苦悶
・・・・・・んぅ・・・・・
ちょっ・・・・・・・・・
ま、待ってくださっ・・・
コーリ・・・アさ・・・ま・・・
んんっぅ!!
う・・・・・・・・・・・・・う゛ぅ・・ゲホッッゲホッッッ!
ちょっ、待っ、鼻っ、鼻に入っ・・・げほっっっっ!
「ふんっ。この酔っ払いが。」
コーリア様は、グラスを持ち妖艶に微笑むと私のあごに指をかけると、爪が食い込むほど鷲づかみにした。そしてグラスを口元で大きく傾け、無理やり飲ませようとしたのだ。ろくに開いていない口からは水がこぼれ、顏のラインに沿って流れた水はそのまま鼻やら目やらにごぼごぼと入った。必死に飲もうとしても、グラスの水は意外と多かったようで、飲み込むのに間に合わず、胸元まで水が垂れた。
ツーンと痛む鼻筋を押さえながら気管に入った水で咳き込む間、コーリア様はそ知らぬ顏で自分の手をハンカチで拭いている。
「ひどいでず・・・。」
「酔いが覚めたのならさっさと着替えて眠ってしまいなさい。」
コーリア様は、眉間に皺をよせたまま私の塗れた顏を丁寧に拭ってくれ、それも一通り終わると、扉の外を歩いていたメイドに声をかけて風呂の準備を頼んでいる様子を、だんだんとクリアになってきた頭で眺めた。
「それから・・・今後は酒を飲まないように。」
「へっ?」
「いいですね?殿下の前でもですよ。」
返事をするまで許さないというようなコーリア様を前にしては、私は頷くしかなかった。
「・・・私以外我慢できるとは思えませんから。」
そう謎の言葉をいい残してコーリア様は部屋を後にした。
しばらくしてメイドさんが用意してくれた湯につかりながら、そういえばコーリア様に随分不躾な態度を取った気がするが大丈夫だったであろうか、とふと思った。どうもパーティー会場で第1王子たちに勧められたジュースはアルコール入りで、めったにお酒など飲まない私は少しだけ思考が不明瞭に、気が大きくなっていたらしい。断じて酔っ払ってはいない。断じて。
冷静になり思い出すと恐ろしい。湯につかり身体は温まっているはずなのに、今後の処遇を考えるだけで震えだしそうだった。
コンコン
風呂からあがりメイドさんに帰ってもらったあと、さて寝ようかと寝室のドアを開けようとしていたらノックが聞こえてきた。「はい」と答えそうになって慌てて口をつぐむ。以前はうっかり扉を開けてひどい目にあったものだ。もう騙されないぞ。
そろりと足音を立てないように扉に近づいてみる。またヴァンさんかな。ここはやりすごしたほうが懸命に違いない。扉に耳を近づけ、外の様子を伺う。
「ダリアちゃぁん?起きてるー?ぼくだけど。」
聞こえてきたのは甘ったるい男の声。自分のことを「僕」と呼ぶなんて。声からしても自分の呼び方にしてもヴァンさんではない。もちろん、殿下でもコーリア様でも。
誰だろう。記憶をたどり人物の特定を急ごうとしたところで再びノック音がする。
コンコンコンコン。
「ねぇ、起きてるでしょ?ちょっと庭に散歩に行かない?それともダリアちゃんお部屋でお茶するぅ?」
・・・本当に誰だっけ。




