【27話】娘が出来ました。
突然、見知らぬ幼女からパパと呼ばれて混乱しない男がこの世に存在するのだろうか?
いや、断じてそんな男は、いない!
いないはずだっ!
そして、その例外でない俺は、めちゃくちゃ混乱していた。
ツンツン。
いきなり服の裾を小さな力で引っ張られた。
服が引っ張られた方を見ると、先程、美水が俺の娘だと紹介した女の子が、裾を引っ張っていた。
『えっと…』
『恭弥様と私の愛娘の名前は、雪の音と書いて雪音ちゃんですわ‼︎』
美水がフォローしてくれた。
愛娘という単語は、脳内でスルーした。
『ええと、雪音ちゃん‼︎俺に何か用かな⁇』
『パパ…いつもおしごと、いそがしい。きょうも…おしごといそがしい⁇』
雪音ちゃんは、何かを期待しているような、でも半分諦めているような顔で質問して来た。
『そうだなぁ〜。忙しいかもしれないなぁ〜』
『そっか…』
しゅん…
そう言うと雪音ちゃんが寂しそうな顔をした。
雪音ちゃん、なんて切なそうな顔をするんだ!
こんな顔されたら守りたくなってしまうじゃないか!
俺の中で父性が目覚めつつあった。
『でも、俺、記憶喪失だから仕事も出来ないから、仕事休んじゃおうかなぁ〜それで、ゆっくり雪音ちゃんと遊ぼうかなぁ〜』
『ほん…と?』
ぱぁ〜っと雪音ちゃんが顔を明るくした。
『美水!そういうことだから、今日は、雪音ちゃんと遊ぶために仕事を休むけどいいかな⁇』
『はい!私は、娘孝行する旦那様を持って幸せなので、何も文句はいいませんわ♪』
くっ…美水が、娘や旦那という単語で俺が目を背けて全力で忘れようとしていた現実を突きつけて来た。
『でも、遊びに行く前に先ずは、朝食ですわね!』
ガクガクガク…
体が急に震え出した‼︎
三人でキッチンまで移動したが、体の震えは、止まらなかった。
『あらっ‼︎私、炊飯器の炊飯ボタンを押し忘れたみたい‼︎』
ピタッ。
体の震えが止まった。
『せっかくお味噌汁を作ったからお味噌汁だけでも飲みますか⁇』
ガクガクガクガクガクガク…
また体の震えが始まった。
『そういえば、確か美味しいパンがありましたわね!でも、パンと味噌汁って合うでしょうか⁇』
ピタッ。
また体の震えが止まった。
『よし!パンにしよう!パンが食べたい!それからフレンチトーストにしよう!フレンチトーストが、今、どーしても食べたいんだ!フレンチトーストは、俺に作らせてくれ!俺は、フレンチトーストに関しては、ちょっとしたこだわりがあるんだ‼︎』
何故か誰かに操られたかのように口から勝手に言葉が出て来た。
『ゆきも、パパ、てつだう』
雪音ちゃんがお手伝いを買って出てくれた。
『なら、私も入れて3人で一緒に‼︎』
美水が自分も入れて3人での調理を提案して来た。
『いや、今日は、雪音ちゃんと二人で作りたいんだ!今日は、雪音ちゃんと二人で色々してみたいからさ!二人で作らせてくれ!美水は、そこでゆっくり見ててくれ!』
何故か、俺は、必死で美水が料理に参加しない様にしていた。
『あらあら、二人は仲良しさんで、私は、お邪魔虫なのですね!いいですわ!今日は、私は、雪音ちゃんと恭弥様の撮影係になりますわ‼︎』
ホッ…
何故か俺は、ホッとして危険が去った様に感じた。
このタイムトラベルしたかの様な状況…どうにかするしかない!
そう思いながら雪音ちゃんとフレンチトーストを作り出した。