第34話 全部第2皇子に押し付けとくか……
「姫さま、そろそろナーゴの港だそうです」
「あ、着きそうなんだ。じゃあ、動かないとね」
イリーナが教えてくれたので、わたしは貴賓室から出た。
今、わたしたちは帝国海軍の軍艦に乗ってる。
残念ながら大砲とかはない。そういう時代じゃないみたい。
火薬とか、どこかにありそうなんだけど、魔法もあるからいらないのかも。
でも、そこまですごい魔法使いはあんまり見ないんだけどね。
帝国海軍軍艦の貴賓室は船内で一番いい部屋だ。
皇族が指揮官となった場合に使う部屋、らしい。
でも、わたしたちは遠慮せずに使ってる。遠慮する理由が分からないし。
「第2皇子は?」
「姫さまをお待ちです」
「そう」
船内にも、もう慣れた。
そもそもわたしは船酔いしないタイプらしい。
ひょっとしたら状態異常耐性がカンストしてるだけなのかもだけど。
皇宮のパーティーをぶち壊してから数日が経過してる。
あれから第2皇子を先頭に、港へ行って軍艦に乗り込んだ。
わたしたちが乗る船だけじゃなくて、皇子たちの護衛ってことで他に5隻の軍艦がついてきてる。兵士を詰め込んで。
最初は帝国兵の中にも、皇子殿下をお救いするのだ! ……みたいな感じの人がいた。
でも、3人いるならひとりくらい死んだっていいよね? というスタンスで第3皇子をぼこぼこにしてると、帝国兵たちにもわたしたちの本気が伝わったらしい。
下手なことをすれば本当に皇子殿下が殺されてしまうかもしれない、と気づいたみたい。うむうむ、それでいいんだ。
おかげで最初は反抗的だった第1皇子も大人しくしてくれたし。
第2皇子は当然として、第1皇子も特に怪我とかはしてない。
このふたりは元気なままで、帝国に戻ったら皇位継承争いを続けてほしい。
でも、第3皇子はぼろぼろだ。一応、生きてるけど。
帝都にいた時、アイーダに何回もいやらしい視線を向けてたから、とりあえずイリーナに拷問させといた。
……残念ながら、イリーナが拷問してもあのストーカー公子との関係は不明なままだった。あいつ、マジですげぇな。謀略うますぎるだろ。
それに、わたしがメイルダース辺境伯令嬢本人だということも、もう隠してない。
そこそこ長い期間の船旅の間、ずっと演技すると面倒だからね……。
……わたしが本物だということをこいつらなかなか信じなかったんだけど。
その分、イリーナが第3皇子に拷問マシマシで対応してくれた。
わたしの命令にイリーナがなんでも従うから、やっと信じてくれたという。
実に残念な皇子たちだ。
甲板に出ると、向こうに見覚えのある港が見えた。
確かにここはニライカナ国の首都ナーゴの港だ。
前にここにきた時は商業ギルドの受付の女の子と一緒に楽しみながらやってきた。
なんで2回目はこんなつまんない皇子どもと一緒なのか。納得できない。
絶対にいつか、あのストーカー公子にとどめを刺してやる。全部あいつが悪い。
「姫! 入港までは約1時間というところです!」
「積荷はどうしますか!」
帝国海軍の兵士たちが敬礼しながら話しかけてくる。
この数日ですっかり素直になってくれて嬉しい。
「アラミスで買った鉱石は聖国に持ち込むから、そのままで。調度品なんかはこっちで売りさばく。聖国だと売れない可能性が高いからね。それと、入港したら港の役人に評議会議員のラフティっていう人を呼ぶように伝えて。帝国軍から話があるからって。ああ、そうそう、ニライカナでは麦を買い付けるわよ」
イリーナがこの前の船に乗った時に、どういう取引をすれば帝国から聖国間の航路で稼げるのか商人たちに聞いて調べてくれてたから。
それに従って買い付けして、鉱石と麦を聖国に持ち込むつもりだ。
ちなみに元手となる売り物の高級な調度品なんかは、帝国の宮殿からわたしが空間魔法で収納して持ち込んだものだったりする。つまり、盗品だ。
イリーナが宮殿内の地図を作ってくれたから、どこに何があるのかだいたい分かってたのが大きい。高級品はもちろん、倉庫に眠ってた中古品も回収してる。
素材からしてものがちがうので中古でも価値はあるし、作られた時代よってはアンティークとしての価値もあるくらいだ。
帝国兵たちはなんでこんなものがここに? という感じで驚いてたけど、その疑問を口にはしなかった。立派な兵士たちだね。うんうん。
鉱石と麦を大量に聖国で売ってダンジョン攻略の資金にする予定になってる。他にもその資金には大事な使い道があるし。
「了解しました!」
「作業に入ります!」
うんうん。
軍人さんはキビキビしてていいね。
「……まるで君のための兵士のようではないか。彼らは帝国海軍だろうに……」
「あ、第2皇子。準備できてます?」
第2皇子も甲板にやってきたようだ。
「その雑談する気もない態度は……はぁ。まあよい。君には誰も逆らえないからな。もちろん、こちらも準備はできている。君の作戦通り、与えられた全権を使って手柄を立ててくるとしよう」
「追尾してる5隻のうち、3隻分の兵士を連れていってください。船もここに残します。残りの2隻は聖国まで、あとふたりの皇子の護衛ということにします」
「和平の仲介なら……そのくらいの兵数が妥当か……増やしてあまり威圧的になるのもな……」
第2皇子にはヤーバナ・アラミス連合軍とニライカナ軍との戦いを止めてもらう予定になってる。
それが第2皇子の手柄というか、成果というか、そういうものになる。
国際的な影響力があるっていう実績づくりみたいなもの。
「……さっき、どうみても姫さまと雑談したがってましたよね? 姫さまってやっぱりプリンスキラーなんじゃないですか?」
「第2皇子は少し貧弱そうだから姫さまの相手にはふさわしくありませんよ、イリーナ」
「姫さまが第2皇子を陥落させてることは否定しないんですね、アイーダさま……」
「妃になった場合を考えると姫さま以上の逸材はおりませんから」
「でも姫さまって突き抜けすぎてて、政略結婚じゃ耐えられないというか……だから姫さまを求めるとなると恋愛感情もあるんじゃないですかね……?」
こらこら、そこのふたり。ぼそぼそ話すのやめなさい。
こんなイケメン第2皇子がわたしみたいな暴力女とどうこうなるはずがないだろ。
まあ、負け惜しみでなくわたしは第2皇子なんかに興味はないけどね?
大事なのは帝国をどうやって動かすのか、だから。
帝都を出港する前に、アラミス連合との国境地帯へ帝国陸軍を送り込むところまで第2皇子は命令済みだ。わたしのアドバイスに従って、だけどね。
あのパーティーで第2皇子は皇帝に全権を委任されたから、せっかくなので利用させてもらった。
そっちも脅しだけでアラミス連合には攻め込まない……予定。大丈夫だよね?
もともとラマフティ帝国はニライカナ国と友好関係を結ぼうとしてたから、大筋では帝国の願い通りだ。
そういう意味で第2皇子も特に和平の仲介には反対してない。
ただ、メイルダースを封じ込めるための何かについては……知らない方が第2皇子も幸せだろ。
……こっちは知らないフリをしてるから、第2皇子はわたしたちを出し抜けてるって思ってるかも。気づいた時にはもう遅いのだ。
帝国の訓練場でイリーナが身体強化魔法を使わずに圧倒してたの見てるはずなんだけど、まだわかってないのかも。
まあ、どうでもいいか。帝国のことだし。
「あ、そうだ」
「……何かあるのか?」
ある。
とても重要な要件があるのだ。
ある意味ではこっちが最優先事項である。
「連合軍との仲介にあたる時には『われわれは闇に光をかざす者だ』と叫んでから交渉にあたるようにしてください。特にアラミス連合側にはよく聞こえるように」
「……なんだそれは?」
第2皇子からわたしへと不審そうな目が向けられた。ついでにいえば、アイーダとイリーナからはあきれた顔を向けられてる。
「暗号です」
「暗号……?」
いいえ、嘘です。
別に暗号ではありません。でも、本当のことは言わない。
「そうです。『われわれは闇に光をかざす者だ』と名乗ることで、アラミス連合との話はうまくいくようになってます。事前にそういう準備が済んでるので」
「それは……本当なのか?」
これは本当だ。
たぶん、その名前を使えばうまくいくはず。
アラミス連合では『闇に光をかざす者』が何をしたのかはたぶん共有されてる。あんな事件を黙ってる理由はないからな……。
「ええ、間違いありませんよ。大丈夫です。もしもそれでアラミス連合が和平の仲介を断るようなら……わたしたちが動きますからご安心を」
「そ、そうか……わかった。君たちが動くのなら問題ない。仲介にあたる時はそのように名乗るとしよう」
よし、これでわたしの黒歴史は第2皇子のものになったな!
うまいこと押し付けられた!
アイーダとイリーナがジト目でわたしの方を見てる気がするけど、たぶん気のせいだろ。
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