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処分屋 守屋祐の怪異譚・『追』  作者: アラタナ ナナシ
初恋は甘くてほろ苦い
19/42

君との出会い

 授業も終わり、それぞれが次の予定に向けて動きだした。


 自分は部活もしてなければ、特定の委員会にも入っていない。

 そもそも学校を休みがちだから、入っても仕方がなかった。


 小さな頃から霊力を持っていた為、それが悪さをする。

 何となく悪さをするものが自分の中にいることは分かっていたが、安静にしていれば治まる。


 そんな自分に学校でできることはないし、存在自体もないようなものだ。

 幽霊みたいな存在。変な霊力持ちの自分にはお似合いかもしれないと思った。


 下校時刻を過ぎても、すぐに帰るのは少し寂しかった。

 一緒に下校し、家路の途中まで他愛のない話ができる友人なんていない。


 正しく幽霊のように校舎内を当て所なくうろついていた。


 そんな幽霊な自分が足を止めて、部屋を覗き込んだ。

 教材室に人がいる。それは前に見た女子だ。


 また1人でいるのか……。

 それに下校時刻を過ぎている。

 ここから見える顔からはあまり元気ではなさそうだ。


 もしかして、いじめか?

 周りを見ても、それらしき人達が隠れているようには見えない。

 なら、何故ここにいるのか。


 興味が湧いた。単純に何をしているのかを知りたくなった。

 興味に突き動かされるまま、教材室の扉に手を掛ける。


 そこで頭の中で警告音が鳴り響いた気がした。

 もし、自分が余計なことをしているのならば……。

 人に嫌がられるような事をしてはいけないのではないかと。


 人と関わるのが怖い……。

 でも、もしこの子が苦しんでいるなら…助けたい。


 扉に掛けた手に力を入れて、横に滑らせる。

 所々で引っ掛かったのか、うるさく扉は横に開いた。


 悪いことをしたかな、と思って女子を見ると、変わらず何かを見ている。

 それが何なのかを確認する為に、物置の中を進む。


 女子の近くまで来た。相変わらず何かを見ている。

 震える口を一度硬く引き締めてから口を開く。


 「あの…、何をしているの?」

 恐る恐るという表現が正しいぐらい、不審な感じで聞いた。


 女子は俺に振り向いた。

 髪は肩まで綺麗に下がり、目鼻立ちはスッキリしていて大きな瞳をしている。

 そんな可愛い女子が俺を見つめてきた。


 とてもじゃないが直視できなかった。

 目を離して、少し経ってからもう一度女子を見ると、まだ俺を見ていた。

 とにかく見られているだけでは話しにならないので、何とか口を開く。


 「えっと、その、ここで…そう、ここで何をしているの?」

 頭が混乱する中、出せる言葉を思いつくだけ出して、言葉を繋いだ。


 「キャンバスを取り出したいんだけど」

 女子が初めて口を開いた。思ったよりもしっかりした声色だった。

 その言葉から彼女が見ていた方を見る。


 完全に他の物に埋もれて、取り出すのに苦労しそうな位置にある。

 でも、女子でも取れない事はないと思うが……?


 キャンバスから目を離して女子を見ると何でできないのかが分かった。

 両手とも包帯で固定されているのだ。


 「え、っと。これを取り出したら…良いの?」

 「取り出してもらえるの?」

 「う、うん。それぐらいはできるよ、任せて」

 他の物に埋もれているだけで、動かせない物に隠れてはいないから取り出すことは簡単だった。


 「これで良いかな? って、その手だと難しいよね。どれを取れば良いの?」

 「ありがとう。手前から2番目のキャンバスを」

 「これね。け、結構ホコリ被ってるね」

 他の道具よりも、キャンバスに溜まったホコリの方が酷い。

 くしゃみが出そうになるほどだ。


 「ごめんね。ずっと置いたままだったから」

 「あ、いやいや、大丈夫、大丈夫。これ、どこに置けば良いかな?」

 「そこの画板立てに乗せて」

 女子の指示に従い、画板立てを固定してキャンバスを乗せた。


 「ありがとう。…手がこんなんだから」

 「そ、そうだよね。手は不便になるから大変だよね」

 女子は両手を胸の位置まで上げて、笑いながら見せてきた。

 本人が一番苦労しているはずなのに、笑顔を見せることができるなんて……。


 「あ、ごめん。カバーを取ってもらって良い?」

 女子は思い出したかのように、俺にお願いをしてきた。

 そもそも俺が気付くべきことな気がした。


 「い、いや、取るよね普通は。良いよ、任せて」

 慌ててカバーを剥いだ。その絵を見て目が奪われた。

 それは俺にとって輝きの世界を鮮やかに描いたものだったから……。


 「これって……。学校だよね?」

 「うん。皆が眩しくて、輝いてて……。そんな風景を描きたかったの」

 「…俺も輝いて見えてる。俺にはない世界だから……」

 キャンバスには空からの光に照らされた学校と生徒達が描かれている。

 米粒のように小さい人でも、1人1人が輝きを放っている気がする。


 「綺麗だと思う。本当に綺麗だ……」

 「ありがとう。…本当は完成させたかったんだけどね」

 「えっ? これで終わりじゃないの?」

 女子の言葉に驚いて、キャンバスと女子を交互に見た。

 これで十分な気がするけど……。


 「もうちょっと手を加えないといけないんだけどねぇ」

 「そうなんだ。でも、手が治ったら描けるんじゃないの?」

 「う~ん……。難しいかなぁ」

 その女子の顔を見た時、俺は何て軽率な発言をしたのかと、自分を責めた。

 単純に治らないことだってある。手のような繊細な所なら尚更だ。


 教材室の空気が悪くなったのが分かった。

 悪くしたのは俺だ。気の利いた言葉が出て来ない……。

 彼女の傷ついた心を癒すような言葉が。


 「はいはい、暗くならないで。仕方がないことなんだから」

 女子の口から明るい口調で発せられた言葉に目を見開いた。

 仕方がないこと? 確かにそうだとしても、俺の言葉は覆らない。


 「ごめん、それでも嫌な、」

 「もう良いって。こっちまで暗くなるじゃん」

 笑顔で俺を励ますように言葉を掛けてくれた。

 自分から暗くなるようなことをした俺に対して……。


 「ご…、ううん。ありがとう。変に気落ちしちゃった」

 「暗い性格だねぇ。気が利くのに、もったいないんじゃない?」

 「ああ、いやぁ、そのぉ、それが俺ってことでぇ」

 恥ずかしさもあって、出てきた言葉は情けない限りのものだった。

 だが、そんな俺を女子は見つめて笑った。


 「そうかもね。それが…って、自己紹介がまだだったね。私は綾瀬あやせ 小夜さや。よろしくね。

 「あ、うん。俺は守屋 祐。よろしく」

 「ふ~ん……。じゃあ、私のことは小夜って呼んで。その方が親近感湧くでしょ?」

 「えぇ!? いや、それは、普通で、良いんじゃないの?」

 女性を下の名前で呼ぶなんて、妹の楓ぐらいだ。

 それを強要してくるなんて……。


 「はい、祐。私は?」

 「……小…夜……」

 「はい!?」

 「小夜! …これで良い?」

 顔が相当赤くなっているだろう。

 初めて家族以外の女性を下の名前で呼んだのだから。


 でも、小夜はそれを嬉しそうに聞いている気がした。

 恥ずかしくなって目を背け、顔を軽くかいた。


 「あ、そうだ。祐、お願いしていい?」

 「嫌って言っても、却下されそうなんだけど?」

 「分かってるなら手伝って」

 「何を?」

 小夜は包帯で包まれた手をキャンバスに向けた。


 「あれを完成させるの」

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