第9話 傭兵団の入団試験???
「なんだじょーちゃん? こんなとこにきちゃアブネーぞ?」
「……傭兵団の入団試験、受けにきたんだけど?」
「入団試験って……この傭兵団のか? いや、そりゃいつもやってるが……」
わたしが中に入ると、いかつい顔のおじさんが話しかけてきた。話しぶりからは顔のイメージとのギャップがある。
スイングドアの中はかなりのオープンスペースで、壁際に寄せられたテーブルやイスと、それとは別にカウンターがある。
営業前の食堂っぽい感じだ。
実際、傭兵団の食堂なのかも。
「なあじょーちゃん。悪いこたぁいわねぇ、やめとけ。女傭兵ってのもいないわけじゃねーが……男とちがってアブネー目にあうことも多いんだ。それに、ここの連中だって気が荒いのは多いしよぅ……」
いかつい顔だけど、真剣にやめろと言っているのが伝わる。
このおじさんは本当にいい人なのかも。
おかしいな? かなりアウトな傭兵団って話をラフティからは聞いたのに?
あいつ、回復派のことを偏見の目で見てないか?
ある程度は仕方ないと思うけど。
すぐに、奥からさらに二人のおじさんが出てくる。
「おーい、ウカラス。玄関で何やってんだ?」
「あん? なんだ、その子? ウカラスの娘か?」
「スバトリュ、ウキュウカ……このじょーちゃん、入団試験が受けてぇっつー……」
「え? ヤバいだろ?」
「マジか? なあ、やめとけ。傭兵団なんてロクなもんじゃねーぞ? 女の子がそんなアブネーことしなくてもいいって」
……なんだか傭兵団のおじさんたちにしては、この3人はいい人そうな気がしてきた。たぶん間違ってない。
ここのイラーブ傭兵団はかなり悪い感じのとこって聞いてたのに。
くそラフティめ。
こういう殴りにくい人がいるなら前もって教えといてほしい。
この3人はあんまり殴りたくない。できれば殴らないでおこうか。
ただし、このイラーブ傭兵団全体としては悪者的ポジションでいいはずだ。
実際、都市国家群のミヤーコ攻略の時には略奪やら何やら悪いこといっぱいして、反抗された結果がミヤーコの攻略失敗だったらしい。
戦争というのはそういうものだとは理解してるけど、それとこれとは話が別だ。
つまり基本的にここのヤツらは女の敵ってことでもある。
撤退戦で活躍した団長のサシバをニライカナ国側の英雄に仕立て上げたってだけの話みたい。
回復派が負け戦の中にプラスの要素を加えようとしたんだろ。
そこはラフティの説明に嘘はないんだと思う。
まあそのサシバ本人も、ミヤーコの人たちからすれば最悪の敵ってこと。
味方からは英雄でも敵からは逆になって当然ではある。
「うるせぇぞ、ウカラス! てめぇら何やってやがる?」
あ、なんか悪そうな人が出てきた。これは殴りたいタイプだ。
ちょっと安心した。殴る時に罪悪感がなくなるタイプはわたしにとっては大歓迎なのだ。
そう思った瞬間、目の前の3人がわたしを隠すように並んで立った。傭兵になるくらいだから体格はいい。
悪そうな人からわたしのことを見えないようにしてるらしい。
……マジもんのいい人なのでは? この3人は?
「いえ、ハブーさん。なんでもねぇです」
「すんません、ちょっとはしゃいでました」
「うるさかったですか? もうしわけないっす」
やっぱりわたしのことを隠して守ろうとしてるみたいだ。
まあ、それだとこっちの目的が果たせないから……ごめんなさい。
わたしはひょいと3人の横から顔を出した。
「……あん? 誰だ、その女ぁ?」
「あ、わたしは入団試験を受けたくて」
「入団試験だぁ……? へぇ……まあ、いいだろ。こっちにきな」
ハブーって人がぺろりと自分のくちびるをなめるように舌を出した。
「じょ、じょーちゃん……」
「なんで自分から……」
「あぁ……」
いい人っぽい3人からは悲しそうな声がしてる。
でも、ごめん。わたしはいくのだ。
「はーい。どこいきます? 訓練場みたいなところですか?」
「いーや。こっちの部屋でまずは面談からだ」
ハブーっていう悪そうな人はニヤニヤしながらそう言った。気持ち悪い。
なるほど……やっぱりこの傭兵団は噂通りの可能性が高い。
部屋に連れ込むとか、何するつもりだ。このエロオヤジめ。
……やっぱり、さっきの3人の方が特殊、なのかも。
下心丸出しのハブーの顔に向かって、わたしはにこにこと微笑む。
「ヘー、タノシミダナー」
「おう、楽しませてやるぜぇ……」
まあ、わざわざ部屋まで付き合う必要もない。
とりあえずわたしはハブーを殴った。
「ぐばぁっ」
はい、ひとり目。
「なっ……」
「えっ……」
「どっ……」
「よっわー、よわよわー。えー、こんなので入団試験とか大丈夫なのかなー、この傭兵団ってー」
わたしは大きな声で叫ぶ。そうしてできるだけ人を集めたい。
「なんだ?」
「どうした?」
「えっ、ハブー隊長? 何があった!?」
「どうもー。入団試験を受けにきたんですけどー、気持ち悪い視線を向けられた上になんか部屋に連れ込もうとしてきたので殴っちゃいましたー」
できるだけふざけた感じで、あおる。
「こんなーよわよわな人しかーここにはいないのかなー? この傭兵団って強いんですよねー? ウワサだとーそーなんだけどなー」
「なんだ、この女……」
「ふざけてんのか……」
「ま、待て……」
一人だけ止めようとしたけど、あとの二人はわたしの方へとすごみながら近づいてきた。いい獲物だ。
遠慮はいらない。えい。
「はがぁ」
「もべぇ」
とりあえず殴っておく。もちろん手加減はしてる。
この二人を止めようとして動かなかった男は、ひとにらみしてみる。それでも、まだ動かない。意外と冷静なのかも。
なかなか難しいところだ。
やっぱりこういう暴力には大義名分が必要だし、今回は部屋に連れ込もうとしたって一件でそれを理由にするけど……。
……入口にいた3人とか、今、動かなかった人とか、まともな可能性がある傭兵も中には存在してるって部分が、ね。実に悩ましい。
だからこそ、殴るだけで済ませてる。
あくまでも動けない状態にするだけで、殺したりはしてない。
周囲を警戒しながら、わたしは奥へと踏み込んでいく。
ドアの向こうの中庭っぽいところでは、何人もの傭兵たちが訓練っぽいことをやってる。
「あー、入団試験を受けにきたら部屋に連れ込んで強姦しようっていう変なヤツしかいない傭兵団だったなぁ。こんな社会のゴミはいなくなった方がいいよねぇ!」
「なんだ……?」
「あの女、何を……?」
「またハブーが何かやったのか?」
中庭の男たちも動きを止めてこっちを見てる。
さっきのハブーってひとは常習犯なのかな?
「強姦魔の集まりみたいな傭兵団は滅亡決定で! さーて団長のサシバってのはどこかなーっと。ほいっ」
「ぐばぁ」
一番近くにいた男を殴った。
「な、殴りやがった!?」
「一撃で!?」
「あ……はがぁ」
「ねのぉ」
「れんっ……」
「き、ん……」
「じゅっ……」
「死……」
どんどん、そのへんにいる男を殴っていく。
断末魔もいろいろあっておもしろい。まあ、手加減してるから一人も死んでないと思うけど。
中にはさっきみたいなマシな人もいるかも。
でも、いちいち選別してると時間がもったいない。
とりあえず手加減してあげてるんだから死ななければ問題なし。
「何が起きてる?」
「どうした!」
建物からどんどん傭兵たちがやってくる。
予定通り、100人以上は殴っとかないと……。
わたしはひたすら殴り続けた。
「……マジか」
「なんつー強さだよ……」
「こんな女の子がいていいのか……」
30分くらいで、最初の3人組とあとは中庭に入る前に動かなかった男以外で動いてるのはいなくなった。
「……アンタまさか、ナーハに突然やってきたっていう、暴虐のティナ……」
「何そのネーミング?」
暴虐のティナ? 誰がそんなことを言い出したの? カッコ悪い。
いや、まあ、どうでもいいけど。
ここは首都なんだし、ナーハとの航路もつながってる。それならナーハの情報だって伝わることはあるか。
同じ国ならなおさら。そういう情報も早いだろ。
暴虐とかの変なネーミングはともかくとして……。
「それで、ミヤーコの英雄とかいうサシバってのはどこ?」
「……団長なら、そこだ。そのデカいの。アンタが途中で殴っちまったよ……」
あ、もう終わってた。なんかボスキャラとして出てくるのかと思ってたのに。
全然英雄っぽくなかった。熱い戦いにならなくて残念。
やっぱり回復派に作られた英雄だったか。
裏取引でお金でももらってたのかも。
「……とりあえず、わたしは入団試験にきたら強姦未遂の被害者になって、そういう強姦魔が集まる傭兵団を潰しただけだから悪くないよね?」
「いや……」
「なんつーか……」
「もうカンベンしてください……」
最初のいい人の3人はドン引きでわたしから距離をとってる。
殴る気はないんだけど……。
「……てめぇ、誰に頼まれた?」
冷静な感じのこの人は、割と洞察力がありそうな感じだ。
殴った方がいいのかも。
でも、回復派の政治家にちゃんと説明ができる人も残しておきたい。それなら下っ端っぽいいい人の3人だと不十分だろ。
「え? 誰にも頼まれてないけど? 入団試験を受けにきたら強姦されそうになっただけだってば」
わたしがそう笑顔で答えた瞬間だった。
ゆっくりと気配をほぼゼロまで消した存在が近づいてきた。
まだ大丈夫だと油断……してたのはマズかった。
さっきまでの、わたしが暴れてた音が大きかったのもタイミングが悪かった。
「……あまりにも騒がしいからきてみれば、大当たりでしたか」
その、聞き覚えのある声。
小さな頃から耳になじんだ声だ。
振り返るとそこにはポニーテールをたらした革鎧の軽装の剣士がいた。
わたしは建物を跳び越えて逃げようと足に力を入れた……けど、そこで肩をがっつりと掴まれた。
ゆらぎが少なく安定した状態で魔力がその腕と足に込められている。
身体強化魔法の部分発動だ。
うん、この技もわたしはよく知ってる。
「逃げないでください、姫さま」
「アイーダ……」
「先にいっておきます。わたくしは追手ではございませんので。その点についてはご安心ください」
そう言ってにこりと笑った女の子は、わたしの侍女のアイーダだった。
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