表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

一人百物語

オラは

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/20


懐かしき昭和の頃の話。


〈オラは死んじまっただぁ~ オラは死んじまっただぁ~〉


こういう歌が流行った。

うちの父はこの歌が大嫌いだった。

当時まだ三十代前半だった若かりし頃の父は、観光バスの運転手をしていた。

仕事上、遠足や修学旅行の生徒を乗せる事がよくあった。沢山の命をあずかる父としてはめいいっぱいの安全運転をといつも思っていた。

それなのに


〈オラは死んじまっただぁ~ オラは死んじまっただぁ~〉


どの学校の生徒たちも、当時大流行したこの歌謡曲をバスの中でずっとがなりたてた。他にも流行りの歌はあるだろうに、どうしてどこの生徒もこの歌ばかりを音飛びレコードの様に延々歌うのか。


〈死んじまった〉


だなんて縁起でもない。

全く近ごろの…

生徒たちとしては当時の流行(はやり)の歌を楽しく皆で歌って騒いでいるだけだったのだろうが、生徒たちがその歌を歌いだすたび、父は嫌で仕方なかったという。


そしてその日も某学校の生徒たちが、バスが発車してしばらくもすると

〈死んじまっただぁ~〉

と熱唱しだした。

父はげんなりした。だから歌ならもっと他の歌もあるだろうに。

ハンドルを取りながら、父は後方確認のために右のサイドミラーを見た。

そこには。


こちらに手のひら側を向け、人さし指と親指を立てて残り三本を折り曲げた、手首が映っていた。

四角いミラーの中に男らしき右手首が映り、生徒たちの歌声の音頭をとる様に、ひょいひょいと動いていた。


父はそれに、生徒の誰かの手が映っているのだろうと思った。

しかし、後ろを見てもサイドミラーに映る様な窓の外に手を出している者はいなかった。

父は今一度、ミラーの中を確認した。

手首は変わらず、生徒たちの歌声にあわせてひょいひょいと動いていた。

いや。手首は。

父に向って人さし指をくいくいと動かし、おいでおいでをした……様に思えた。


  〈死んじまっただぁ~〉


父はぞっとした。そして

「ううう、うるせぇっ!死んじまった死んじまった言うなぁぁ~っ!!」

と、大声でわめいてしまった。

その父に生徒たちは驚き、シン、となった。

父も自分の大声にはっとなった。


ミラーの中には、もう踊る手首の姿は無かった。


その日、生徒たちが〈死んじまった〉の歌を歌う事はもう無かった。

後日会社に苦情がきたかどうかは知らない。

他の学校の生徒たちがまたもその歌を合唱する事はあったが、音頭をとる手首が現れる事はもう無かった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ