第36話 やっとみんなと合流できたよ、よかった
「ひーめーさーまー!」
港にはわたしたちの乗る船に向かって一生懸命ぶんぶんと両手を振ってる妹分の侍女であるウルトがいた。
「ウールートー!」
わたしもそんなウルトへと手を振り返す。
これでようやくわたしの専属侍女3人と合流できそうだ。
「……あの子はまったく……あのように叫んでは姫さまの身分を隠せないではありませんか……」
はっ!?
しまった!?
このままだとウルトがアイーダの長時間説教コースになってしまう。
そんなことになったら、かわいいウルトが泣いちゃう!?
どうにかしないと!?
確かにウルトはミスをしたかもだけど……まだ12歳の子どもだ。アイーダの長時間説教は厳しすぎる。
わたしは大事な妹分をアイーダから守ることにした。
「で、でも、あれだよね? イリーナといい、ウルトといい、なんでわたしが到着する時にちょうど待っててくれてるんだろ? 不思議だよね?」
その作戦は話題そらしだ。
うまく話題をそらして、アイーダからかわいいウルトを守るのだ!
「……姫さま。今さら何を言ってるんですかね? アイーダさまは時々、鳩を飛ばしてますけど?」
「えっ!?」
鳩……?
鳩って……伝書鳩のこと? いつの間に!?
「アイーダ!?」
「イリーナ、わざわざ姫さまに教える必要はないでしょう。気づいていなかったのですから、そのままにしておけばよかったものを……」
つまり、イリーナはアイーダから鳩で連絡をもらってアラミス連合の町の門で待ってたし、ウルトがそこの港で待ってるのもそれと同じってこと!?
「どういうこと!?」
「姫さまの居所を知らないままだとみなが大変ではありませんか、いろいろと。ですから……」
「セレスティーナっっ!」
いきなり、アイーダの言葉をさえぎる大声が港に響き渡った。
接岸作業で忙しそうだった帝国兵たちも一瞬、動きを止めるくらいの大声だ。
よく見ると……ウルトの横に護衛騎士のオックスがいて……ウルトの後ろにエドがいる!?
しかも、そのエドのさらに後ろに……。
「……おじいさま」
「ええ、どうやら先代さまが聖国にはいらっしゃっているようですね」
……前メイルダース辺境伯であるおじいさまが仁王立ちしてる。どうしよう?
「……アイーダはメイルダースにも鳩を飛ばしてたってこと?」
「アラミス連合に入ったメイルダースの捜索隊のほとんどが引き上げたってことはちゃんと姫さまに報告したはずなんですけどねー? あの時、姫さまはその理由を考えなかったんですね?」
……その報告、聞いた覚えがある。確かにイリーナはそんなことを言ってた。
わたしを見つけずにメイルダースの捜索隊が帰国するなんて、よくよく考えてみると絶対におかしいだろ。
その時にすぐ気づけよ、わたし!?
でも、わたしの追手はおじいさまなのか……。
これはさすがに手強すぎる……おじいさまがどれだけ強くても負けることはないけど、逆に手加減がかなり難しい相手だ。戦い方をよく考えないと……。
「おじいさまが追手だなんて……」
「先代さまは追手ではございません、姫さま」
ぴしゃりとアイーダがそう言い切った。
あ。いつもの説教態勢になってる。
ウルトじゃなくてわたしに説教が!? なんで!?
「そもそも、メイルダースは姫さまを連れ戻そうとはしておりません」
「え? そうなの?」
それじゃなんでわたしは逃げようとしてたんだ!?
「え? あれ? じゃあ、アイーダたちが処罰されるっていうのも嘘なの!?」
「それはまぎれもない事実です。わたくしがニライカナで姫さまと合流できた時点で解決はできておりましたけれど……そこは伏せていました」
「じゃあなんで伏せ……」
「姫さまが逃げようとなさるからです。一緒に逃げているフリをすることが一番、姫さまに逃げられずに済む方法でしたからね」
うっ……否定できない……。
「そもそも、姫さまを連れ戻すのは無理だと……メイルダースでは判断していたはずです。おそらく、ですけれど」
「う……」
「以前の家出の件がございますからね」
「それは……そうかも……」
わたしは7歳から10歳まで魔境の森へと、さらにはその奥地へと侵入して自分を鍛えた。
その方が安全にこの世界を生きていけると……前世の知識でそう考えたからだ。
つまり、レベル上げがしたかったわけで。
それを……レベル上げになるイリーナのサバイバル訓練の同行を禁止されて、家出したのだ。
そして、家出してる間にメイルダースの誰よりも強くなってしまった。
あの時、メイルダースに戻ってお父さまを見た瞬間、あれ? お父さまなんか弱くね? と思ってつい試してしまったのだ。
結果、ワンパンで倒してしまい……そこから家族との関係はなんか変になった。
あの頃は……アイーダとイリーナ以外の人とはほとんど関わってない。
ちなみに、わたしに仕えるためには強くなければならないと……アイーダとイリーナはメイルダースの騎士団長相手にわたしと同じようなことをやってる。
そのくらい、アイーダとイリーナは……わたしを大切に思ってくれているのだ。
「……ごめんなさい」
わたしは弱々しく謝った。
アイーダとイリーナには……わたしは素直に謝ることができる。
そこでアイーダは少しだけ悲しそうに微笑んだ。
「姫さま」
「……はい」
「メイルダース家のみなさまは、姫さまのことを大切に思ってらっしゃいますよ?」
「それは……」
……本当にそうなのだろうか?
わたしは……メイルダースの家族とうまくやれてなかったと思うけど……。
「ただ、あの家出の件で、どう姫さまと接したらいいのか、分からなくなってしまっただけなのです」
……うぅ。そう言われると納得しかない。
何年間も行方不明で、帰ってきたら父親をワンパンで倒した娘とか、わたしだったらどうすればいいのか絶対に分からん!?
アイーダはおずおずと手を伸ばし、わたしのことをゆっくりと抱きしめる。
小さな頃とはちがって、最近では絶対にやらないことだ。
それを今……するなんて、ズルい……。
「アイーダ……」
アイーダはわたしが家族とうまく話せなくなっている間もずっと、わたしの侍女としてそばにいてくれた姉代わりの人だ。
こうやって抱きしめられると、ちょっと泣けてくる。
「先代さまも、ただただ姫さまのことが心配なだけにございます。別にメイルダースへと姫さまを連れ戻そうなどとは思ってらっしゃらない……はずです」
「そこはちゃんと言い切って!?」
やっぱりおじいさまに連れ戻されるかもしれないんだ!?
涙が引っ込んじゃったよ!?
「……おそらく城主さまや若さまは、先代さまをお止めできなかったのでしょう」
「まあ、無理でしょうねー。力づくならできるかもしれないですけど……あの先代さまですし」
アイーダとイリーナの見解が一致した。わたしもそんな気がしてる。
「うぅ……帰りたくない……もっと遊びたいのに……」
「大丈夫ですよ、姫さま」
「そうですよ、姫さま。一緒に先代さまを連れていけばいいんですから」
「えぇ……」
おじいさまを連れて?
それで旅を続けるの? なんかイメージがわかないんだけど……?
どっかの副将軍みたいにならない? それ?
「とりあえず、戦闘狂の先代さまはダンジョンには入りたがると思うのでー」
「そこは問題ありませんね」
「じゃあ、いきなり連れ帰ろう、みたいにはならないかな?」
「そもそも、そんなことをしたら姫さまは逃げるか暴れるか……」
「手に負えませんからね……」
アイーダとイリーナはため息まじりでそう言った。
「……じゃあ、しばらくは聖国のダンジョンで楽しんでもいい?」
「帝国で皇族相手にいろいろやりましたから、しばらくの間は大丈夫じゃないですか? 賠償金の補填目当てで動いたヤーバナ王国の侵略欲を帝国軍を使って抑え込みつつ、第2皇子にそこで手柄を立てさせ……その上で裏から第1皇子も資金援助で支えてふたりの皇子を争わせるという姫さまの作戦はうまくハマりそうですし!」
「だ、だよね? がんばったよね? わたし……」
「……聖国では何もなければよいのですけれど……」
アイーダ!?
不吉なことを言わないで!?
クルセイド聖国にはあのバカ王子がきてるから、まだ何か起きるかもとか実はわたしも考えてたし!?
でも、どうにかわたしは……まだ旅を続けられるみたいだ。
もっといろいろと見て回りたいし、楽しみたい。世界は広い。
とりあえずは聖国のダンジョンの制覇からかな?
とりあえず久しぶりに会うウルトといっぱい話をしよう。
離れてる間はどんなことをがんばったのか、よく聞いてほめてあげないとね。
それでかわいいウルトに癒されるんだ……。
それにしても……ニライカナ国にはじまって、アラミス連合からラマフティ帝国と本当に……本当に、いろいろ、あったもんね。
ここからはもっと楽しくいこうか。
わたしの旅は! これからだ!
あとがき失礼します!
セレスティーナの旅はこれからですがこの物語はとりあえずここまでです!
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