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本物の力

 話しを終え、通話終了のボタンに触れる。


 この状況と相手の力について把握できた。

 おおよそ自分の考え通りだったが、確信に変わった。


 廊下の曲がり角から少年が偉そうに胸を張って歩いてきた。


 「あれ? あのキモいおっさんは? って、あんた怖い顔してるね。何、睨んでんの?」

 ふむ。なかなかに手厳しいことを言う。確かに目つきがキツイ事は認めよう。


 「ま、キモいおっさんって言葉には同意してやらないでもないけどさ。

 でも、君もイケメンじゃないよな? ってことは俺と同類だから仲良くしないか?」

 「は? ふざけんなよ? 僕には力があるんだ。顔なんて関係ない…、勉強も、運動も! もうバカにされない……、そんな力が!」

 こちらの挑発感満載な言葉に、少年は少し苦しい感じを匂わせた返答をした。


 「バカにされないか……。そりゃ良いね。でも、それは借りものの力だぜ。

 君本人の力じゃない。せめてそれを分かって、」

 「うるさい! 黙れ!」

 人が言い終わる前に、炎の波が視界を覆い尽くした。


 「ははっ! これだよ……。この力があれば、何でもできる! あいつ等も! バカにした女子も、あの子だって……」

 「そいつは楽しい妄想だな」

 少年が悦に浸っているところに水をさした。


 「な、何で、死んでないんだ?」

 「ああ、ちゃんと見ろよ。少し火傷しているけど、服とかは燃えていないだろ?」

 久坂の話を聞いておかしいと思っていた。炎を使えばスプリンクラーは反応するし、そこかしこから火の手が上がる。

 だが、それがなかった。


 これは『怪異』が憑りついたことで、もたらされた力だ。

 『無双夢想むそうむそう』。人よりも強くなりたい。自分は人にはない特別な力がある。

 そんなことを妄想し没頭している心に忍び込むらしい。


 残念ながら、その力は強いものではない。

 力の見せ方は人それぞれだが、人体に多少の怪我を負わせる程度で、基本見かけ倒しだ。


 「なら、火傷じゃ済まないぐらいに燃やしてやる!」

 少年が怒りを爆発させると同時に、何度も手を振るうと炎の波が何度も押し寄せてくる。


 眩しいだけの炎が消え去ると、少年が肩で息をしているのが見えた。


 「ああ、これはあんまり力が無いし、連続で使えば使う程、君に悪影響が出るよ?」

 少年は俺の声に反応して顔を上げた。そして、その目が大きく開いた。


 「あんた……。顔が…治っている……? 何で?」

 「ああ、これは不死の体でね。でも、痛みはあるんだぜ? それに嬉しくない特典付きだ」

 火傷で少し赤くなった顔の修復が始まったのが見えたのだ。少年の顔に恐怖が宿った。


 「こ、この化け物!」

 「おいおい。君は同じようなものを欲しがってたじゃないか? 若干、傷ついたぞ?」

 「う、うるさい! そんな気持ち悪いものじゃない。もっとカッコいいものが良い!」

 化け物と言われるのには多少は慣れている。まあ、少なからず傷つくが……。


 しかし、カッコいいものが良いか。

 気持ちは分かる。炎や雷、風とかを自由自在に操れたり、特殊能力で人よりも強くなったり……。


 狼狽ろうばいしている少年に近づきながら語りかける。


 「欲しい力なんて選べやしないし、例え手にしたとしても、それは新しい苦しみを生むかもしれない……。

 そういうのはマンガやゲームで十分じゃないか? 君が生きている世界で必要なのはそんな力じゃないと思うけどね」

 力を手に入れる。簡単に言うが、本当に手に入れるには並大抵の努力では掴めない。

 突発的に手に入ったとしても、それは人とは違う存在だ。人から奇異な目や避けられることにもなる。


 「お、お前に僕の何が分かる! 良いじゃないか。才能がある人だって大勢いるじゃないか!」

 「そうだね。才能か……。君にもあるんじゃないか? 今は見えない…いや、見つける為に動いていないだけでさ」

 「何だよ……。じゃあ、僕に何をしろって言うんだよ! 僕は弱いままじゃ…嫌なんだ……」

 「だから妄想したんだろう?」

 うつむいて語る少年に、確認するような言葉を口にした。


 「弱いままの自分を受け入れたくなかった。それは君が諦めてない証拠さ。どんな形であれ、自分を変えたかった。

 その妄想通りにはいかないけど、その妄想の中の強い自分に近づけるよう努力はできるんじゃないか?」

 妄想は決して悪いものではない。そこで終わらせず、その思いを力に変える。

 

 「努力なんて……。最初から強い方が良いに決まってるだろ! 強いからカッコいいんじゃないか!」

 「ま、それもカッコいいかもね。ただ、全ての面から見てカッコいいか? 弱くて、情けなくて、みっともなくて、泥まみれで頑張って、目標にひた走る。

 その先で見つかる才能や力の方が、俺には輝いて見えるし、カッコいいと思うよ?

 君が見ている世界は1つの面だ。色々な人が、色々な角度からものを見る。君が進む道を見てくれる人が現れるさ」

 力を持ったからといって全てが上手くいく訳ではない。だからこそ、苦しい思いをして生きた自分を思い重ねてしまう。


 「僕は! …僕は……強く…カッコよくなれ…ますか……?」

 「ああ。君が追い求める君に近づけば近づく程にね。その姿をカッコ悪いなんて言わせないよ」

 「頑張れるか…分かりません。でも、少しでも……」

 「だね。一歩一歩だよ。軽い一歩じゃなくて、力強く踏みしめる一歩。その一歩が必ず君を強くするから……」

 少年の心に少しでも響けばと、心から思った言葉を口にした。


 「はい……。やってみたいです」

 「よし! なら、君をだましていた悪いやつを追い出そうか」

 少年に語りかけ、左手に力を込めながら近づく。


 手から溢れだす光に少年は目を丸くしている。

 これが何か分からないから、そうなるだろう。


 「これは…まあ、悪いものじゃないよ。これで君の中の悪いものを追い出す」

 「あの、その力は?」

 「さっきの体の対価? どっちも嬉しいものじゃなくて、苦しいものさ」

 「嬉しくないんですか?」

 不可思議な力を持っている男に単純に聞いて見たかったのだろう。

 力を求めていた頃のような聞き方ではない。


 「人次第かな。でも俺にとっては最悪だよ。このお陰で、普通の人生は送れないんだからさ」

 言った通りだ。皆が送れるような普通の人生は俺にはない。


 「そうなんですね……。ごめんなさい」

 「謝ることじゃないよ。君の様な人達を救えるんだから……。

 これも1つの面から見たらカッコいいかもね」

 最後に少しおどけて少年に言うと、少し笑顔を見せてくれた。


 「天よ。この者の願望を利用し人生を変えようとした悪しき者を、祓う力をお与えください」

 天からの力を左手に宿して、少年の額に当てる。

 光がより一層輝いた時に、黒い何かが少年から離れていった。


 「群青百足ぐんじょうむかで

 その名を呟くと、首筋から群青色の百足が飛び出し、黒いもの…『怪異』を捕食した。


 全てが終わると、少年は呆けた顔をしていた。

 少年から感じる霊力に濁りはない。『怪異』の反応も消えている。

 処分は完了した。


 少年を横を通り過ぎてエレベーターに向かう。

 背中に視線を感じて振り返ると、少年が俺を見ていた。


 「あの…あなたは?」

 「俺? 俺は守屋もりや たすく。処分屋さ。んじゃ、お互い頑張ろうぜ」

 笑顔を見せ右手を軽く上げて言うと、エレベーターの中に入り、1階のボタンを押した。

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