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帰郷

もう春だというのに雪を纏う山。寒そうに身を寄せ合いただの白い固まりと化している羊たち。蕾のままなかなか開かない花々。


春の国、花の都とよばれるフローリア王国の北の端の端。北国との国境に位置する町。半年振りに帰ってきた私の故郷だ。フルール城から馬車で3日。野を超え山を越え川を渡ってお尻への鈍痛に限界が迫ってくるころにようやく到着する。我が家のあるハーベスト男爵領だ。


「おかえり。」


「おねぇちゃん、おかえりなさい!」


街の入り口で馬車を降りると、弟と妹が待っていてくれた。5つ下の弟と、そのさらに5つ下の妹。私を慕って笑顔で迎えてくれた二人が可愛くてたまらない。誰に似たのか、しっかりした弟は持っていた荷物を私の手からするりと奪った。


「あ、それ重たいのよ。」


「だから僕が持つんでしょ?」


1年ほど前から弟は体つきがしっかりしてきて、重たいものを持てるようになると率先して持ってくれた。母と、姉である私と、それから妹。自分が家族を守るんだと、まだ自分も子どもだというのに張り切って勉強や剣の稽古をしている。

笑うと目じりが下がりえくぼができるところは、父に似ていて人を和ませる力がある。いやん!もう可愛い!癒される。浮腫んだ足だとか痛むお尻のことなんて忘れてしまう。


「おねぇちゃん、家まで手ぇつなご?」


私の右手をとって先へと急かすようにはしゃぐ妹は少し背が伸びたみたいだ。白くふわふわしたフード付きのドレスを着たこの子はもはや天使だ。

都会の生活で涸れきった心に染み渡る懐かしい癒しに心身ともに満たされる。やはり平穏な生活はお金で買えるものではないのね。通常の給金にさらに特別手当が上乗せされたけれど、私が求めていたのはこのオアシスだったようだ。心の安寧があってこその健康だもの。


あ、もちろんお金も必要だけどね。ありがたくいただきました。


予想よりも早くここに戻ってくることができた。契約期間を終えるまでは里帰りなんてできないと思っていたけれど、そもそもの発端となった方が戻ってきて、私の任務が突然終わりを迎えた。


「ママも叔父さんも久しぶりにおねぇちゃんに会えるのを楽しみに待っているのよ。」


「そんなに仕事が忙しかったの?」


右は妹、左側には弟を引き連れ家路を辿る途中、3~4ヶ月ごとだった帰省が、今回は半年以上空いてしまったことを尋ねられた。けれど答えることなんてとてもできない。顔なじみの街の人にも同じことを聞かれたけれど。まさか殿下の婚約者をしていたなんて。


「ちょっと…ね。でも、もう終わったから。」


あいまいに笑うしかできない。賢い弟は少し納得してないようだったけれど。ごめん!おねぇちゃんを見逃して!


久しぶりの再会に話に花を咲かせているとあっという間に家に到着した。屋敷といっていいのかわからないけれど、ここ一帯の領主だけあって街で一応一番大きな家。古くてところどころ傷んでいるのが目に付くけれど。街の子どもたちが屋敷裏にある倉庫を「幽霊小屋」と言って度胸試しに使っているのを私は知っている。


母や叔父との再会も果たし、皆でささやかなパーティーを開いてくれた。夜会なんてあんな大規模のものではなく、ホームパーティーだけど。家族団らんの時間を心から楽しんだけれど、長時間の移動の疲れが出たのか眠くなった私は一足先に自室に戻ることにし、一緒に寝たいとせがむ妹とベッドに入った。


このときはまさか、次に目が覚めたときに、とんでもないものが街にやって来ていたなんて思いもよらなかった。




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