第4話 暗殺者? 結界があるので問題なし!
パリン!
「なっ!? 結界だと!? しかもこの音はなんだ!?」
宿屋の中のわたしが借りてる部屋に響く声。
かなりびっくりしたのだろう。
思わず声が出たらしい。
わたしはベッドから身体を起こした。
攻撃によって割れる結界。ついでに警告音が響くようになってる。
その音でわたしが目覚めるように設定してる。
なかなかいい音がするから、ぱっちりと目は覚めた。
「……こりないわね、ああいう人たちって。暗殺者まで雇うほどのことなの?」
「くっ……」
今回の話だと100万ゴルダラを取り返すくらいしか、利益はない。
他には……プライド的な部分か。
やられっぱなしではマズいとか、そういう感じの。
ラフティの地位なら100万ゴルダラくらいは……大した額じゃない気がするんだけど、どっちだろ?
わたしの部屋に侵入した暗殺者は一応、顔が隠れる感じの服装。
握ってるのはナイフっぽい武器。
そこから毒……ナナイロクサの根のにおいがする。
だとするとこれは痺れ薬か。
メイルダース辺境伯領で自分自身を鍛え抜いた日々を思い出す。
毒についても……学ぶだけでなく、体に慣らすところまでやった。
落ち着きを取り戻した暗殺者は、すばやい動きで左右にフェイントを入れながら近づいてくる。
でも、残念。
そのくらいのスピードでどうにかできると考えてるのが甘い。
ガキンっっ!
「なっ!?」
「わたしの防御用の結界は二重なのよね……」
防御されたら、とっさに距離をとるくらいの判断力はある暗殺者のようだ。
それでもわたしはシンプルに動くだけ。
相手に見えないくらいの速さで近づいて、ただ殴る。それだけ。
わたしを守るための結界は、わたしの攻撃を邪魔しないようにできてる。
魔法というこっちの世界の特殊な力は本当に便利だ。
思い通りに使えるように訓練するのは当然だと思う。
そこはめちゃくちゃ楽しみながら頑張ったのだ。
「ぐはっ……」
「はい、おしまい」
暗殺者が床に転がる。
「……まあ、昼間のラフティってヤツが一番あやしいんだけど……」
暗殺者の手をぐいっと踏みにじる。
その手からナイフが離れて、カタンと落ちる。
「誰に雇われたの? 話す気は……ないわよね?」
殺すのではなく、痺れ薬を塗ったナイフ。
目的は誘拐ということかも。
そっちの可能性が高い。100万ゴルダラを取り戻したいのなら、殺せばいい。
殺さない理由は……女とみると欲望をたぎらせる連中が存在してるのはわかるけど、マジで気持ち悪い。
わたしの見た目は……なかなかのものだとは思うけど。
それにしても……ニライカナ国もなかなか危険な国だ。
暗殺者がこんばんはしてくるなんて最低だろ。
この世界には安全な国などないのかも……。
もっといろいろな国を旅してみないと断言はできないけど。
まあ、そんな世界だから身を守るために自分自身を鍛え抜いたのだ。
今ならどんな国でも問題はないとも言える。
さて、ここからの選択肢はいくつかある。
ひとつは拷問するというパターン。
これはもちろん、痛めつけて何かを言わせるというものだ。
残念ながら、暗殺者が本当のことを話すかどうかはわからない。
あと、この部屋が確実に血で汚れる……はず。
もうひとつはこのまま殺すというパターン。
こっちの命を……いや、誘拐を狙ってきたのだから、何かをやり返されるのは当然だろうと思う。そこに遠慮はいらない。
拷問で情報が得られない、もしくは得られたとしても正しい情報とは限らない。それなら殺すのがこっちとしても楽ではある。
過酷な辺境伯領で鍛えられたわたしは……殺人にそこまで忌避感はない。
すでに経験済みだ。
あとは……わざと逃がすというパターン。
逃がして、相手のアジトを突きとめて……そこで全員殴る。
そっちの方が……アジトで何か手に入るかも。
「……アーキョウハモウネムイナー。ヨーシ、コイツハアシタゴウモンスルカー」
わたしはバツグンの演技力で暗殺者を逃がすことにした。
完ぺきなわたしに死角はないのだ。
全米が泣くこの演技ならばっちりのはず。
そして、そのままベッドに戻った。
結界魔法は自動でかけ直されるので問題はないのだった。
「あんな頭のおかしいヤツの誘拐とかできるか! オレは逃げるぞ!」
「待て待て、どういう状況だ?」
「結界魔法で二重に自分を守りつつ、結界を維持したままこっちを殴ってきたんだぞ? そんなヤツ、聞いたこともない!」
「じゃあおまえはどうやって逃げてきたんだ?」
「自分が強すぎるから油断したんだろ? 眠いから寝るんだとベッドに戻りやがった。そのあとも攻撃してみたが全部結界にはじかれたんだ。ありえない」
「……今回の相手がとんでもないヤツだというのは……」
「理解してもらえたみたいね?」
わたしは二人に話しかけた。
「なっ……」
「いつの間に……」
「ずっと追跡してきたけど? 暗殺者のクセに気配の消し方が下手なのよね。あれじゃあ森で灰色ヒグマに逃げられるわよ?」
逃がした暗殺者が入った酒場にはこの二人しかいなかった。
酒場には、だ。
酒場とはつながってるけど、少し離れた奥にある賭場のようなところの人たちは全部殴っておいた。
ついでに金目の物はもらった。
でも残念だ。わたしの予定ではもっとたくさんの暗殺者が集まる裏ギルドみたいなヤツだったのに。
この国……ニライカナ国の裏組織を潰して、がっぽりと稼ぐ。
裏組織からならどれだけ金目の物を奪ったとしても問題ないと思うから。
お財布代わりにちょうどいい。
でも、思ったほどの収入じゃなかった。本当に残念だ。
「……でも暗殺者は二人だったかぁ。酒場の方はあんまり貯め込んでなさそうで残念かも」
「な、何を言ってやがる? 酒場の方は?」
そう答えた男とちがって、わたしをさっき宿で襲ったもう一人の方は走って逃げ出した。
ガツン!
「いてっ……」
「残念。もう出口に結界を張ったから。逃がさないわよ、今度は」
「……なんだ? こんな結界魔法とか、あるのか……? おかしいだろ……?」
「さて、誰からの依頼か、教えてほしいんだけど? あ、言わないという選択肢を選んだ場合は勝手にラフティだったことにするし、もちろんここに貯め込んでる何かはもらっていくから」
わたしがそう言うと、ふたりは武器を構えた。
どうやら抗戦するつもりはあるらしい。
一人はさっきと同じでナイフ。顔からは血の気がなくなってる。
もう一人は……ショートソードを抜いた。こっちはやる気があるみたい。
「でもまあ無駄な抵抗だけど……」
「ぐはっ……」
「ぐえぇ……」
「無抵抗というわけにもいかないんでしょうね」
わたしはふたりを殴り倒した。
面倒だけど、ここからは尋問タイムだ。
「さて。わたしを狙ったのはラフティで間違いないわよね?」
質問してみたけど、相手は答えられるような状態ではない。
「……とりあえず、ラフティの屋敷の玄関と裏口に顔面をボコボコにした状態で頭だけ突っ込ませとくかな。そのくらいやっとけばラフティも二度とからんでこないわよね?」
わたしは抵抗する気持ちがなくなるように、丁寧に暗殺者たちの顔だけを殴ることにしたのだった。
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