回想の手引
「ねぇゆいき、由衣ちゃん今年から中学だよね、まだ学校いけてないの?」
「うん・・・行けてないぞ」
由衣と俺の両親が死んだあの事件まで由衣は学校が大好きな子だったのだが、あれ以来由衣は学校に行かなく、いや行けなくなった。理由はあれから随分たったが未だに教えてもらえない。
「でも、俺は行かなくてもいいと思ってる。何歳からだって学ぼうと思えば学べる。それに伯母さんも認めてくれてるから」
「そっかぁ、ゆいきは優しいね。絶対由衣ちゃんが望まないことはしないもん。」
「優しいって言うより甘いだけだと思うけどな・・・唯一の家族だからな。どうしても甘くなっちゃうんだよな。だから、純華が何かこれはいけない、と思うことがあったら言ってやってくれないか?由衣は純華のこと慕ってる、だから純華の言うことなら聞くと思うからさ。
「お姉ちゃんかぁ、そうだよね。ゆいきと由衣ちゃんと知り合ってずいぶん長いもんね。お義姉ちゃんと思われてるのかぁ。嬉しいな」
今なにかおかしかったような・・・・まぁいいか・・・・
「うん。だから由衣のことよろしくな。」
「うん。出来る限り頑張るよ。あっここまででいいよ!もう近いから。」
「いつも晩おそくになっちゃってごめんな。そしたら、また明日学校でな。」
「大丈夫だよ。お母さんには言ってるから、そしたらゆいきおやすみー!」
「うん。おやすみ」
そういえば、あの日家に帰ろうとした道もこの道だったよな。
◇◇◇◇◇◇
純華と知り合ったのは幼稚園の頃だった。
あいつはいつも年上ぶって、俺や由衣が困っている時にはいつもそばに居た。
もちろんあの両親と俺が11年住んだ家を焼き払った事件の時もーーーー
あの時俺と純華は小5、由衣は小3だった。
俺たち兄妹と純華はいつもみたいに放課後公園で遊んでいた。過去10年間の最低気温を記録した冬だった。
夕方五時頃にたくさんの消防車が街を走っていた。
家が火事なはずがない、火事になった人は大変だなぁ。そう他人事のようにかんがえていた。
火事なんて言うのはニュースの中の出来事。いつもそう思っていた。
家に帰ると家は燃えていた。母さんと父さんの姿はなかった。
家を間違えたのかと思った。信じたくなかった。信じれなかった。どうして自分の家なのか、と
「なんでお家もえてるの・・・・?パパは?ママは?どこいったの・・・・?」
「まってろ由衣、今母さんと父さん助けてくるからな」
「まって!お兄ちゃん行かないでぇっ!」
「すぐ帰ってくるからっ!」
「ゆいき!やめなって!無理だよ・・・・」
「そんなのわかんないだろ!」
わかっていた。心のなかでは一度飛び込めば助からないことを、でも何かをしないと何もできないことへの悔しさで壊れそうだった。
「ゆいと・・・・」
「そうだよな----そうだよな・・・・分かってる・・・・ごめん純華。俺が間違ってたな・・・・由衣、兄ちゃんは行かないから。ずっとお前のそばにいるからな。」
その日は純華のお母さんの好意で、家に泊めてもらった。
あの夜ほど嫌な夜はなかった。由衣は夜が明けても泣いていた。俺は由衣の手を握っておくことしかできなかった。自分が何もできないことが悔しかった。
まだ死んだと決まったわけではない、と消防士さんは言っていたけど、
あんなに寒い日だったのに、周りにいるだけで火の熱を感じられる大火事の中で生きていられるわけがなかった。
その後、親戚の間をたらい回しにされていた俺たちに、刑事さんが訪れて放火だったことを教えてくれた。
恨みも憎しみもなかった。ただ単に両親が死んでしまった、いなくなってしまった。そういう悲しみしかなかった。
あれから5年もたったが、由衣は立ち直れていない。
それに、俺は未だにこの道を歩くと、あの時のことを思い出す。
叔母さんにはお世話になりっぱなし。
まだ犯人だって捕まっていない。
5年前非力だった俺は未だに非力だ。中々人は5年では変わることは難しい。
でも今は由衣が死ななかったことを幸せに思っている。
「ただいまー!」
「おかえりです。道中なにも純華さんにしてないですよね?」
「アハハどうかな?」
「えっ!?ちょっとお兄ちゃんなにしたんですか!?」
「早く寝ろよー」
「はぐらかさないでくださいっ!」
こんな風につまらないやり取りだってできる。それだけでとりあえずは十分だ。