入城
「よぉっ!久しぶりだなー・・・・ってなんで隠れるんだよ。」
モンド王国ランディ城に到着したのは夜遅くになってからだった。
初めて訪れたこの国は、気候的にはフローリア王国とあまり変わらず、すこし涼しく感じるくらいだ。城に向かう途中城下町を馬車で通ったが、夜というのに人通りは多く、どの店も明々と光輝いていた。夜店がいくつも連なっており、祭でもあっているのかと思ったが、コーリア様によればいつもの光景だそうだ。
モンド王国の城下町は殊更「眠らない町」と呼ばれており夜でも町は昼のように明るい。毎夜のごとくあちらこちらで宴が開かれ、煌びやかで華やかな世界が広がっている。
城内に入ってからも、寝静まることなく使用人たちが忙しそうに働いていた。殿下とコーリア様、そして私が通された部屋は豪華の一言につき、とくに細かい細工が施してあるシャンデリアがこぼれんばかりの光を放っているのにはほぉっと息をついたほどだ。
特産の茶で一息ついているところに大きな音を立てて扉が開かれ、ヴァンさんが入ってきた。目の覚めるような青に銀糸で川の流れを表したような衣裳に身をつつみ、膝元の長さまである裾を翻しながら近づいてくる。銀の髪に青がよく映えて綺麗などと一瞬見とれそうになったけれど、先日の一件を思い出し、即座に殿下の後ろに隠れてしまったのはやむを得ないだろう。
「リヒト王子。」
殿下の影から出るのをためらっていると、コーリア様が私たちとヴァンさんの前に立った。こちらからは背中しか見えていないけれど、世間話を始めようとしているのではないことくらいはわかる。
ヴァンさんは「あー・・・コーリアは招待してねぇはずだけど。」と目をそらしながら頭をがしがしと掻いていた。
「あれだけ熱烈な手紙を送られたら来ないわけにはいきません。」
「いや、だからあれはお前にじゃなくてだな・・・いや、なんでもないです。」
2,3歩後ずさるヴァンさんの表情は少し引きつっていて、あの時、あれだけ妖艶に笑っていた人と同じとは思えないくらい、今は年相応の顏をしている。
コンコン
コーリア様が黒いオーラを纏ったまま、ヴァンさんに1歩近づいたところで部屋の扉がノックされた。ヴァンさんが許可し入ってきたのは、背が高くやせ気味の男と、反対に背は低く太めの男2人だった。
「兄さん。」
ヴァンさんがたたずまいを直し、いつもより低めの、大人しい声で2人に向き直る。いつものいたずらっ子のような笑顔が、青年らしい、けれど作られたような微笑に変わっている。
「お久しぶりです。このたびはお招きいただきありがとうございます。」
殿下が私の腰を支え、前に一歩出る。殿下が私を2人に紹介し、慌てて頭を下げる。目のあった背の高いほうの男性にはくすりと笑われてしまった。それが恥ずかしく思わず俯くと、コーリア様がいつの間にか部屋の隅に移動していたのが見えた。
ヴァンさんのお兄さんたち、つまり2人ともモンド王国の王子なのだ。背が高くひょろりとした男性が第1王子で、背が低く太めな男性が第2王子だそうだ。
体格は違う2人はだけれど、温和そうな顏と髪色はそっくりだった。細い眉に下がり気味の目尻、低い鼻に薄い唇。全体的に印象が薄い。けれど、それを補うよう目立つのが燃えるような赤髪であった。第1王子も、第2王子も、白に近い銀髪持ち(黙っていれば)溌剌とした美形の部類に入るヴァンさんとは似ても似つかなかった。




