休息
それから日が真南に完全に昇るまで講義は続き、昼食の時間になったということでお開きになった。たった数時間で分厚いフローリア建国史3巻分、説明してくださいました。私の頭は破裂寸前でございます。
「私はこの後公務がありますので退席させていただきますが、午後からはダンスのレッスンとして特別講師の方をお呼びしております。時々様子を見に来ますのでサボらないように。」
釘を刺すことをしっかり忘れず、「復習と予習をして置くように」と最後に付け加えて部屋を出て行った。
手元には新たに追加された建国史第4巻から7巻。建国史は全10巻らしいから、明日には8~10巻を持ってくるのだろう。1,000年分の建国史を2、3日でやる気ですか、あの方は。
凝り固まった肩と首をほぐすとコキリと音が鳴る。まだうら若き18歳の乙女だというのに。なんだか情けない。コーリア様の前では恐ろしくて出来なかった伸びを思い切りする。するとマルガリータさんが昼食を乗せたワゴンを押して部屋に入ってくる。
「お疲れさまです。ダリア様。」
マルガリータさんは私が本物のダリア嬢ではないと知っているのに私をその名で呼ぶ。いつ何時、誰が聞いているか分からないからだそうだけど、なんだか少し寂しい。一応自己紹介はしたのに。
昼食後、1時間ほど余裕があると言われ、それまでの時間何をするか聞かれたから私は庭への外出をお願いしてみた。ダリア嬢の部屋からは綺麗な中庭が見える。春の城の庭園はとても綺麗に花が咲き誇る季節で、中庭も小規模ながら負けていないほど魅力的だ。赤、黄、白、橙等の可愛らしい花がちらちらと見えていたから気になっていた。
外出は控えるように言われていたからダメかなとも思ったけど、マルガリータさんがわざわざコーリア様に許可をとってきてくれて、散歩くらいならと許してくれた。
早速中庭に降り立ち散策する。散策するほどの広さではなく、ちょっと大きめのバルコニー程度だからすぐに見渡せる広さではあったが、花壇いっぱいに咲いた花は今が満開のようで、色とりどりの花が目を楽しませてくれる。花はどれも活き活きして見え、傷ひとつない。元々花は好きだし、別館の花壇のお世話もしていたくらいだ。庭師の腕の良さが伺える。
一番奥には薔薇垣の影になった小さめの四阿があり、そこに腰を下ろす。マルガリータさんがお茶を持ってきてくれたから有難くそれを頂きほっと息をついた。通り抜ける風はここちよく、ふわりと花の香りを運んできてくれる。めまぐるしく変わった環境にわずか一日目で根を上げそうになったけど、これで少しは落ち着いた気がする。あくまで気がしただけだけど。
ふと館の方を見上げると、正面の3階の窓はちょうど私がお世話になっている窓だ。きっとダリア嬢のために景色の良い部屋を与えたのだろう。お陰でこんなに素敵な中庭を発見できたし、勉強の合間に眺めるだけで癒されそうだ。
私の部屋のさらに上を見上げると、そこに人影が見えた。暗くて、遠くて顔は分からなかったが、上の部屋には誰かがいたらしい。部屋での悶絶とか絶叫とか聞こえてなきゃいいけど。
紅茶を飲み終えるとマルガリータさんから「そろそろお時間です」言われ、私は惜しみながらもダンスレッスンに向かうため中庭に別れを告げることになった。