無意識
殿下視点です。
「そういえば聞いたぞ、レン。お前婚約したんだって?」
「あぁ。」
「へーどんな子?可愛い?」
「あぁ。」
「そうか!なぁ、会わせろよ!」
「あぁ。」
「おっ!本当か?会わせてくれんの?」
「あぁ。」
「・・・お前話聞いてないだろ。」
「あぁ。」
「俺、かっこいい?」
「あぁ。」
「婚約者、俺が連れ帰ってもいいか?」
「あぁ…って、何の話をしているんだ。婚約者?誰の?」
話半分、いやむしろほとんど聞いておらず適当に相槌をうっていたらいつのまにか婚約者の話になっていた。数ヶ月に本物と入れ替わった婚約者。婚約披露までの半年間、必死にコーリアのシゴキに耐えながら身代りを頑張っている。よくアレに付き合えるなと感心する。
「あと何ヶ月後には披露するんだ。それまで我慢しろ。」
「えぇっ!?いーだろ。見せてくれても。」
ソファに寝そべっていたはずのリヒトが立ち上がり、執務机までやってくる。こちらが目を通している書類に皺がよるのにもかまわず、机に手をつき身を乗り出してくる。
「彼女は見世物じゃないんだ。」
「いいだろ。ちょっと会うくらい。」
「駄目だ。」
話はこれで終わりとばかりに机の上を片付ける。ちらりと時間を見れば、夕食をとるにも丁度良い時間だった。
「ちぇ。レンのデレた顔が見られると思ったのによ。」
「俺がそんな顔になると思うか。」
「・・・思わねぇな。レンは仕事以外ほとんど無関心だもんな。」
部屋から出て食堂に向かう。その間もリヒトは遊学中に出会った人の話や面白かったことを延々と話し続けている。
そうだ。俺は無関心なはずなのだ。仕事と、興味があること以外どうでもよい。だからリヒトが婚約者に会おうがどうでもいいはずなんだ。だがなぜだろう。なぜかリヒトが彼女に会うのは嫌だった。きっとリヒトのほうが彼女を楽しませることができるだろう。女の扱いには長けている。俺みたく無愛想ではないし、これでいて気は利くほう、らしい。話も面白いだろう。きっと、俺がリヒトみたいだったら、本物の婚約者も逃げ出そうとは思わなかっただろうし、今の彼女みたいにぎこちなく怯えることもあるまい。だけど、だから、彼女がリヒトに会ったら、リヒトを好きになってしまうと考えたら、なぜか、2人を会わせるのは躊躇われた。
・・・まぁ、あれだ。何かの拍子に正体がばれたりして面倒なことが起きかねないからな。彼女はかなりそそっかしくてどこか抜けている。茶会で熱湯を浴びたこともあるし、パーティーで少し目を離しただけで面倒そうな男に捕まっていたしな。そうだ。俺は面倒を避けているにすぎないんだ。だからこの胸のざわつきは気のせいだ。




