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外道の欲求

 日向は如月と共に、被害者の交友関係を漁っていた


 携帯に入っている人物やパソコンでやり取りをしていた人物なども当たった。

 それ以外に誰かいないかと思い、改めて被害者の職場近くで聞き込みを行っている。


 記憶は風化しやすいもので、早めに相手が思い浮かべやすいような言葉を選ぶ。

 誘導尋問ではないにしろ、その状況を思い浮かべさせ、その光景の中に記憶の人物を入れる。

 ただ聞かれただけでは思い出すのは難しい。


 しかし、そんなことを続けていても手掛かりは見つからなかった。

 空振りが続けば続くほど、精神的に滅入る。

 気落ちしそうになるのを顔を引き締めて堪えることにした。


 ふと横目で如月を見ると、全く疲れを感じさせない顔をしている。

 さすがはベテラン刑事だ。品行方正、勤務態度良好とくれば、多くの者から信頼されている。


 ふと神尾を思い出した。私がいた署に一時期配属されていたので覚えている。

 如月よりも固いかもしれない。ただ、強い熱意を持って仕事に臨んでいることが印象的だった。


 キャリア組なのに現場をできるだけ知りたいと色々と回っていると聞いた。

 それも相まってか、尊敬と憧れの念を抱いていたのは確かだ。


 そんなことを思い出していると、今日の守屋とのやり取りを思い出した。

 彼も神尾に負けないぐらい、熱意を持って協力してくれていた。


 それに神尾の言う通り、妙な視点からも話しが出てきた。

 そういうのに詳しい人物なのだろうか?


 いや、それよりもあんなに簡単に人を恋人扱いしたのにビックリした。

 あまりのスムーズさに驚かされてしまった。

 その姿を見て如月も何の疑問も持たなかった感じということは、説得力のある物言いだったのだろう。


 守屋とのやり取りで思い出した。

 もしかしたら何かに繋がるかもしれない。

 頭の働く如月なら……。


 「あの如月さん、今回の事件って…その、カニバリズム…が関わってないでしょうか?」

 「カニバリズム? 日向さん、何でそう思ったんだ?」

 如月はそのように考えていなかったのか? とりあえず守屋の考えを丸ごと伝えよう。


 「…なるほど。確かに、そう考えるとカニバリズムを持った者が関わっていそうだな」

 「はい、そうなるとその手の思考を持ちそうな前科者を当たるのも良いのではないでしょうか?」

 「そうだな。違う面からもアプローチしてみないとな」

 如月の反応を見て、少し安心した。守屋の考えとはいえ、完全に否定されると悲しい。


 「しかし、面白い事を考えたものだね」

 珍しく優しい声で如月が言ってきた。


 「い、いえ、何かで読んだ気がして。あんまり考えたくはなかったんですが」

 「いや、色々なことを考えないとな。1人で思いついたのか?」

 「は、はい。嫌な事件なので、何かを考えないと、と思いまして」

 慌てて嘘を言ってしまった。守屋の考えで褒められることに申し訳なさを感じた。


 そんな私を如月は微笑ましく見ている。

 私が成長したと思ったのだろうか。


 「実は私もそう考えていたんだ……」

 如月の言葉に目を大きくしてしまった。

 如月は神妙な面持ちをして、虚空を見ている。


 「あの、如月さんもカニバリズムだ…と?」

 「ああ。日向さんと同じくね。一応、その手の資料を先に集めてある。

 家に来て君にも見てもらいたい。そこから何か導き出せるかも」

 守屋が考えたように、如月もその可能性を考え先に動いていたんだ。


 「はい、私にできることがあればいいのですが」

 「いや、こんな別の視点から見ることができたんだ。目の付け所が良いはずだ。

 それでは行こうか。と、その前に一本電話を入れてくる」

 更に褒められてしまった。やはり守屋は神尾の言う通り、頼りになる人物なんだ。


 如月の運転する車の中で、今までの調査内容の確認をした。

 カニバリズムと思われる件についてもより詳しく話しをした。


 そうこうしていると、如月があるマンションの近くの駐車場に車を停めた。

 ここが如月の家なのだろう。


 「あの、どのような資料を集められたんですか?」

 「専門書を買ってみてね。洋書の翻訳版で少し読みづらいかもしれないが。

 それを読めば犯人の目星が付けやすくなるかもしれない」

 如月の家に向かいながら真面目な話しをする。


 真面目な如月らしい回答だ。

 あまり発生するような事件ではない。

 それを早期に考えて、専門書まで買って調べる。

 並大抵の人間にはできないことだと思う。


 群青色をしたドアの前で如月が足を止めるとカードキーを刺し込んだ。

 それにより締められていた鍵が、機械的な音を立てて解除された。


 「さ、日向さん、どうぞ」

 電気が点いている玄関に促されるまま入る。

 そういえば如月は結婚していなかったはず。

 なのに電気が点けっぱなしって?


 その時、後ろで鍵が閉まる音がした。

 如月が当たり前のように鍵を閉めたのだ。

 それも当たり前かと思い廊下の先に目をやった。


 「おーい、帰ったぞ」

 家の中の誰かに呼び掛けるように如月が声を上げた。

 それに驚き、振り向くと如月の顔が歪な笑みを浮かべていた。


 「お疲れ様ー」

 「お、今日は早いな」

 「腹が減ったんだけど、飯はあるか?」

 「おっ、何か美味そうな匂いがするな」

 廊下の奥から……。如月が4人歩いて来ている。


 その光景に声を上げることもできず、前と後ろの如月を交互に見るしかできない。

 

 「おや? 今回は丸ごとなのか?」

 「ちょっと細くない? 俺柔らかいのが良いんだけど?」

 「良いじゃねぇか。食えりゃそれだけマシだろ」

 「そうそう。んじゃ、さっさとバラしちまおうぜ」

 何の話をしているのか分からない。丸ごと? 柔らかい? 食える? バラす?


 頭の中が疑問符で埋め尽くされている時、後ろ手をひねられ冷たいものが両手に掛かった。

 手錠を掛けられたことが分かると、次には口にハンカチを押し当てられていた。


 目の前から向かってくる4人の如月と後ろから押さえてくる如月……。

 心が折れそうになった。でも、何とかしないと。


 右足を思いっ切り後ろに振り上げた。

 口に当てたハンカチが緩んだ。


 それに気付いたのか、4人の如月が襲い掛かってきた。

 逃げ場はない。体だけで如月の間を突き飛ばすように走った。


 最後の如月を抜けて一瞬安堵した。

 あとはこの先にある部屋に飛び込めば。


 「あぁっ! うぅぅぅ」

 背中に強い衝撃が走ると、勢いよくフローリングに顔から叩きつけられた。

 顔面を強打したことで一瞬、頭の中が空っぽになった。


 「おいおい、物音を立てるな」

 「仕方ねぇだろ、お前等が避けられたから仕方なくだ」

 「元気が良いのは悪くないねぇ」

 「さっさとバラそうぜ」

 耳に届いた気持ち悪い声の主達に顔を向ける。


 全てが如月の顔をして、歪な笑顔を見せている。

 これが絶望? 殺された人達はこんな思いをしながら……。


 体が萎縮しながらも震えている中、絶望を打ち壊すような、何かが割れるような音が聞こえた。

 目の前にガラスが散ったのが見えたと同時に、如月が目の前に降ってきた。


 「な、なんだ、お前!?」

 「あ? おい、そいつは」

 目の前の如月達が明らかに狼狽している。

 何が起きたのか。ただ、やつ等と同じ視線の先に目を向けた。


 「おいおい。可愛い人に寄っていいのは、良い男だけじゃないのか?

 お前等みたいなゲス怪異共が近寄っていい人じゃないぜ」

 守屋だ。スーツの上着を肩にかけて壊した窓から部屋に入ってきている。


 守屋の後ろから6本の何かがうねっているのが見えた。

 ただ、守屋の笑顔と堂々たるその姿に心がときめきそうになった。


 「くそ、やっちまえ! 2人共食っちまえばバレやしねぇ」

 如月の1人が声を上げると、4人が向かってきた。

 4人を1人でなんて。このままではいけない、何とかしないと。


 声を上げようとした時には、4人とも宙を舞って壁に埋まっていた。

 何があったのか分からなかった。でも、守屋が平然と立っていることから、何かをしたことに間違いはなさそうだ。


 「こいつ等は怪異かな。ってことはあんたが本体か……。最初からうさんくさいとは思ったけど、ドンピシャとはね」

 守屋は廊下に向かいながら、玄関にいる如月に声を掛けていた。


 「な、なんだ、お前は……。化け物…化け物!」

 如月が怯えた声で叫ぶと、5発の銃声が鳴り響いた。

 それを茫然と見ていると、銃弾を受けたと思った守屋はまた歩き出した。


 「化け物ねぇ……。心が化け物になって、化け物と結託するようなやつに、化け物呼ばわりされるいわれは、ねぇっ!」

 守屋が如月に何かをしたのか、守屋の影から如月が倒れていくのが見えた。


 そのまま見ていると守屋の背部から生えていた何かが、体の中に戻って行った。

 事態がまったく読み取れない。何をしているのかが分からなかった。


 守屋は玄関から離れて私に近づいて来た。


 「大丈夫でしたか? もう少し早く駆けつけられたら良かったんですが。

 あ、群青百足、そこら辺のやつを喰っとけ」

 守屋が申し訳なさそうな顔をしながら言うと、すぐ後に首筋から何かが出てきた。


 倒れていた体を起こしてもらっていると、周りにいた如月達が消えていた。


 「無事そうですね。良かった……。手錠されてますね。ちょっと待ってください。

 今から締めを行ってくるので、その後に外しますから」

 軽やかな口調で言うと、守屋は玄関に向かって行き、眩い光が玄関を照らした。

 その光が消えると、また守屋はこちらに向かって来ていた。


 「はい、これで良しっと。すいません、怖い思いをさせてしまって」

 「いえ…いえ! ありがとう…ござい…ました……」

 守屋の声の所為か、それとも周りに如月がいなくなった所為か……。

 涙が流れて、もっと言わなければいけないことが言えなかった。


    ・   ・   ・


 パトカーが如月のマンションに停まったのを祐は外から見ていた。


 おそらく凶器の類はやつの部屋から見つかるだろう。

 しかし、酷い事件なもんだと振り返ってしまう。


 そもそもはやつがカニバリズムだったのは間違いないだろう。

 それによって殺人を犯した。もしくは見つかっていないだけで、他に犠牲者がいるのかもしれない。


 そんな人の道から外れたやつに、怪異が持ち掛けたのだろう。

 自分と同じ者を作り、更に効率よく得物を捕えることができるようになると。


 怪異『外道愚息げどうぐそく』。名前の通り外道な者に甘い話を持ち掛ける。

 その甘い話に乗ると、自分の欲求を満たせるように、自分にとって有益な力を渡す。

 そして最後は抑えられなくなった欲求を爆発させたところで力を奪う。


 今まで自分の欲求を満たす為に使えた力が無くなったことによる絶望を餌にする。

 それを基に多くの子供を作るそうだ。


 今回の件は、人を食すことで自分を作り出し、アリバイ工作などを徹底して行っていたのだろう。

 そうして女性の魅力的な部位を食べる。その食した事によって更に自分を増やし、新たな女性を食す。

 まるで、嗜好の一品を追い求めるとでも言わんばかりに……。


 しかし、やつから嫌なものを感じて、事前に神尾から住所を聞いていたのが功を奏した。


 式神に行動を監視させていたら、日向がカニバリズムの話をしたとのことで慌てて向かった。

 マンションの下に如月が1体いたのは監視とアリバイ作りの為かもしれない。


 パトカーの赤色灯を見ていると、日向がこちらに小走りで向かってきた。


 「あの…今日は本当にありがとうございました!」

 先ほどとは打って変わって、固い意志を感じさせる声をしている。

 彼女はそういう強さを持っているのだろう。少し安心した。


 「いえいえ、神尾さんからの依頼でもありますし。これ以上、犠牲者も出ないでしょうから。

 なにより、あなたの助けることができたのが、一番良かったです」

 もしあの時断っていたら、日向がどうなったか分からない。

 それを確実に断つことができた事が一番の収穫だ。


 そう思っていると日向は少し俺から目を逸らしている。

 しまった……。臭いセリフを言ったことに後悔してきた。


 「も、守屋さんが助けに来てくださった時、本当にカッコ良かったです」

 目を逸らしながら日向は小さな声で言った。

 だが、これは嬉しい言葉だ。あの臭いセリフもセーフという事だ。


 「ありがとうございます。可愛い女性を助ける時はカッコ良くないといけませんからね」

 笑顔でとんでもないことを言ったと、後悔してしまった。

 完全に時々思い出しては悶絶する思い出になってしまった。


 「はい、カッコ良かったです」

 日向は透き通るような声で、笑顔を見せながら言った。

 その顔を直視できず目を逸らすと携帯が鳴った。


 ディスプレイを見ると……家だ。

 気が乗らないが通話ボタンに触れる。

 

 「おい! 化け物人間! どこをほっつき歩いとる!

 さっさと帰ってわしに血を吸わせんか!」

 思わず耳から電話を離したくなるような大声で自分本位な事を言われた。


 「今から帰りますよ。もう少しだけ待っててください」

 「まったく……。帰ったら、たらふく吸わせてもらうぞ」

 「はいはい。あ、お土産もありますから。楽しみにしててください」

 「おお。化け物人間は血と土産も献上するとはのぉ。少しはデキる男になったものじゃのぉ」

 相変わらず酷い物言いをされて、適当に電話を切った。


 「それでは私はこれにて失礼します。また…会わない方が良いんですが」

 言った通りだ。こんな事件、無い方が良いに決まっている。

 だから自分と会うような事がないに超したことはない。


 「そうですね。仕事以外でお会いできればいいですね」

 日向は先ほどと変わらぬ笑顔を俺に向けたまま言った。

 仕事以外か……。


 「ですね。じゃあ、あのワインディングロードでお会いしましょう。では、また」

 笑いながら言うと、日向も小さく笑っていた。

 日向の笑顔を見て、人を助けたからこそ貰える喜びを噛みしめて車に向かった。

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