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暇時

ダリア嬢になって、早1ヶ月が経った。


お嬢様に気絶させられ、鬼畜側近にどやされ、ご令嬢たちにはいじめられ、堅物王子には振り回され。洗濯や掃除をしていた頃が懐かしい。泥まみれ、埃まみれは当たり前。手は荒れ放題、あかぎれだってあった。服だってなんどもほつれを直したメイド服しか着なかった。給金はほとんど家に送っていたしね。


それが今や、朝起きた時から寝るまでほとんどを侍女に世話をしてもらっている。綺麗なドレスに、爪のお手入れ、香りの良い風呂に入り、美味しい食事をいただく。夢のようだ。

でも、ちっとも楽しくない。


固いパンと具のあまり入っていないスープだって、仲間たちと笑いながら食べるとごちそうだった。たまに宿舎の騎士の人が買ってきてくれるお菓子にはみんなで喜んだものだ。

休みの日にはたまに城下町に下りることもあった。お金が無いから買い物を楽しむわけにはいかなかったけど。あぁ、屋台で活気づいた町並みが懐かしい。


「何を百面相しているのです。不細工ですよ。」


「・・・・・・暇なんです。」


紅茶をかけられて火傷した茶会から10日ほど経った。歴史や文化などの講義は始まったけれど、


「コーリア様、私、外に出たいのですが。庭くらいなら許してもらっても・・・」


新たな課題をどさりと机に置きながら切り捨てる。


「火傷、もう痛くありませんよ?」


「そうですか。それでは明日からダンスレッスンを再開いたしましょう。」


では、と言って部屋を出ようとするから慌てて引き止める。


「あの、散歩は結局・・・?」


ダンスレッスンが許されるなら身体を動かしても良いということだろう。なら散歩だってできるはずじゃない!


「・・・そんなに外に出たいのですか?」


「はいっ!」


コーリア様の許可してくれそうな雰囲気に私は元気よく頷いた。やった!最近庭園に新しい花が咲いたってマルガリータさんに聞いて見に行きたかったのよね。あぁどんな花だろう。自由に城から出られない私にとって庭の散策は唯一の楽しみだ。コーリア様が持ってくる本は面白くないしね。


「・・・そうですか。なら許可しましょう。」






えぇ、えぇ、こんなこったろうと思いましたよ。


じめじめして暗い部屋の、窓という窓を全て開け放つ。太陽の光にきらきらと光る大量の埃が舞い上がっているのが見えた。幻想的…とは思ってはいけない。音に反応して足元を見る。カサカサと部屋の奥のほうに逃げていった黒い奴らは見なかったことにする。うん、断じて見てない。


口に布を当て、ほっかむりをし、汚れても良い地味なエプロンドレスを着、袖を巻くり上げ、靴もハイヒールではなく、ブーツを履く。久しぶりの私の戦闘スタイル。大掃除の格好だ。


コーリア様に暇をもてあましていることを訴えれば、とある小屋に連れてこられた。

裏庭の、木に囲まれてひっそりと建っていた小屋だ。知っているものでなければ見つけられないほど奥まったところに建っている。木造のそれは壁面につたが絡まり、窓は曇って中が見えず、かなりの年季が入っている。


「暇ならばここを掃除してください。元々あなたの異動先はここの掃除及び管理ということになっています。」


掃除道具を一式渡してきたコーリア様はそれだけ言うと自分の仕事に戻っていった。私は庭を散歩したいと言ったはずなんですけど、と目で訴えるがニコリと睨まれ何も言えなかった。


まぁここ一ヶ月、通常の仕事をしていなくて体がなまっていたところだ。掃除をするのは嫌いじゃない。いっちょやるか!と意気込んだのは2時間前。一向に終わる気がしない。そもそも暇つぶしにやるような規模ではない。部屋は物置小屋みたいな様相だから一部屋しかないのだが、物が多いのだ。


ひとまず中の荷物を出してしまおうとせっせと外に運んで天日干しをする。テーブル1台に椅子2脚、踏み台、背の低い本棚の他、出てくるのは大量のガラクタ。埃をかぶって表紙が見えない本や、正体のわからないものが詰まってあるビンにぬいぐるみ。他にもたくさんある。どれを捨てていいかわからず、結局ほとんどを残すしかない。


小屋に入っては荷物を持って外に出る、しゃがんだり立ったり叫んだり(黒い奴らが飛んできたのよ)を何度も繰り返してようやく小屋はガランとなった。さすがに腰も腕も足も何もかもが痛くて重い。外に出て伸びをすれば小気味よい音がなる。日に当たりが良く暖かい草の上に腰を下ろす。


口あてとほっかむりをはずし、少しだけ風に当たって休憩する。ほてった身体にさわやかな風が通り抜けとても気持ちいい。汗が冷えてひんやりとする。小屋の中をちらりと見れば、埃や砂、運び出せなかったゴミ、怪しい液体などなどで床や壁が汚れている。大変なのはこれからだな。よっこらせと重たい腰を上げ、再び小屋の中に向かった。



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