カニバリズム
コンビニの駐車場の車の中で目を閉じていた。
やはりというか当たり前というか、警察署の中で情報は得る場は与えられなかった。
日向から聞いた情報を今一度整理する。
殺されたのは5人。
場所は県内だけでなく県外でも発生している、通常であれば連続殺人事件とは思われない。
だがそうとしか思えない事件なのだ。
被害者は全て女性。死後に体の一部を刃物で切り裂いたと思われる。
その体の一部を持ち去っている。
殺すまでなら分かる。
だが一部を持っていくことに何の意味があるのか……。
日向からの情報が頼りになる。
窓ガラスを軽く叩く音で目を開けた。
音のした方を見ると日向が引き締めた顔を見せていた。
助手席を指さして、車の中に入るように目で合図をする。
下手に見られるのも聞かれるのも良くはない。
「すいません、失礼します」
落ち着いた声で日向は車に入ってきた。
しかし、その手には事件の資料は無いように見えるが……。
「あの……、捜査資料は持ち出せなくて。すいません」
まあ、予想の範ちゅうだ。外部の者に見せて良いものではない。
下手に情報が漏えいしてしまえば、捜査状況が犯人に伝わりかねない。
今までは神尾だったからこそ、全ては上手くいっていた。
だが、日向の顔を見る感じでは、どこまで記憶と理解、分析ができているか……。
「ま、仕方がないことですよ。神尾さんも私に見せてくれないこともありましたし」
「そうでしたか……。捜査会議の情報をメモしてきたので、それで何とか」
少し申し訳ない顔をして日向は分厚い手帳を俺の前に差しだした。
開いているページを見ると、被害者や交友関係、周りの環境、被害者の事前の行動の洗い出しなどが書かれている。
他には被害者の死因や傷の状況が書かれている。だが、写真などはない為、こちらの想像になる。
「メモ、ありがとうございます。地道な捜査については警察の方にお願いします。
私としては、死んだ方の情報が頼りになってきます。気分が悪いかもしれませんが……」
言ってる自分が嫌な気持ちになってしまう。
ただ、それを知らなければ怪異と考えることもできない。
「はい……。死因も持ち去ったと思われる被害者の体の一部の部位も違います。
死因は鋭利な刃物で首やわき腹や、体をメッタ刺しにしているようです。
部位は…、本当にバラバラです。二の腕や太もも、腹部、胸部など被害者によって様々です」
日向は思い出すだけで気分が悪そうな顔をしている。それでも必死に思い出そうとしてくれているのだ。
何の目的があって殺害したのか……。
交友関係は場所が離れているなら、そこから繋がることは少ないだろう。
では通り魔的な犯行…ではない。
殺された場所もバラバラだ。人気のない公園、自宅、雑木林などだ。
ここでも繋がりがない。殺される場所も交友関係の繋がりもなければ……。
目的のない殺人のように見える。だが……。
あと思いつくのは考えたくないが1つしかない。
おそらく、その可能性も視野に入れているかもしれないが、言うしかない。
「日向さん……。これはカニバリズム(人肉嗜食)ではありませんか?」
「カニバ…リズムですか? いえ、そういう話までは……」
まだこの段階ではそこまでの話にならなかったのか? しかし可能性としては高い。
「日向さん、あなたは牛肉でも色々な部位を食べたことはありませんか?」
「え、ええ。焼肉だと色々食べますが?」
「あなたの記憶の中で女性の持ち去られた部位は、柔らかい肉や脂肪が少なく歯ごたえのある肉、スペアリブのような旨味が強い肉。
持ち去られた部位がバラバラなのは犯人の嗜好に何かあると思います。例えば、」
言いかけたところで、窓ガラスを叩く音が聞こえた。
外を見るとスーツを着たスマートな男性が覗き込んでいた。
「き、如月さん!」
日向が大きな声を上げたので、思わず振り返るといかにもばつの悪そうな顔をしている。
仕方がないので、車の窓を下げる。
「日向さん、少しだけ用があると言ってたがこんなに時間が掛かるとは聞いてなかったぞ?」
如月と言われた男は中々の渋めの声で、日向を嗜めるように言った。
顔も引き締まっているが、目も厳しい。いや、冷静過ぎる感じだ。
「あ、あの、すいません。実は、この、」
「すいません、如月さん。美月からよく話は伺っております」
おそらく俺の後ろで目を見開いているであろう日向を無視する。
「…日向さん。君は仕事中に恋人と話しをしに仕事を抜けたのか?」
「ああ、ごめんなさい。彼女へ忘れ物を届けに来まして。
それでつい…すいません。私が話しを色々してしまって……」
そう言うと如月は少し体を車から離して、呆れた顔を見せた。
「とにかく、すぐに戻って捜査に行くぞ。早く彼氏に挨拶をして戻りなさい」
「は、はい。分かりました! すぐに行きます、行きます」
如月が静かに言って去ると、慌てて日向が追いかけようとしている。
「日向さん、さっきの話はまだ推測ですので……。あまり人には言わないでください」
「え? あ、はい、分かりました。すいません、行ってきます」
できれば偏見を持って捜査に挑んでもらいたくない。
冷静に捜査をしてもらいたい。
車から小走りで去っていく日向を見て、目を瞑った。
自分で考えて嫌になるが可能性としてはあり得る。
人を食らうカニバリズム。
普通は何らかの意味があって行う場合が多い。
しかし、今回のケースを見れば単純に色々な部位を食しているように見える。
だが、それなら1人を殺して全てを食せば済む話なのでは?
何で多くの人間を殺して、その一部を食べる必要がある。
その考えを巡らせている時、携帯の着信メロディーが流れ始めた。
ディスプレイを見ると神尾の名前が表示されている。
「神尾さん!? 捜査情報は貰えますか?」
「はい、そのように話を通しておきました。かなり気持ちの良いものではないですが」
「大体は分かってます。それとこれはカニバリズムかもしれません」
「そう思われましたか……。私も気にはなっていましたが」
神尾もその可能性を考えていた。それなら俺の考えにも信憑性が増す。
警察署に行き神尾の名と、自分の名前を告げると中に案内された。
捜査資料を見る。日向から聞いた通りのものだが、実際に目で見ると違う。
命を奪われた人の無念を嗅ぎ取る。
何が残っているのか……。
写真を見て思った。損壊した部位はその女性の特徴的な場所に見える。
どれもその女性を強調、もしくは美しく見せている。
やつはそれを狙った? いや、そうでなければ複数の者は襲わない。
自分の欲を満たす為の嗜好の食事が人肉……。それも上等な物を欲して。
何故……。いや、ただの食事だけではないのかもしれない。
生き物は何かを得る為に食事をする。欲だけではない何かがあるとしたら……。
携帯を取り出し、幸に電話を掛ける。




