歴史
フローリア王国。ベレッツァ大陸の東側に位置する大国であり温暖な気候、恵み豊かな自然に囲まれる国だ。紡績業、織物業が盛んな国でフローリア産の織物や着物、刺繍技術などは有名で高値で取引されている。
今から2,000年前、水、光、風の神々が降り立ち争った際の衝撃でできたのがベレッツァ大陸と言われている。北に水の神が、東に風の神が、西に光の神が住み着き、自然の恵みを与え、生命を作った。
東国は風の神が山を開き、水を引き、花を芽吹かせて開拓した土地であり、人が集まり集落を作り始めたころ、風の神に統率者として認められたフルール一世がこのフローリア王国を建国した。
これが1087年前。綿花の豊富だったフローリア王国は、紡績業で成功し今日まで栄えてきた。現在フローリア王国は綿花の栽培のほか、牧羊や養蚕まで手を広げ紡績、織物業を主とした生業で成り立っている。ちなみに現国王はカミツレ=ヴァン=フルール第三十三世で、レンギョウ王子の父王である。
「と、まぁこれが簡単なこの国の歴史ですが。もちろん知っていましたよね?」
分厚い本を片手にすらすらと止まることなく話し続けるのはブリザード側近のコーリア様。
朝まだ夜が明けたか明けてないかの時間に叩き起こされた。申し訳程度に出されたアーリーティを一気飲みする勢いで喉に流し込み、ダリア嬢付きメイドのマルガリータさんに仕度を整えてもらった。
簡単な食事を寝室で済ませてから出ると待っていたのは機嫌の良くなさそうなコーリア様。朝が弱いのか、眉間のしわが消えていない。肌は青白いし、見るからに低血圧な感じである。頭がまだ眠りに半分浸かっている状態のまま部屋の中央にあるテーブルに促され席に着くと早速講義が始まった。
「はい、では紡績工場建設の第一人者の名前を答えてください。」
え?ダイイイチニンシャ?誰でしたっけという顔でコーリア様を見つめると、にこりと良い笑顔で返された。
「昨日お渡しした本に書いてありましたよね?フローリア建国史第3巻、第5章の168ページにあったはずですよ?」
正直言って1巻で精一杯でした、とか言ったら殺されるかな。
「わ、わかりませ・・・ん。」
そう答えるとコーリア様を額に手を当てて思いっきりため息をつく。
「まぁ期待はしていませんでしたがね。第一人者の名はエシャルプ=アン=コトン。フローリア国南部の出身で現在のコトン侯爵家の始祖ですよ。全く、常識です。」
そんな名前、聞いてもちっともピンときませんでした。聞いた事ありません。
私の生まれは国の北部、大陸北に位置するスノーホワイト王国との国境付近で、寒さの厳しい場所だ。一年中の大半が雪に覆われ、春などわずかの期間しかない。北部の繭を生産する養蚕の荘園領主だった父は一応男爵を賜爵していたが、何代か前からか綿の石高が減り経営悪化の一途を辿っていた。結果今や荘園の面積はどんどん小さくなり、爵位なんて名ばかりで、取り潰しの一歩手前だ。
父が10年前に亡くなってからはいっそう厳しくなり、病弱な母では荘園を保つことができなくなったため、現在は父の弟である叔父が経営の建て直しに尽力している。私も仕事を手伝うために、また弟が成人するまでに家を守るため叔父について回った。私が13歳になった頃、城でのお勤めの話が舞い込んできたため、食いブチ減らしと、仕送り、それと行儀見習いのために出仕した。
家にはまだ小さい妹や弟たちがいる。あの子たちだけでもきちんとした教育を受けさせてあげたいし、大学にも行かせたい。だから、私はできることをしないと。
「申し訳ありません。ご教授願います。」
頭をゆっくりと下げコーリア様に教えを請うと、早口ではあるが、実に分かりやすく丁寧な言葉で・・・・・・・・・大変長い時間説明をしてくれた。