第31話 帝都でぱーりーぴーぽーに、わたしは、なる!
「……姫さま」
「おかえり、イリーナ。手紙は届けられた?」
窓の方から気配を消したイリーナが戻ってきた。
今、使ってる結界はアイーダとイリーナだけが通り抜けられるものだ。
本当に魔法って便利。
帝国からの間諜はここに入った初日から何人も処理してる。
そういう部分でもメイルダースは怖いと知ってもらえたら嬉しい。
がんばれ! 帝国の諜報部!
「はい。問題なく届けておきましたよ」
「よく第2皇子の寝室がわかったわね?」
「姫さまが訓練場の観覧席を崩壊させた時、完全にこちらへの意識が途切れましたからね。あれで自由に動けるようになりましたので」
イリーナには第2皇子へのお手紙をこっそり届けてもらった。
別にラブレターとかではないし、こっちは名前も書かずに送り付けたのだ。
ものすごく怪しい手紙というか、字が書かれた紙、か。
第2皇子の枕元に置かせておいて……寝る前に気づくように。
あれを読んで第2皇子がどう動くかは未知数だけど、動かないならこっちは別にどうでもいい。
動くことで第2皇子が得られそうな利益は伝わるはずだ。
それを掴もうとしないのなら、わたしの知ったことではないのだ。
「もう宮殿内のほとんどの場所は把握しましたよ。なんなら皇帝と寵姫が真っ最中でもお任せを」
「それはいらない。品がないわよ、イリーナ。アイーダに叱られても知らないから」
「う……アイーダさまには内緒でお願いします……」
「別に言わないわよ。冗談だもの」
わたしはにっこりとイリーナに微笑んだ。
「……おどかさないでください、姫さま。あ、そういえば今回の作戦って姫さまが考えたんですよね?」
「そうよ?」
「最高の作戦です! すっごくびっくりしました!」
「でしょ? でしょ? もっとほめてもいいのよ? 頭が痛くなるくらいがんばって考えたんだから」
「いやぁ、姫さまもやればできるんですよね」
「その言い方はちょっと失礼でしょ。でもまあ、アイーダに殴っちゃダメだって言われたからねぇ……考えるしかなくて」
「あ、そういうことでしたか……なるほど、さすがはアイーダさま。姫さまの動かし方をよく分かってらっしゃる……」
「何ブツブツ言ってるの?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「とりあえず今度はわたしが動くから地図はこっちに渡して。イリーナはもう休んでいいわよ。明日から忙しくなるんだし」
「あ、はい」
わたしはイリーナから宮殿の地図を受け取った。
さて、今度はわたしの番だ。
別にそこまでの恨みはないけど、帝国の人たちには笑えない事態になるはず。
ま、バレないようにやるから問題ないか。
気づいた時が楽しみかも。帝国の人たちにはいっぱい驚いてもらおうかな。
「ヤーバナ王国、メイルダース辺境伯領より、セレスティーナ・メイルダース辺境伯令嬢、アイダルファス・ノイラアイン子爵令嬢、キャルイリーナ・ファルドゥワ男爵令嬢が入場いたします!」
入場のコールがかかると、正面の大扉が開かれた。
同時にラッパで入口への視線を集める。
わたしたち3人は横並びで入場する。
これは……本当はわたしが辺境伯令嬢なので、アイーダの後ろについて入場することを避けるためだ。
エスコートしてくれる男性はいないけど、あんまり大きくない胸を堂々と張っての入場だ。
「……メイルダースだと……?」
「あの噂……」
「まさか本当に第3皇子が……?」
「いや、エスコートしての、皇族側からの入場ではないぞ?」
「皇族方の入場後に発表するということも……」
「その可能性はあるかもしれん……」
第3皇子が自分でメイルダース辺境伯の娘と婚約するなんて噂を流してるから、わたしたちの入場がすごく注目されてる。
多くの貴族たちはわたしたちが帝都にいることすら知らなかったにちがいない。
知っていたとすれば、訓練場にいた騎士の関係者くらいかな。
第3皇子が用意してた一番いいドレスはアイーダに着せたから、注目はそっちに集まってる。いいことだ。
アイーダは扇で口元を隠しながら横目でわたしの方を見た。
「……護衛の配置はだいたい見えました」
「そう。結界はいつでも出せるから心配いらない。それじゃあ、皇族の入場までは何か食べる?」
「姫さまは油断しすぎでございます。毒など効かぬからといって……」
豪華なメニューがずらりと並んだテーブルを目指しながら、わたしたちは雑談していた。
「……こちらをにらみつけている者も数人いるようですね」
「戦後かなり経ってはいるけど、敵国にはちがいないし、そういう人もいるでしょ。特に武門の高位貴族なら。あの戦争でご先祖さまをメイルダースに殺されてるとかじゃないかな」
「なるほど、それなら納得です……」
アイーダがその中でもひとりのおじさんに注目してる。
ひときわするどい視線をぶつけてくるおじさんがいるのだ。
夜会服なのに鍛え抜かれた肉体が隠されてるとわかる感じだ。ちょっとだけ強そうかも。
戦場ではなくパーティー会場なのに、ご苦労なことだ。
……ああ、ひょっとしたら訓練場での話が伝わってる人なのかも。それでこっちを警戒してる可能性があるか。
「甘いものがいいです」
「イリーナ。我慢しなさい」
「はいはい……」
警戒している人たちとはまた別に、情報がほしそうな人たちがこっちに近づいてるのもわかる。
でも、わたしたちと面識がないから簡単には話しかけられない。
いろいろと基本的なマナーは帝国でもヤーバナ王国でも同じだ。
例えば身分が下の者から身分が上の者に話しかけてはいけない、とか。
この身分の上下も……国がちがうとややこしい。
わたしは辺境伯家の令嬢なので、公侯伯子男の貴族階級では侯爵相当のポジションになる。
そうすると帝国の公爵家または侯爵家ならわたしに話しかけることができる。それ以外だと面識がなければ話しかけてはいけない。
でも、このパーティーでのわたしたちの入場は招待客の中の一番最後……つまり主賓になっている。
だからこのパーティーに限っていえば公爵や侯爵だったとしても、うかつに話しかけられない位置付けになるのだ。ややこしい。
爵位の話に戻そう。
アイーダは子爵令嬢、イリーナは男爵令嬢なので、爵位という点からだと話しかけても問題はないんだけど……今はわたしたち3人が一緒に行動している。
そうすると、その中の男爵令嬢だからといって声をかけるわけにはいかなくなる。辺境伯令嬢であるわたしの邪魔をすることになるからだ。
つまり、今はわたしたちに話しかけたくても話しかけられないってこと。
そもそもわたしたちは帝国の貴族と縁を結ぶ気はないので、話しかけにくい現状をキープだ。
まあ、話しかけたくても……。
「皇族方の入場となります! みなさま、前の扉をご覧ください!」
……すぐに皇族の入場となるわけだから、話しかけるための時間もないのだ。
案内役は「ご覧ください」と言ったけれど、そちらを向いた招待客たちはみんな頭を下げた状態だ。
皇族の入場を直視するのはマナー違反となるし、皇族から楽にするように言われるまでは頭を下げたままでいるのがマナーだ。
もちろん、こっそり見るのは不可能ではないし、そのくらいは誰でもやってる。
マナー違反だけど……わたしたち3人は頭を下げてない。
この先のことを考えたら、頭を下げる必要とかないし。
だって……ここは戦場だからね? 敵に頭を下げるのは負けた時だけ。
奥の扉から入ってきたのは……皇帝、帝妃、第1皇子、皇子妃、第2皇子、第3皇子……で、あとはたぶん皇弟かな? それとその妃。
まだ幼い皇女はここにはいないらしい。
さあ、第3皇子が何をやってくるのか。こっちはたぶん想定内のこと。
それと第2皇子はどういう選択をするのか。これは第2皇子次第か。
わくわくするパーティーが今、始まる……。
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