【26話】妻が出来ました。
『おいおい、ちょっと待ってくれ!美水!』
俺は、少し動揺していた。
起きたら見知らぬベッドで寝ていて、そして起こしてくれたのがエプロン姿の幼馴染。
そして…何故か俺と美水の左手薬指には、金属製のお揃いの輪っかがついている。
まさにドラマの中の新婚生活を絵に描いたようなこの状況に俺の頭は、ついて行けていなかった…
『美水…さっき、俺のことを「あなた」って呼んでたけど、あれは、どういう意味なんだ?』
『え?私達夫婦じゃありませんか!妻が夫を「あなた」と呼ぶのは、普通ですよ?』
『俺は、美水と結婚した覚えがないんだが…』
『そっ、そんなまさかっ‼︎もしかして、昨日、野球のボールが頭に当たったのが原因で記憶喪失になったのかもしれませんわ!きっとそうですわ!』
『そっ、そうなのか…俺が記憶喪失…雷花や美水と無人島にいた日までの記憶ならはっきりと覚えているんだが…』
『雷花ちゃんと無人島に行ったのは、4年前ですよ!』
『そっ、そんな馬鹿な…4年前?』
その4年間の間に俺にいったい何があったんだ…
『美水、悪いんだが…記憶のない空白の4年間の話を聞かせてもらえるか⁇もちろん夫婦とか冗談は抜きで頼む!』
『もちろん♪喜んで♪』
美水がウキウキ過ぎて怖い。
『そうですわね!重要ポイントを写真をお見せしながら話しますね!それと、呼び方は、昔みたいに恭弥様にしますね!』
『あぁ、両方ともそうしてくれ!助かる!』
美水は、パソコンを起動して、リモコンを操作して、プロジェクターや超大型スクリーンを部屋の天井から出現させた。
『では、まず恭弥様が覚えている無人島の直後からお話しますわ。私達3人は、私と雷花ちゃんの料理対決の後にすぐ救助され、無事に元の生活に戻りました』
俺と雷花が担架で運ばれて、救急車に乗せられている写真が映し出されていた。
この写真…美水だけ、ぴんぴんしている様に見えたのは、気のせいだろうか?
『その後、私達は、元の日常に戻りました。でも、すべてがただ元通りになったわけではなく、大自然の前の人間の命の儚さを知ってしまった私は、【命短し恋せよ乙女!】の心意気を持って、勇気を出すことを決意!恭弥様に告白して、恭弥様も私に好意を抱いていらっしゃったようで、相思相愛の私達は、お付き合いを始めました。そして、私達二人は、残りの高校生活をずっとお付き合いして過ごし、高校卒業と同時に婚姻届を提出して結婚し、恭弥様は、私の父の会社を継いで社長になられました』
『いやいやいや、待ってくれ…』
今の話にまったく着いて行けてなかった。
『結婚とか冗談だろ?』
『本当ですわ‼︎だって、、』
ガチャリ。
急にドアが空いて、
小さな女の子が部屋の中に入って来た。
銀髪といい、少し垂れ目がちな目といい、とても美水に似た可愛い女の子だった。美水は、銀髪ロングだが、この子は、銀髪ショートだった。
その女の子が俺を見て衝撃の発言をした。
『パパ…』
『え?』
思わず聞き返してしまった。
『パパ、おはよう…』
女の子は、とても小さくて透き通った声で、はっきりと俺のことを『パパ』と呼んだ。
『君のパパと俺が似てて間違えたのかな⁇』
俺は、女の子に聞いて見た。
すると、女の子は、俺を指差して、
『私のパパ…』
とはっきりと断言した。
『その子は、恭弥様と私の子供です!私が産みました!』
そう言って、美水は、マタニティドレスを着たお腹の大きな写真や産まれたばかりの子供を抱いた自分の写真をスクリーンに映し出した…
どういうことだよ…
俺、知らない間に妻と娘が出来てました…