観光
「あぁ、退屈なら観光でもしてろよ?大丈夫。信頼できるやつを供につけるから。」そうヴァンさんが言っていたから、3人が不在の間、城下町を観光することにした。・・・んだけど。
「お久しぶりです、レディ。」
「あ、やっぱり観光は遠慮して部屋でおとなしくしておきます。」
部屋に迎えに来てくれた“供”を見た瞬間、町に繰り出す気が一気に失せた。赤茶の長めの髪を緩くひとつに束ね、大人の色気をだだ漏れさせている男の人。嫌いとかじゃないんだけど、なんとなく畏れをいだいてしまう、つい避けてしまいがちになる人だ。無礼なのを承知で慌てて扉を閉めようとしたのに、彼は完全に扉が閉まる前に隙間に爪先を滑り込ませてそれを阻んだ。
「ふふ。照れているのですか?さぁ、レディ、行きましょう?」
うやうやしくも強引に部屋から連れ出す彼の名はヒイラギさん。モンド王国ランディ城に出入りする商人のうちの一人で、ヴァンさん・・・リヒト王子のご友人(?)であらせられる。いつぞやのパーティーで初対面し、ヴァンさんのフルール城訪問にも付いてきたお方だ。
やわらかな笑みの下に何かが隠れていそうで、妖しい雰囲気に飲み込まれてしまい近寄り難いのだ。あのコーリア様でさえ“食えない男”と評していたくらいだし。ヴァンさんは「信用できるもの」と言ったけれど、信用などという問題ではない。なるべく、一緒にいたくないのだ。
けれど、善意でお供を申し出てくれた彼を無碍にするわけにもいかず(ていうか断れない雰囲気だったんだもの)、しぶしぶ出かけることになった。
「うわぁぁ、すごーい!!」
町に出ると、人があふれていて、立ち並ぶ出店は活気づいている。通りの広さは馬車がぎりぎり通ることができる広さしかないから、行き交う人の流れの中でヒイラギさんとはぐれないようにするだけでも大変である。主に生鮮食品や生花、生活雑貨が主に売買されているフルール城下と違い、ランディ城下は美味しそうなお菓子や香ばしい匂いの食べ物が私のおなかを刺激し、きらきらと光る宝石のついた飾りものは見ているだけでわくわくさせる。もはや一緒にいる人のことなんて頭から抜け出るくらい。
「こらこら、レディ。はぐれてしまいますよ。」
さりげなく手をつないでくるけど、まぁ仕方ない。やんわりと包んでいるようで、実は磁石のように離れないんだもの。出店で商品を手にとるときは手を離してくれるけれど、その店から離れるときは必ずつなぎなおされた。ただヒイラギさんに買ってもらったお菓子を食べようとしたときもなかなか手を離してくれず、「あーん」とかされそうになったときは断固拒否しました。
それにしても、ヒイラギさん。けっこう有名な方らしく、行く人行く人に声をかけられ、お店の人にはたくさんのおまけをいただき、道行くお姉さま方からは(私の存在を無視して)お誘いを受け・・・。
「どうぞおかまいなく。」とお姉さま方に付いていくことをお勧めしたのに、また今度、とにこりと微笑み返すだけでした。ランディ城から町まで一本道だからさすがの私でも迷わないからお供なんていらないのに。まぁ、ヒイラギさんがいてくれたおかげで十分観光できているし、美味しいものたくさんもらったし、感謝しなきゃなのです。
しばらく店をひやかし、通りを抜け少し開けたところにあるカフェテリアで休憩をとることになった。店外に設けてある席につき、遠くの人だかりを眺める。髪をなでる風は、人の熱気で火照った身体をそっと冷やしていく。その心地よさと、舌がとろけそうなほど美味のデザートに幸せいっぱいの空間が広がっている。目の前の席に座る美しい男性も、風景と化している。だから話しかけられていることにもしばらく気が付かなかった。
「レディ、レディ?・・・・少しだけ、席をはずしてもよろしいですか?」
見るとヒイラギさんの目線の先には中年のふくよかな男性がいて聞くところによると、商売のお客さんで、すこし話をしてきたいらしい。
「えぇ、どうぞ。大人しく待っていますから。」
すみませんと一言のあと仕事の顏をして席を離れていくヒイラギさんを、少しだけ見直した。




