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改訂版 行き来自由の戦国時代  作者: へいたれAI
2/8

第二話 どこかに転移?? なんだ?、なんだ?


 さて、俺の新たなクエストは、ここ北尾張、犬山付近の山中で始まった。

 心を完全に壊して仕事を辞め、相続した祖母の家で引きこもるという、なんとも情けないスタートだ。

 麓から家までの道はもはや道とは呼べず、最低限の荷物を背負い、汗だくになってやっとのことでたどり着いた。


「スローライフ、か……」


 心を癒すために農業でも、という甘い考えはすぐに打ち砕かれる。

 祖母が使っていたという畑はどこだ?目の前に広がるのは、雑草どころか木まで生えている、もはや森と呼ぶべき光景だった。

 庭にあったはずの小さな家庭菜園さえ、雑草がひどく手を出せそうにない。


 やれやれだ。


 途方に暮れていたが、相続書類の中に農協の預金通帳を見つけた。とりあえず麓に降りてみることにする。麓まで下りれば大都市の名古屋に近く、何でもそろいそうだ。

 ふもと近くにある農協の支店を訪れると、思いがけない再会が待っていた。


「あれ、嶺くん?」


 窓口で声をかけると、顔を上げたのは昔近所に住んでいた綺麗なお姉さん、大峰茜さんだった。


「茜さん!?」


「やっぱり!久しぶりだね。どうしたの、こんなところで」


 俺は事情を話し、色々と相談に乗ってもらった。茜さんの助けもあり、農協の組合員となって農機具のレンタルができるようになった。


「うおおおおお!」


 俺は借りてきたトラクターを唸らせ、祖母の屋敷までの道に生えている草木をなぎ倒していく。何かに没頭することで、少しずつだが心が癒されていくのを感じていた。

 道や庭の整備を進めるうち、以前ネットで見た修験者のことを思い出す。


「真似事でもすれば、もう少し心を強くできるかもしれない」


 そう思い立ち、形から入ることにした。道の整備は草木を刈り取るのがやっとで、ネット通販で注文しても家まで届きそうにない。そのため、麓のコンビニ留めで注文することになる。

『修験者なりきりセット』が届いたとの連絡を受け、俺は往復2時間以上かけてコンビニへと向かった。


「……こちら、お品物になります」


 コンビニでは高校生くらいのバイトの女の子が、俺の注文した品を怪訝そうな目で見ながら渡してくれた。その視線が少し痛い。


 翌日から俺の生活は一変した。

 修験者の格好で庭周りの整備から始め、飽きたら裏山を歩き回る。

 幸い、祖母の遺産と俺の退職金があり、二ヶ月後からは失業保険も下りそうだ。

 当面の生活には困らないだろう。


 祖母の家の周りは相変わらず草木が生い茂っているが、生前の祖母からこの辺りには10軒ばかりの集落があり、秋には地元の祠で祭りもやっていたと聞いたことがある。

 しかし、そんな形跡はどこにも見当たらず、ただ手入れされていない藪があるだけだ。


 道を整備しながら敷地内の草刈りをはじめ、飽きると付近を散歩する。

 そんな生活を続けた。

 数日おきにふもとまで下りて食料品などを買い、農機具のレンタルや現金の引き出しなどで農協に寄るたびに、茜さんと世間話をしてから屋敷に戻る。


 最初のうちはふもとに降りる時は普段の修験者の格好から着替えていたが、それもだんだん面倒になってきた。


「あら、嶺くん、その格好……」


 ついに修験者の格好のまま農協に顔を出すと、茜さんに驚かれた。それが度々となると、俺のことはこの辺りでは変わり者として認識され始めたらしい。


「あの、もしかして、新手のコスプレーヤーの方ですか?」


 コンビニのバイトの少女に真顔でそう聞かれた時は、さすがに少しショックを受けた。

 だが、俺がやっていることは修行などとは言えないただの真似事だ。

 だからコスプレーヤーと言われても、まあ間違ってはいないのだろう。


 夜はネットで興味の向くままに時間をつぶす。

 そんな生活を半月ばかり続けていた。


 ある日、今まで行ったことのない方向に草を刈りながら山へと入っていくと、崩れた祠のような建屋があった。

 朽ちた木々を取り除かないと危なくて近づけそうにない。


 とりあえず近くを散策すると、足元に苔に覆われた気になる塊を見つけた。

 気になって仕方がないので、それを持ち帰った。


 苔の盆栽としては形が変だ。

 とりあえず苔をきれいに落としてみると、それは小さな仏像のようなものだった。

 崩れた祠に祀られていたにしては小さいが、生前の祖母が集落で祭りを開いていたと言っていたことを思い出す。


 どこかこのあたりの集落をお守りしていた仏像ではないか。

 そう思い、きれいに汚れなどを落として、祖母の家の仏間にある神棚の隣に祀ってみた。


 仏間に神棚があるのもどうかと思ったが、そこに仏像を祀ってもいいのかとも考えた。

 しかし、神仏習合はこの国の文化だと割り切り、それなりに飾り、お神酒などを神棚と一緒にお供えしてみることにした。


 そんな生活にもだいぶ慣れてきたある日、ネットが「今日は新月です」と教えてくれた。

 子供の頃を思い出して夜空を眺めてみたが、天気も良くそれなりに星は見えたものの、近くに大都市がある関係で、まあそんなものか、という感じの星空だった。


 肩透かしを食らったようで、俺はそのまま仏間に行き、お供えしていたお神酒とせんべいなどをつまみに一人酒を楽しんだ。すると……。

 酔ったのか、一瞬視界がぐらっと揺れて少し気分が悪くなる。流しで水でも飲もうかと立ち上がると、周りの景色が全く変わっていた。


「……は?」


 いくら限界集落跡地とはいえ、そこは名古屋に近い山の中。

 電気は来ていたので仏間にも蛍光灯の明かりくらいはあったはずだが、それらが全くない。


 言うなれば『漆黒の闇』か。

 また悪い癖が出たかもしれない。


 とにかく、目が慣れるまで少し待つ。

 手に持っていたスマホのライトを点けると、周りには何もない空間のようで、正面に一体の仏様が祀られていた。

 俺が見つけた石仏を二回りほど大きくしたような、実にきれいな顔立ちの仏像だった。

 訳が分からないなりに仏像に両手を合わせてお祈りすると、次の瞬間、見慣れた仏間に戻っていた。


「……夢か?」


 とりあえず台所へ行き水を飲む。

 この屋敷に水道は来ていないが、電動ポンプで井戸水を汲み上げているので最低限の文明生活はできる。

 しかし、プロパンガスは今までどうしていたのだろう。

 まだボンベにガスは十分にあるから良いが、ここまで業者が運んできたのだろうか。

 祖母が何か手配していたのかもしれない。


 早く車が通れるくらいに道を整備しよう。

 そう思いながら仏間に戻り、さっきの酒盛りの続きを始める。

 もう一口酒を飲むと、また視界が暗転した。

 スマホのライトで周りを見ると、仏様がにこやかに笑っておられるように見える。


 ……ひょっとして、異世界に転移したのか?

 また悪い癖が……。

 しかし、異世界に仏様はいるのだろうか。


 俺はとりあえず、仏様が祀られているのとは反対側にある扉を、恐る恐る開けてみた。

 そこは明らかに外で、しかも暗い。


 完全に夜だ。

 月明かりのない夜だが、目が慣れたのか星明りだけでもあたりが見渡せた。


 空には満点の星々が……あ!

 思わず声を上げてしまうほどの満天の星だ。

 地元でもここまで見事な天の川はそう簡単に見えなかった気がする。


 俺は空に向け、スマホで写真を撮る。

 一度後ろを振り返り、仏様が祀られている建屋を眺めると、それは俺が見つけた祠のような作りの小さな建屋だった。

 念のために写真に収めてから祠の中に入り、もう一度仏様に向かって両手を合わせて祈った。


 ……戻ってこれた。


 周りを見渡しても、俺が住み着いた祖母の屋敷の仏間で間違いない。

 神棚もきちんとあり、その隣に祀った石仏も、俺が祀った時と変化はないように思える。

 まあ、いちいち覚えていないからよく分からないが。




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