【5話】GPS計画
『雷花待ったか?』
校門の前で待っていた妹の雷花に声をかけた。
『うふふ。今来たところだよ』
雷花は何が嬉しいのか分からないが、満面の笑みを浮かべ、とてもご機嫌だった。
機嫌が悪い雷花は暴走するので、機嫌がいいのは逆に好都合だ。
『(ぼっそっ)来た来た!これぞ恋人の会話!むふふ、お兄ちゃん分かってるぅー!これぞまさに以心伝心ってやつ!妹と兄は、運命という名の鎖で繋がっているからどんな想いも届いちゃうんだね。あれっ?雷花ちゃん気づいちゃった!お兄ちゃんが〔恋人がよく行う定番会話〕を私に向けてやって来たということは、「雷花と恋人でいたい!お前のことが大好きだ!」って意味が込められているんだね!雷花は、お兄ちゃんの発言の真意を正確に理解できるとっても偉い子です!もちろん雷花もお兄ちゃんが大好きだよ!私とお兄ちゃんは相思相愛!完璧なすぎる甘々スウィートな恋人だよー。あっ、スウィートって言ったらお兄ちゃんと一緒にスウィーツ食べたいなー。何食べようかなー。クレープを買って食べさせ合いっこしてもいいなー。わざとほっぺに生クリームをつけてお兄ちゃんに食べて貰おうかなー。でもでもパフェもいいなー。私が一口食べた後に私のスプーンでお兄ちゃんにパフェを「あ~ん」してあげて、そのあと、お兄ちゃんが使ったスプーンを味わうの!お兄ちゃん味のパフェ食べちゃったら天に昇っちゃうよー。えへへ。お兄ちゃんには私を味わって貰えて、私はお兄ちゃんを味わえるという一石二鳥!よし、パフェに決まりだねっ!うふふふふ。』
『おーい雷花?』
雷花が一人でぼそぼそ喋って喋りかけても動かないので、手を引いて行くことにした。
ぎゅっ!
『きゃっ!お兄ちゃんっ!』
雷花が雷に打たれたようにビクッとなった。
この年になって兄妹で手を握るのが恥ずかしかったのだろうか。
『あっ、ごめんな。嫌だったか?』
『違うの!ただビックリしただけなの!だからもっと握って!もう雷花のこと離さないで!』
そうか、驚いただけなら良かった。
『お兄ちゃんの手、大きいね…』
『そりゃ〜俺も男だからな』
『(ぼそっ)えっ?お兄ちゃん…私に【男】アピールをしてきちゃったよ…どうしよう!お兄ちゃんが男の本能を抑えきれなくて女の子の私を食べちゃいたいって!やった!ついに毎朝飲ませ続けたトマトジュースの効果が出たよ!』
雷花が騒いでいる間に目的地の携帯ショップに着いた。
そう、今朝雷花に壊された携帯を新しく買い直すためにである。
『いらっしゃいませ~』
可愛い系の女性店員さんが挨拶をして来た。
グキッ!
雷花に足を踏まれた。
『いたっ』
『お兄ちゃん!?今、この人のことを可愛いなって思ったでしょ?』
『まぁ、少し』
負負負負負負負負フフフフフフフフ…
負のオーラと不気味な笑いが漏れていますよ雷花ちゃん!怖いですよ雷花ちゃん!
『可愛らしい彼女さんですね~』
店員さんが声をかけて来た。
『いや、彼女じゃなくてっ』
グキッ!
また足を踏まれた。
『そうなんです!彼女なんです』
雷花の機嫌が急に直ったので、黙っていることにした。
これ以上喋って雷花の地雷を踏むのは不味い。
それにしてもやっぱり女心って難しいな。
ちょっとしたことで怒ったり笑ったりコロコロ表情を変える女の子に戸惑いを覚えることも多いが、雷花の笑顔はとても可愛いから、たまに怖いのは我慢しよう。
『手を繋がれていらっしゃるのをお見受けすると、お二人はととも仲がよろしいのですね!』
『相思相愛!永遠の愛を誓った仲です!』
『そうなんですかぁ~じゃあ、恋人定額とかお勧めですよ?通話料が半額になりますよ?』
『いえ、電話はかけないんです。喋る時は、きちんと顔を見ながら喋りたいので!』
そりゃ、同じ家に住んでたら電話はかけないよな。
『そっ、そうなんですね…、え、えっと残念ですね。それで本日は当店にどの様な御用件で参ったのでしょうか?』
『恭弥お兄ちゃんの携帯を新しくするためです!』
『携帯を壊されたんですか?よろしければ、携帯の破損状態を確認して修理を行うことも可能ですが、本日は、破損した携帯をお持ちでしょうか?』
『いえ、バラバラの粉々で破損状態も最悪ですし、そして何より他の女に汚されてしまった携帯なので、もう使えません。お兄ちゃんがスマートフォンを欲しいらしいのでこちらにあるスマートフォンを紹介していただけますか?』
『え?他の女…汚され?え?』
店員さんが何か驚いていた。
丁度近くに展示されていたスマホをいじっていたので雷花と店員さんの会話を聞きのがしてしまった。
『お兄ちゃんがスマートフォンをご所望なので紹介していただけますか?????』
『はっ、はいっ!』
店員さんが雷花の迫力に押されてすぐさま紹介に入った。
店員さんが、スペックや機種の話をしてくれていたが、難しすぎて半分ぐらい理解できなかった。
雷花の方は、うんうん頷いてしっかり聞いていた。兄の携帯選びに真剣になってくれるような兄孝行な妹を持てて俺は幸せだ。
『お兄ちゃん!これにしよう!これならお兄ちゃんが持つのに適しているから!』
『どんな機種なんだ?』
『えっとね~GPS機能がついてるの!』
『GPS?』
『GPSってのは、ちょっとしたマップ機能のことだよ!』
『そうなのか。マップが使えると便利だよな。よしこれにしよう!』
『よし、これに決定!店員さんこれ下さい!』
『お買い上げありがとうございました』
店員さんがずいぶん疲れたように見えた。
契約が無事に済み、携帯ショップを出ると空が大分暗くなっていた。
『お兄ちゃんご飯食べて帰ろうよ!』
『あぁ、そうだな。今から雷花にご飯を作ってもらうのは申し訳ないしな。今日、携帯ショップに付き合ってもらったお礼に俺が何でも奢ってやるから何でも好きなだけ食べていいぞ!』
『ほんと?ほんと?じゃあね~雷花ね!パフェが食べたい!』
『わかったよ!おっきなパフェでも奢ってやるよ!』
『わぁ~楽しみだな~』
パフェ1つでウキウキする妹を見るとなんだかほっこりした気持ちになった。