表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一章

 朝の薄明るい空を窓から眺めながら、瑞穂は物思いにふけっていた。

いつからこんな風に、朝起きてすぐ、考え事をするようになったのだろうか。

昔から、黙って物事を考え込むのは嫌いな方だった。

比較的、誰かと話し合ったり、少なくとも声に出して(独り言でも)考えたりする方だった。

だが、最近は一人で思いつめるのが当たり前のようになってきている。毎朝、毎朝。


≪私は、やっぱり変なヤツなのかもしれない≫


 いや、物思いなんて誰でもするだろう。

しかも、常識的に考えると、自分の悩みをベラベラ喋っているヤツは嫌われやすい。

…というより、悩みをベラベラ喋れるのなら、そこまで深く悩んではいないはずだろう。

そうなると、私は、しっかりと悩んでいるのかもしれない。


≪いや、そんなことは分からない≫


 まず、しっかりと悩むって何だ?…でも、私の悩みは一般人よりは筋が通っていると思う。

私の悩みを聞いて「なんだ、そんな下らないことか」と思う人は、かなりの幸せ者だ。

そういうヤツには聞いてみたい。「お前はいじめられたことがあるか」。


≪私がそんなこと聞く権利はない≫


 …いつの間にこんなに時間がたったのか。

五時に起きてしまったはずだが、すでに七時近くを回っている。

どれだけ考え事をしたんだろうな…。私は。


「おはよう」

瑞穂は階段を降り、すでにリビングで仕事へ行く支度をしている母親に挨拶をした。

「んー」

適当にあしらう答え方。まあ、いつものことだ。

「今日は何時ごろ帰ってくるの」

政代がちらりと瑞穂を見る。

「なんで聞くの?」

別に他意はなかった。ただ、ちょっと気になっただけだ。

「いや、昨日も遅かったなあって、思ってさ…」

「仕方が無いでしょう。仕事なんだから。あの人がしっかりしないからよ」

政代は仕事でイライラしているのか。なんだか、言葉の一つ一つにトゲを感じる。

「父さんの話はやめようよ。それこそ仕方が無いじゃん」

「…朝から逆らって面白い?ほら、さっさと顔洗いなさい。遅れるわよ」

政代はカバンを持ち、上着の袖を直して、玄関の方へ向かった。

「行ってらっしゃい…」

「んー。行ってきます」

ほんの少しこちらを振り返っただけで、政代はさっさと仕事に行ってしまった。

瑞穂はふうと、ため息をつき、ソファに座りこんだ。


 母の政代は介護福祉士だ。我が家の唯一の稼ぎであった父は、今は一緒に暮らしていない。

仕事をしなくなってきたので母が愛想を尽かし、離婚した。だから、今は政代が仕事に行っている。

家族は、他に自分と祖母だけで、祖母は癌を患っている。今は入院中だ。


 瑞穂は自分の家族のことを考えると、必ず悲しくなってくる。

どうして、こんなに家庭がバラバラなのだろうか。でも、それを聞ける家族もいない。


 瑞穂は、これ以上考え込むと遅刻すると思ったので、顔を洗うことにした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ