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騒動

自分の置かれている状況が可笑しくなってクスリと零せば、エリカ様が口元を歪ませた顔でこちらに目を向ける。その顔は先ほどの可憐な姿が想像できないほどだ。


「花嫁さま?何かおもしろいことでも?」


「いいえ。殿下との思い出話をするエリカ様が可愛らしくて。」


そう答えれば、カッと顔を赤くさせたエリカ様がガチャリと音を立ててカップをテーブルに置いた。


「どういうことですの?」


「そのままの意味ですよ?エリカ様は本当に殿下をお慕いしているのだなと。私はまだ殿下と知り合って間もないものですから・・・殿下の良いところを教えてくださらない?」


嫌味とほんの少しの本音を合わせて問うてみれば、エリカ様が小刻みに肩を震わし、顔を真っ赤に染めた。


「私を馬鹿にしていますの!?」


エリカ様が怒りのままにテーブルを勢いよく叩きながら立ち上がる。その衝撃で座っていた椅子は倒れ、テーブルに載っていたティーセットも派手に倒れて中身をぶちまけた。


私の目の前に置いてあった激渋紅茶入りのティーポットも例外ではなく、ほとんど中身の減っていなかったそれは、まだ熱い湯を私の腹から足にかけてこぼした。


「っ!」


急激に皮膚に痛みが走る。茶色のしみを広げ、熱湯を含んだドレスやコルセット、下にはいたドロワーズが肌にはりつき熱がいつまでも肌を刺し続けている。左足により多くかかったのか、そちらの痛みがひどい。今までの険悪な雰囲気など気にならないほどだ。


「お嬢様っ!!」


今まで静観していたマルガリータさんも声を荒げて駆けつけてくる。珍しく慌てる彼女を手で制止し、少し青い顔になったエリカ様を見据えた。


「エリカ様、」


「あ、あの・・・」


口をわなわなと震わせる姿はさきほどの激高した勢いを全く感じさせない。仮にも次期王太子妃で、いずれ王妃になるものに粗相をした意識はあるのか、若干震えている。周りの令嬢たちも、その侍女たちも顔面蒼白にしながらその行方を見守るだけだ。


「エリカ様、大変お見苦しい姿をお見せしました。ご覧の通り、ドレスが汚れてしまいましたので退席させていただきます。」


無理やり笑みを浮かべ、淑女の礼を取る。令嬢たちの返事を待つことなくマルガリータさんに手を借りて席を立った。

歩くたびに布地が擦れて痛い。肌が引きつる感じもする。


「すぐに手当てしなければ。」


足が痛いことをわかってくれているのか、肩を貸してくれるマルガリータさんにありがたく思いながらも痛みで余裕がなくて引きつった笑みを浮かべるしかできなかった。




ようやく城内に戻り、部屋までの廊下を半ばマルガリータさんにもたれながら歩いていると、曲がり角から足音が聞こえた。

こんな無様な姿を誰かに見られたら大変だとすぐさまマルガリータさんから手を離して背筋を伸ばす。淑女たるもの、いつ何時も気高くないといけないらしい。(コーリア様談)


「おや。もう終わったのですか。」


現れたのは、私を置いてけぼりにした二人、殿下と側近のコーリア様だった。茶会からまだ幾時間もたっていないのに城内にいる私に驚いているようだ。


「いえ・・・紅茶を・・・零してドレスを汚してしまったので途中で退席しました・・・」


淑女にあるまじき粗相から怒られるかなと恐る恐るコーリア様を見れば案の定、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。一方王子の表情はいまひとつ読めない。


「あれだけ問題は起こすなと言ったのに、無駄だったようですね。」


額に手を当てて呆れるコーリア様の凍てつくような声に心が萎む。今からここで説教パターンかな。腹や足のひきつるような痛みに脂汗が滲むのを堪えながら叱責を待っていると、いつの間にか目の前に殿下が立っていた。


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