王妃
「ダリアちゃん、いらっしゃい!!」
「ご機嫌麗しゅうございます、王妃殿下。」
「さぁさ、早くこちらにいらっしゃいな。美味しいお菓子も用意しているのよ。」
連日溜まっている疲れを感じさせないよう慎重に、かつ優雅な振る舞いを心がける。爪の先まで気を配り、カップとソーサーがぶつかる音などもちろん立てることなく、茶会は滞りなく進んでいる。自分で自分を褒めたいほど完璧だと思う。
見ごろを迎え誰もが目を奪われるほど素晴らしい光景を見せる王城の花園はフローリア王国一の庭師により整えられたものなのに、その観客が王妃殿下と私の二人だけというなんとも贅沢な環境だ。
この日ため急遽仕立てられたという若草色のドレスは陽の光を浴びて煌びやかに輝いており、王妃殿下の黄色のドレスもまた色とりどりの花の中でも極めて目立っている。
美しい景色と美味しいお茶、清らかで楽しげな笑い声で、庭園は想像したよりも和やかな雰囲気に包まれている。
「本当は早くこうして二人でお茶したかったのに、あの子ったら何かと理由をつけては断っていたのよ。」
「申し訳ございません。今日は王妃殿下とこうしてお話することができて本当に嬉しいですわ。レンギョウ様の幼少の頃のお話などお聞きしたいですわ。」
「それは止めていただきたいものだな。」
今まさに話に花を咲かせようとしていたところでレンギョウ王子殿下が近づいてきた。久しぶりに見る丹精なお顔は太陽の光のまぶしさに目を細めていても絵になっている。
公務の途中なのか黒い詰襟というシンプルで味気ない格好であるが背が高く細身で引き締まっているためなんとなく格好良く見えなくも無い。こちとら精一杯着飾らないといけないというのに、なんだか悔しい。さすが一国の王子というべきか。
じとりと上から下まで眺めていると目が合ってしまい誤魔化してしまえと「ごきげんようレンギョウ様」と語尾にハートをつける勢いで微笑んだのに少し目を見開いただけ。普通褒め言葉のひとつやふたつ、あるものではないかしら。
ずっと微笑み続けるのも疲れるし、かといってこちらから目を反らすのも失礼になるかもしれないし・・・とそのまま目を合わせていると「きゃ~もう!見詰め合っちゃって!」という王妃殿下の興奮した声でようやく視線から解放された。
「いや少し驚いただけだ」とだけ言葉を発したけれど、もしやこの姿に見とれていたということかしら。実に分かりにくい態度だ。
その後も王妃殿下によるレンギョウ様の昔話と、それを阻止しようとする攻防が何度かありつつ、無事、初めてのお茶会は終了した。
それにしても、レンギョウ様は私が王妃殿下とお茶しようが何してようが無関心だと思ったけれど。この場に来てくれたなんて少しは心配をしてくれたのかしら。それとも端に王妃殿下(母親)に命じられて?
王妃殿下をお見送りし、ついでに私も部屋まで送ってくれるらしいレンギョウ様と二人で長い廊下を歩く。陽が落ちてきて少し気温が下がり、静まり返った辺りにはヒールの音だけが響いている。
部屋の扉を開いてもらいここでお別れかなとくるりと振り向けば、存外真面目な(いや、まぁ通常の顔との些細な違いなんてわからないけれど。)表情と向かい合った。
「君は、戻って来ていたのか。」




