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第7話 国際関係がおかしくなってた!?



「わざわざ何の用だ? こっちは今いろいろと忙しいんだ。用件があるなら早く済ませてもらいたい」

「……ラフティ。アンタ、非戦派というか、貿易派のナンバースリーくらいの議員って本当なの?」


 わたしはラフティの屋敷にきていた。


 本来なら事前に面会予約をしないとダメなんだけど、ちょっと急いでるから強引に訪問した。

 そのせいでラフティは機嫌の悪い顔をしてる。他の理由はないはず。たぶん。


 まあ、どんな理由で不機嫌だったとしてもわたしは気にしてないけど。


「……政治に興味があるのか? ハッ、意外すぎるな?」

「興味はないんだけど……ちょっと気になる情報が入ったから」


 いろいろ殴って問題解決してる女が政治に興味があるとか思わないだろうし、そこはまあ仕方がない。

 それは……わたしの正体を隠せている、ということでもある。


 ただ……今回の突撃訪問は必要だった。

 ギルドの受付嬢さんから寝物語に聞いた話が気になったからここまでわざわざやってきたのだ。


「気になる情報?」

「ニライカナ国の侵略派の動きについて」


「……ふん。一応、聞かせてもらおうか。ただ、侵略派ではなく、回復派だ。そこを間違えると大問題になる。政治的にいろいろな」


 ラフティが想像の3倍くらいまじめな顔になった。この前の灰色ヒグマの時とはちがう顔だ。


 これは予想外だった。

 ラフティがちゃんと評議会議員っぽく見える。


「回復派ねぇ……アラミス連合はニライカナ国の旧領だというのは強引すぎると思うけど?」

「本当に意外だな? この国のこともよく知ってるじゃないか」


 ニライカナ国はもともと都市国家の集合体として生まれた国だった。

 隣接するその他の都市国家群……アラミス連合とは元が同じということになる。


 もっと長い視点でみると大陸中のどの国も起源は同じなんだろうけど……。


 ざっくりした歴史では隣り合うニライカナ国からの侵略に対抗するため、残りの都市国家群が集まって軍事同盟を結んだのがアラミス連合だ。


 ニライカナ国は全ての南方都市国家は旧領であるとして、失地回復のための戦争というたてまえを理由にアラミス連合側の都市国家を侵略してるだけ。

 歴史的背景が似てるだけで別に全ての都市国家がニライカナ国の旧領ではないというのが事実だろ。

 だからこれはただの言い訳でしかない。


 侵略派でなく回復派と名乗っているのは、そういうたてまえがあるからだ。

 実質的にはそもそも侵略派でしかない。


 もちろん、アラミス連合の都市国家を併合して拡大しないとヤーバナ王国などの隣国に対抗できないというニライカナ国の事情もある。

 でも、そのために戦争して消耗してるんだからバカなのかもしれない。


 ただ、戦争で勝つと……その瞬間はいろいろと手に入るし、利益も大きい。戦争でもうける商人もいる。

 そこは間違ってないのが残念な世界の真実であり、現実でもあるのだ。


「それはともかくとして……侵略の矛先をアラミス連合からヤーバナ王国にしようって企んでるんじゃないの? 回復派は? そうなったらもう回復派を名乗ってる場合じゃないでしょ」


 商業ギルドの受付嬢から聞いたのはここだ。

 ヤーバナ王国がニライカナ国の旧領のはずがない。どう考えてもこれは侵略になるだろ。


「……まあ、そういう話は出ているが、現実的ではないはずだ。どこで聞いた?」

「そうなの? どこで聞いたのかは秘密。それで……回復派はヤーバナ王国の混乱につけこむつもりみたいだけど?」


 ヤーバナ王国が混乱してるのはだいたいわたしの実家……メイルダース辺境伯家が原因だ。


 こっちに伝わってる情報だと、王都を辺境伯家の領軍が包囲しているらしい。

 もはや立派な内乱である。わたしの婚約破棄と国外追放のせいでそうなるとは思ってたけど。


 まあ、王子が冤罪で辺境伯家の姫を婚約破棄した上で国外追放にしたんだから、そういうことになってもおかしくないのだ。冤罪なので。

 メイルダースの領軍が王都を包囲してる。ここまでの内容はわたしにとっては予想通りといえる。


 なお、わたしが喜んで王国を飛び出したことについては気にしないものとする。


「ヤーバナ王国が混乱しているからといって、簡単に戦争に勝てる訳ではない。もちろん有利なのは確かだが……」

「まあ、それはそうかも」


「そもそも国力そのものはヤーバナ王国の方が上だ。それに……メイルダース辺境伯家が王家にとってかわった場合、火事場に首を突っ込んだ報復で滅びるのはニライカナ国の方になるだろう。あそことニライカナ国では戦力差がありすぎる」


「あー、そういう判断はできるんだ……」


 ラフティは不機嫌そうに片眉を動かした。

 わたしからの評価を聞いて……見下されたとでも感じたのかも。


「……それに、領土に海を持たないヤーバナ王国はこっちからすると最高の取引相手とも言える。塩の取引だけでもかなりもうかってるからな。それを敵に回してわずかな土地を手にしたから? それでいったい何の利益がある? 併合するなら都市国家群で十分だ。もっとも、併合するよりも貿易で稼ぐ方が絶対にいいんだが……今となってはなかなか和解の糸口もない……」


 ラフティの外交感覚はおそらく正しい。


 ニライカナ国の軍の規模はある程度しか知らないけど、基本的にいくつかの傭兵団が中心になってるはず。

 傭兵団の傭兵たちを部隊の指揮官っぽい立場にして、その他の民兵たちを動かすしくみだ。

 一応、総指揮官のポジションには評議会議員が入るけど。


 メイルダース辺境伯の領軍をよく知ってるわたしからすれば、ヤーバナ王国への侵略は無謀としか思えない。

 傭兵がとりまとめた民兵なんかで相手になると考えるのは頭がおかしい。

 メイルダースの領軍は魔境の森から湧き出る魔物に対する壁なのだ。強さの度合いが何ケタもちがう。


 わたしがこういう外国のことを知ってるのは、婚約者をしていた時に王子妃教育をちゃんと受けてたから。

 そう。わたしは脳みそが筋肉というわけではないのだ。いわゆる脳筋ではない。大事だから2回いっとく。


 だからラフティのいぶかしげな視線はおかしい。


「……今の話で説得できないのはおかしいわよね? どう考えてもラフティの……貿易派の方が正しい、もしくは真っ当なことを言ってると思うんだけど?」


「さあな。まだこっちに入ってない何か、重要な情報を回復派が掴んでる可能性が高いようだ。その内容がヤーバナ王国に攻め込んでもどうにかなるくらいの話なんだろう。ヤツらはヤーバナ王国へ攻め込むことにかなり意欲的になってるからな」


 いったいどういう対処方法があるというのか。


 メイルダース辺境伯の関係者にはあんまり話が通じないはずだけど?

 わたしの家族は……基本的に脳筋だから。わたし以外は、だ。


「じゃあ、ヤーバナ王国との戦争は避けられない感じなの?」


「いや。今はまだ五分五分というところか。おまえが言ったように、理屈はこっちが上だ。だが、回復派がそれで妥協しないのが問題なんだ」


 何かわからないけど重要な情報を握ってるから、か。

 それなら、とりあえず別方向から侵略を妨害すればいい。


「うーん……どこを殴れば解決できるかな?」

「これだけ政治的な話をしといて、結局のところは殴るのか……あ、いや。殴れば解決だと? おまえが?」

「そうだけど?」


 ラフティが意外そうな顔でわたしを見た。


「……こっちの味方になるつもりか? おまえはとっくにソーキィに取り込まれたんじゃないのか?」


「取り込まれる? わたしが? ソーキィに? どういうこと?」

「あいつのホテルの最上階で暮らしてるって聞いてるんだが?」

「ああ……」


 そういえばそうだった。

 あのホテルのスイートルームに泊ってるのは事実だ。

 支払いもソーキィがしてるから……ラフティからみれば取り込まれてるのかも。


「……ヤーバナ王国との戦争はちょっと嫌なんだよね」


「ああ、灰色ヒグマの毛皮を持ち込んだってことはあそこの辺境伯領からの流れ者なのか。母国との戦争にかりだされるのはお断わりということだな?」


「どこの国が相手でも戦争は嫌だけど? わたしは平和主義の女の子なの」

「そういうことにしておこうか……」


 ラフティがにやりと笑う。

 すごい悪そうな顔にしか見えない。うさんくさい政治家っぽさが増した。

 わたしを利用して侵略派……じゃなかった。回復派をどうにかしようという顔に見える。


 ……今回は利用されてあげるつもりだけどね。戦争になるのは嫌だし。


「……それで、誰を殴ってほしいの? とりあえずあと一週間くらいはここを動けないけど、そのあとなら殴りにいくわよ?」


「そうだな……ミヤーコの英雄が動けなくなれば……どうにかできるかもしれない」

「ミヤーコの英雄?」


 こうしてわたしはターゲットの情報を手にした。

 次の相手はどうやら英雄らしい。

 ちょっとは骨がある相手だと楽しめるんだけど……。






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