第8話 王都……じゃなかった。首都にきました!
「……ティーナさんって、ヤーバナ王国のご出身だとお聞きしましたけど、それなのに船酔いしないんですね?」
「それ、出身国って関係ある? 関係ないと思うけど?」
わたしは今、ニライカナ国の首都であるナーゴに向かう船に乗っていた。
ニライカナ国は王国じゃないから王都ではなく首都。名前はナーゴ。
同行者は商業ギルドの受付嬢で、名前はナミーユ。
胸が大きな女の子だ。くやしいけどわたしよりも大きい。
ナミーユの胸の大きさを知ってるのはホテルのスイートルームに連れ込んだことがあるから。
そう、あの時の受付の人だ。わたしにヤーバナ王国の状態とニライカナ国の政情不安を教えてくれたのはこの子だ。
あえてナミーユのスタイルがいいとは言わない。
あれはトータルバランスの問題である。でも、ナミーユの胸は大きいです。
「だってヤーバナ王国には海がないですよね? そう考えると船には乗り慣れていないはずなのに?」
「船酔いって慣れればどうにかなるようなものなの?」
「それは……どうなんでしょう?」
知らないのか……わたしも知らないけど。
少なくとも、ナミーユは船酔いしてないようにみえる。それって慣れてるから?
「……わたしの案内役とかしてていいの? 受付の仕事は?」
「ピッグスリー評議会議員からの正式な依頼によって命令が出ているので全然問題ないです。ただし、ティーナさんの同行者になるのはなかなか競争率が高かったんですけど」
「競争率が高い? 案内役の? なんで?」
「い、いえいえ、こちらの話です。はい」
……競争率が高い、か。どういうことかな? 複数、なりたがった人がいるってことだから、うーん?
ピッグスリー評議会議員というのはラフティのことだ。ラフティ・ピッグスリーがあいつの正式名称らしい。
ラフティは一週間前のわたしとの話し合いの後で、わたしよりも先に首都ナーゴへと旅立った。
臨時の評議会が開かれるからだ。戦争に関する話について、らしい。
こういう時、議会があると動きが遅くて助かる。政治的な決断のスピードは独裁に近い方がはやいものだ。
もちろん話し合う内容は、今までの都市国家群ではなくヤーバナ王国への……侵略について。
ラフティからは貿易派のひとりとしてヤーバナ王国との戦争には反対してくるつもりだと聞いている。
まさかわたしが国外追放になったら他国との戦争につながるなんてさすがに考えてなかった。
メイルダース辺境伯が動いて内乱になる可能性は考えてたけど、わたしが予想していたのはそのくらいだ。
……内乱というのは周辺国からみれば隙なのだということか。まったく面倒な。
もちろん、ニライカナ国としても、大義名分もなしに攻め込んだ場合はろくなことにならない。
ただ、実効支配という言葉もあるように……実際に領土を獲得してしまえば勝ち、という側面もあるのは事実だ。嫌な話だ。
国力差から考えると……ニライカナ国がヤーバナ王国の全土を支配しようなどと思ってないはず。
それだと数十年単位の時間が必要だろうと思う。時間だけではできないけど。
ニライカナ国首脳部の考えとしては……ヤーバナ王国の王家か、メイルダース辺境伯家か。
この内乱の勝者がどちらになるかを見極めて……その上で手に入れられそうな領土をかすめ取るつもりじゃないかと思う。
つまり、どちらかの味方として介入するつもりなんだろ。
……内乱についてはメイルダースが勝つに決まってるけど。
「でも、意外でした。ティーナさんがナーゴに行くとは思ってなかったので」
「え? どうして?」
「だって……イシガー組も、ケラマー組も、どちらもティーナさんのことを慕っていましたし……」
「あれは慕っているという感じではないような……?」
わたしの頭の中が疑問符でいっぱいになる。
あの男たちに慕われていたとは思ってない。ただ、怖れられてたとは思う。
いっぱい殴ったし。
「あのふたつの組を支配下においているのなら、実質的にナーハの支配者はティーナさんということになるんですよね。だから……」
「いやいやいや。わたしがナーハを支配する意味とかある? 通りすがりのただの旅行者なのに?」
「旅行者……? あれ? 旅行者って……? こういう感じだったっけ……?」
今度はナミーユの頭の中が疑問符でいっぱいになったらしい。なぜだ?
どこからどう見てもわたしはひとりの旅人でしかないはず。
「まあ、いいですけど……今夜も、いっぱいかわいがってくださいね?」
そう言ったナミーユは頬を染めながらわたしをちらりと見上げた。
かわいいではないか、うん。
ナーハとナーゴは陸路で5日、海路で2日だ。
今夜はこの船で一泊することになってるし、ナミーユとは同じ部屋に泊まる予定だった。もちろん、ついでにイタズラはするつもりだ。
「……これでだいたい首都の重要施設は説明できたと思います」
「うん。ちょっと疲れたよね、ありがとう、ナミーユ」
翌日は馬車で首都ナーゴをぐるっと回って、ナミーユに案内してもらった。
案内役としてここにいるから、これはナミーユの仕事なんだろ。
……たぶんわたしの監視役も兼ねてるけど。そこは間違いない。
ナミーユがラフティ側なのか、ソーキィ側なのかは……不明。
一応、ラフティからの命令でわたしにつけられたけど……だからといって、ナミーユがラフティ側とは限らない。
ナフティも、ソーキィも、どっちも商業ギルドに対して影響力をもってるはず。
わたしの同行者の競争率が高かったというのは、どちらの陣営もわたしに監視役をつけたかったんだろ。
それも自分たちの陣営から、だ。
「明日は……」
「あー、明日は自由行動がいいかな」
「ぜひご一緒させてください」
「……やっぱり外国人を首都で一人にさせたらダメな感じ?」
「そういうことはないですけど……ティーナさんと一緒がいいなぁ……」
「いや、今日でいろいろ道もわかったし、大丈夫だから」
……まあ、かわいいところは嫌いじゃないけど、もう案内はいらない。これで強引についてくるなら監視役なのは確定だし。
「……残念ですが、あきらめます。あ、でも宿には待機していますからね? それで、明日はどちらに?」
「うーん。傭兵団にね、入ろうかなって」
「傭兵団ですか? それは……」
「外国人が一番簡単に市民権を手に入れられる。そうでしょ?」
「それは、そうなんですけど……」
ニライカナ国で市民権を手に入れる方法はいくつかあるけど……命をかける傭兵が一番手っ取り早いのは事実だった。
あとは商売を続けて信頼を得て、税金をいっぱい継続して納めるとか……安全性は高くても時間がかかる方法になる。
もちろん傭兵団に入るつもりはない。ゼロだ。
でも明日は傭兵団に行く。これは決定。
別に本気で市民権を手に入れようとは思ってない。そこはたてまえだ。
目的の傭兵団はイラーブ傭兵団。
この傭兵団の団長はサシバという戦士で、都市国家群の中のミヤーコ攻略戦で活躍してミヤーコの英雄と呼ばれてるらしい。
ただし都市国家ミヤーコは陥落したわけではないので注意。
ラフティによるとこのサシバという傭兵が侵略派……じゃなかった。回復派の最高戦力ということらしい。
こいつを殴って使えなくしとけば、とりあえずヤーバナ王国の領土をかすめ取ろうなんて考えは回復派からもなくなるにちがいない。
「どちらの傭兵団に入団するおつもりですか? おすすめはイリオーモ傭兵団とタケトー傭兵団です」
「そうなんだ? わたしが聞いた名前とはちがうみたい」
「……どこの傭兵団を、どなたからお聞きになったんです?」
「うーん。内緒」
「えぇ、そんなぁ……」
たぶんイリオーモ傭兵団とタケトー傭兵団は非戦派……じゃなかった。貿易派の傭兵団なんじゃないかと思う。
ラフティに会って確かめればいろいろとわかるんだけど……そうするとわたしとラフティがつながってるという話になりそうなのでダメだ。
あくまでもわたしの単独行動でイラーブ傭兵団を潰す。
さて、明日はいっぱい殴るか。
たっぷり100人以上は殴らないとダメだろうし……今夜はしっかり楽しんで英気を養わないと……むふふ……宿は一緒だし。
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