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龍神様の元へ嫁ぐことになったけど、わたしのものを何でもほしがる妹が花嫁の立場もほしがった結果  作者: 宵宮祀花


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3/4

選ばれた○○

 輿入れ当日。

 妹は、それこそお姫様のように華やかで艶やかな着物を身につけ、髪も結い上げてしゃらしゃらと軽やかに歌うかんざしを差し、どんなに腕の悪い写真家が撮ろうとも美しく写るだろう化粧を施した姿で表に現れた。

 一方わたしはというと、死装束のような真っ白な着物に白足袋と白い草履、髪型は後ろで一つ結いにしただけのシンプルなものという姿だ。嫁入りというよりいまから棺桶に入るかのような格好で、白い布に覆われた籠の中にいる。

 妹が乗るのは神輿のように飾られた籠で、通りを見渡せるような高い位置にある。どちらがお祭りのヒロインか一目瞭然な有様は、妹の機嫌を上向かせた。

 彼女が選んだ見目のいい使用人に手を借りて籠に乗り、得意げに下々を見下ろす。


「行ってらっしゃいませ」


 使用人頭が深く頭を下げたのを合図に、花嫁行列がゆっくりと動き出した。

 純白の馬に、白い着物の同行者たち。それを見送る村人たちはいつもの服装ながら全員が花嫁を直視しないよう頭を下げている。

 それが妹にとっては誰も彼もが自分にひれ伏しているように見え、いつにも増して上機嫌だった。

 美しい花嫁をお披露目するかのようにゆったりと進む行列は、やがて山の麓にあるお社の入口へとついたようだった。わたしは白い布を僅かに避けて、外を見た。

 其処には華やかな蒼い着物を纏った見目麗しい男性と、そのお付きと思しき男性が複数人待ち構えていて、行列は彼らの正面で静かに歩みを止めた。

 蒼い着物の男性が、一行をゆるりと眺め回す。

 ただそれだけの仕草が、息を飲むほどに美しい。眼差し一つで国を傾けることさえ出来そうな、人知及ばぬ美しさだ。思わず布から手が離れてしまい、外の様子が一切見えなくなる。でも、もう一度盗み見ようという気にはなれなかった。それどころか見てはいけないものを見てしまったような気さえする。


「その者がそうか」


 美しい容姿に違わぬ美しい声で、男性が問う。

 姿が見えなくともわかる。不思議な反響を伴うこのお声はあの方のものだと。


「はい。然様で御座います」


 恭しく、行列の前列で馬を引いていた従者頭の男が答えた。

 すると、蒼い着物の男性が付き人たちに小声で「下ろせ」と合図を送り、付き人のうち二名が妹の傍まで来た。


「ほら見なさい」


 妹が華やかな籠の上から、わたしの白い籠に向かって声をかける。


「選ばれたのは私よ。残念でした!」


 得意げな声が頭上から降ってくる。布越しで見えないはずなのに、あの勝ち誇った笑みが見えるような気がした。

 かと思えば「きゃっ」と短い悲鳴が聞こえ、続けてどさりと重たい音がした。


「なにするのよ無礼者! 私は花嫁なのよ!? もっと丁重に扱いなさいよ!」


 音と声からして、籠から引きずり下ろされたのだろう。

 人生で一度も受けたことがない扱いに、最高潮だった妹の機嫌が急降下していく。


「何様のつもりなの!? こんなことしてどうなるかわかってるんでしょうね!」


 妹がいつもの調子で散々喚いていると、静かな、けれど深い憤りを感じる低い声が冷たく「黙らせろ」と命じた。直後、乾いた音が天に響いた。


「な……ん……」


 頬を張られたのだと理解したのは、それから数秒が経ってからだった。

 あまりの衝撃に、声も出ない様子で固まっているようだ。


「花嫁をこれへ」

「はっ」


 先ほどの氷の剣を思わせる声が嘘のように穏やかな声が命じると、籠の白い天蓋があげられて、わたしは数刻ぶりに外へ出た。

 周囲の光景は大凡音で判断していたとおりで、妹は正面から少し横に逸れた位置に膝をつかされ、相手の従者たちに両腕を固められた格好となっていた。左の頬が赤く腫れており、見たことがないほど呆然とした表情をしている。

 わたしは、そんな妹を後目に蒼い着物の男性の前まで進み出ると、無言のまま頭を下げた。


「これよりお前は、その身も魂も全てが龍神(わたし)のものとなる」

「はい。龍神(あなた)様に生涯お仕えできますこと、心より光栄に存じます」


 わたしが答えた瞬間、妹がハッと息を飲んだ。

 せめて黙っていてくれればという思いは、直後に踏みにじられる。


「ズルいズルい! お姉ちゃんばっかりズルい! 龍神様の花嫁は私なのに、なんでそんなズルばっかりするのよ!」


 絶対零度の気配が、正面の男性から放たれる。空気全てが氷で出来ているのではと錯覚するほどに、肌がビリビリと痺れるほどに、冷たく鋭い空気が周囲を包む。


「痴れ者が」


 一度泣き喚いたらなにが何でも止まらない妹も、この声には喉が引き絞られたかのようにヒュッと息を飲んで押し黙った。


「それは満蓋津山(まふたつやま)屍肉(シシ)神の元へ送れ。良き引き出物となるであろう」

「御意のままに」


 妹の両腕を押さえ込んでいた二人の従者は恭しく頭を下げると、罪人を連れて行く格好で妹を後ろ手に拘束し、花嫁行列の籠とは似ても似つかぬ白木の箱に詰め込んで荷車へと乗せた。蓋には白い紙で封がなされ、筆文字で御祝の文字が記される。

 本当に、結婚式の引き出物の扱いだ。


「では参ろう。宴には当主のみを招く。そのように伝えておけ」

「承知致しました。この度は誠におめでとうございます」


 従者頭が答えるが早いか、わたしはいつの間にか龍神様のお社にいた。



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