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信仰への勧誘

数日後

 萌香は加奈と、その友人と共にファミレスに来ていた。


 「加奈ちゃん、お友達も連れて来てくれてありがとう。お友達の方も興味があって来てくれたんでしょ?」

 少し興奮気味に加奈の友人は、私に聞いてきた。


 見た目自体は普通の女子大生にしか見えない。

 ただ、流行物で身を固めてはいないことから、周りに簡単に合わせる事ができない…人間付き合いが上手じゃないのかもしれない。

 私が言うのも失礼だけど……。


 「…はい。加奈ちゃんから聞いて……。どんなことを…しているんですか……?」

 「あ、ちょっと変な所と一緒にして欲しくないなぁ。皆で集まって、お経を唱えて、教祖様とお話するだけだよ」

 加奈の友人は軽く首を振って、楽しげな声で言った。


 今の言葉が正しければ、ただの宗教と言える。

 あとはお金の流れなどがあるか……。ただ、踏み込み過ぎないようにしなければ。


 「…じゃあ、授業料…のようなものは……?」

 「それはあるよ。でも、月に5千円だし、あまり高いものじゃないと思うけど?」

 月5千円……。確かに高いものではない。

 そうなると、ただの新興宗教で多少なりとも怪しいところはあるかもしれないが、悪とは言えなさそうだ。


 「…そうなんですね。…教祖…様とは、何を話すんですか……?」

 教祖様という単語を口にするのが、少し嫌だった。

 辛くて苦しかった記憶が蘇る前に、気持ちを切り替える。


 「ん~…、大学やバイトでの人間関係の悩みとか…嬉しかったことや嫌だったことを話す感じかな」

 加奈の友人は少し考えるように、私から目を逸らした。

 ただ、その目からはただ思い出しているようで、嘘を考えているようではない。


 「…ただ話す…それだけなんですか……?」

 「そうだよ。皆で集まって色々と話しをしたりもするけど、教祖様とのお話が一番心が落ち着くなぁ」

 少し遠い目をして、笑みを浮かべながら言った。


 洗脳…とまでは言えないのかもしれない。

 確かに目からは強い意思を感じるが、狂信的な怖い感じとまでは言えない。

 ただ、加奈にはしつこいまでにこの目を見せられたから、怖いと言ったのだろう。


 そんな考えをしていると、中年の女性が2人、こちらに近づいてきた。


 「あらぁ、愛美まなみちゃん、ここにお友達とお茶しにきたの? 別の場所かと思ってたわ」

 「勘違いされてたんですか? あ、この人達も私と同じ所に行ってるの」

 中年の女性は驚いた顔と声を上げたが、胡散臭さが満々だった。

 加奈の友人…愛美は信用しきっているのか、そんな顔は見せていない。


 「…どうも、都と言います……」

 中年女性の登場で加奈は更に固まってしまったので、私が矢面に立つ為に言った。


 「どうも~、初めましてぇ。あ、一緒にお茶しても良いかしら? 若い子達の会話が聞きたいし。ね、良いでしょ?」

 中年の女性は聞きながらも、私達を囲むように動き出した。

 断ることは簡単だが、ここはもう少し突っ込んだ話をしたい。


 中年の女性達に頷くと、すぐに席に着いた。

 私と加奈は壁際に追いやられている。


 祐の言う通り、圧迫感がある。

 これは心が弱いと解放されたくて、相手の言葉に従うだろう。

 ただ、私はそうと分かって来ているから、動じることはない。


 ひとしきり世間話、とういか中年女性達の会話が続く。

 こちらは置いてけぼりだ。愛美は楽しそうに聞いている。


 「あ、ごめんなさい。ついつい変な話になっちゃって。2人は愛美ちゃんと何の話をしてたの?」

 いきなり会話が戻ってきた。これも1つの作戦のようなものだろう。

 思考を停止させるように、色々な話で頭の中を埋め尽くそうとしているように感じる。


 「2人にはね、『セラム』の良さを話してたんです」

 「あら、そうなの? 良い所よねぇ、本当に。で、2人はなんて?」

 信者同士が勝手に話を進める。


 「ただ話してただけなんですよ。でも、聞いてもらえたから、良さは分かってくれたと思います」

 「そうなのねぇ。楽しいし、教祖様は優しいし、本当に良い所だもんねぇ。私も入って救われたと思ったわ」

 更に信者同士が勝手に話を進める。少し気になった言葉がある。救われた…と。


 「私も救われました。今までフラフラと生きてきたけど、教祖様に導いてもらえた。そう思います」

 「本当にねぇ……。他にも皆、救われたものね。教祖様はすごい御人よねぇ、人を幸せにするし、前向きにしてくれるし、病気だって治せるしね」

 勝手に感傷に浸るように信者同士の会話が続くが、また気になる言葉が出た。

 病気を治せる……。それはどのようなことをさして言っているのか。


 信心深ければ病気が治る、という人達がいる。

 病気が治らずに死んでしまえば、信心が足らなかったと言い、治れば信仰していたお陰と言う。

 これも祐の言った、結果論だ。その過程などは考えず、どちらに転んでも自分達の信仰に結びつけ、都合よく言う。


 「で、2人はどう? 絶対に悪い所じゃないし、見に来るだけでもどうかしら?」

 いきなり話を振られて、少し肩が跳ねそうになった。

 見に行かなければ分からない。その為には……。


 「…あの、病気が…治るというのは…本当ですか……?」

 ここは重要なところだ。結果論でものを言うところか、はたまた本物なのか……。


 「ええ。すぐにはしてもらえないかもしれないけど、早くに治してもらった人もいるから、大丈夫と思うわよ。どうして?」

 「…私の兄が…悪いものを持ってて……。治療も…できないそうなんです……」

 流石にここで加奈を出すのも不味いし、私自身よりは良いだろう。祐を兄として扱う。


 「そうなの…、大変ね。すぐに治してもらえるか分からないけど、話だけしてみるのはどう?

 教祖様とお話しするだけでも、心が落ち着くと思うわ」

 ありがたいことに簡単に受け入れてくれそうだ。

 これで、ここの教団の実情を掴むことができる。


 祐から渡された携帯の番号を女性に渡して、加奈と共にファミレスを出た。


 「萌香ちゃん、ごめんね……。何も言えなくて……」

 「…ううん、大丈夫……。私達の仕事でもあるし…加奈ちゃんが苦しそうなのは嫌だから……」

 本心を加奈に言うと、少しだけ顔が明るくなった。

 加奈だけではなし崩し的に入信させられたかもしれない。


 どのような教団なのか……。

 何にせよ、祐と私で潜入することができる。

 祐ならば何か掴めるかもしれない。


 振り返るとファミレスから私達を見守ってくれていた祐が出てくるのが見えた。

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