ、どちらも命が尽きた死骸を、自らの懐に招き力に変えている。


 生まれた地へ、育んだ地へ還る……。

 間違いではないだろう。それがどんな形で、どんな生き物であろうとも……。


 多くの命を育み、多くの死を抱く山。

 生と死が混在する山の中では、多くの不可思議な現象が起こる。


 生者と死者が交わる山の中で、生者は何を見て、死者は何をするのか。今回はそんな話をしよう。


    ・   ・   ・


8月上旬

 萌香は山深くの別荘地で、気怠い感を漂わせていた。


 大学のゼミの教授がセカンドライフ用に買ったロッジと、もう1つの貸し別荘が目の前にある。

 今更ながら、何でここに来たのだろうと思ってしまう。


 事の発端はゼミの教授と、ノリが良いゼミ生が企画したキャンプだ。

 正直、どうでも良かったし、魔法の勉強がしたかった。


 ただ、これに参加するのもゼミの過程の1つと言われれば、参加しない訳にもいかなかった。

 仲が良い凛がいてくれることが、せめてもの救いだった。


 何でこんなことになったんだろう……。

 そう思っていると近づいて来る影に気付いた。


 「萌香ちゃん、流石にその顔は……」

 凛が曖昧な表情で私に声を掛けてきた。

 その顔とは?


 「…凛ちゃん、その顔…って……?」

 「すんごい、どうでもいい顔してる。まあ、興味がないのも分かるけど」

 どうでもいい顔……。言われて思う。

 本当に興味がないのだろう。


 凛以外とは深い付き合いもない。

 話す機会もほとんどなかった。

 あと、ノリに付いて行けない。


 「先生ぇ、ここって中々の山ん中っすねぇ。こんな所で老後を過ごすんすか?」

 「山をバカにしちゃあいかんぞ? これだけ自然の息吹を感じれる場所なんて、素敵じゃないか」


 このキャンプを企画した軽いノリの男、高木と、髪のほとんどが白髪の教授が話している。

 自然の息吹……。悪い感じはしない。

 感じ取ると無数の風の精と土の精を感じる。水の精も少し感じ取れる。


 それから考えると、山の中はとても力に満ちている場所なんだろう。

 人は知らず知らずに、その力に惹かれるのかもしれない。


 「よし、それじゃあ、各自荷物を持って、それぞれのロッジへ行こうか」

 「先生ぇ。俺、女子のとこに行ってもいいっすか?」


 軽いノリの高木の発言に、他の男子達も笑っている。

 教授は情けないものを見るような目をして、笑っている。


 私も含めて、4人の女子は笑う事すらできなかった。

 何で男子が多いゼミに入ってしまったのか……。


 「萌香ちゃん…その顔……」

 本日2度目の指摘を凛からされた。


 各自荷物を持って、ロッジへ向かう。

 また高木がこっちに向かってきて、他の男子が止める。

 何が面白いのか分からない。


 おそらくはつまらなくなるであろう、キャンプの事を祐にも話した。

 祐は、自分が経験してないことだから行けば勉強になる、と言った。


 確かに勉強にはなっている。

 このノリに付いて行けないことに……。


 ロッジに着いて荷物を置く。

 この先、レクリエーションがあると考えると頭が重い。

 ロッジのソファに沈み込みたくなった時に、たくましい声が聞こえた。


 「ホント、男って子供。夜のことを考えると頭が痛いね」

 全くもって同感してしまいたくなる言葉を口にしたのは、山崎だ。

 4人の女子を先導してくれる、たくましい人だ。


 はっきりとした性格が顔にも出ている。

 この人が居れば、男子を抑えてくれるだろう。


 その時に思い出した。

 祐から行く前に餞別と言って渡された物があった。

 黒いエコバックのマジックテープを剥がすと、お菓子がミチミチに詰まっている……。


 「萌香ちゃん、それってどうしたの?」

 「…祐さんから……」

 「そうなんだ……。これはこれで、子供になるのかな?」

 凛の問いかけに返答できなかった。

 本人もお菓子など、子供が好きな嗜好品を好んでいることを認めている。


 「とりあえず夕飯もあることだし、しまっておこうか」

 曖昧な笑顔を浮かべた凛の提案に乗り、バッグの横に置いた。


 荷物をほどき終わると、夕飯の支度に取り掛かる事になった。

 料理は得意とは言えない。そもそも、そんな生活を送ってはいなかった。


 凛を横目で見ると悪戦苦闘している。

 女子の中で手際の良さが光るのは山崎だ。スムーズに肉と野菜を切っていく。


 情けない事に山崎頼みになってしまった。

 男子達を見ると何やら騒がしく火起こしをしているようだ。


 「火を起こすだけなら、あんなに人数いらないのに。何考えてんの、全く」

 愚痴りながらも山崎の手は止まらない。職人のようだ。


 「そう…だよね。私達で作るには、ちょっと多い…かも」

 口数の少ない青木が言った。口数が少ないのは私も同じだが……。


 会話の盛り上がらない女子達を他所に、男子達のテンションは留まる所をしらないようだ。


 肉と野菜を交互に串に刺しながら、バーベキューの準備をする。

 これぐらいなら私でもできる。淡々と準備を進める中で1人の男子が近づいてきた。


 「準備まかせっきりでごめんね。今ある分だけで始めようか」

 少し申し訳なさそうな空気を漂わせながら言ってきたのは、二宮だ。

 ノリが良い方ではあるが、あまりうるさくならないようにしている気がする。


 二宮の言葉に山崎が了承すると、作った分だけでバーベキューが始まった。


 自分が食べる分だけを網に乗せて、焼ける様子を見続ける。

 肉汁が零れ、脂が焼かれて香ばしい匂いを発している。

 野菜も水分を熱で失い、しおれながら焼き目を付けている。


 「…萌香ちゃん、それもどうかと思うなぁ」

 凛から何かを言われた。私はただ食べ物が出来上がるまでの経過を観察しているだけだ。

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