第25話 大きな船は楽しみだ
「……確認できましたので、しばらくお待ちください。船への案内役を呼びますから」
「ここで待っていればいい?」
「はい。こちらでお待ちください」
港の入口で役人らしい男と対応してるのはイリーナだ。
わたしとアイーダは町での経験が足りてないからイリーナに任せた方がいい。
昨日の夜のうちに外壁を乗り越えて港町ヤツローシへと侵入したわたしたちは、朝になってまず商業ギルドへ向かった。
目的は銀貨の両替だ。今度はヤーバナ王国の銀貨をラマフティ帝国の銀貨に両替しといた。
イリーナによるとワイロとして使える小銭があれば話が早いということだったからなんだけど。
実際、すぐに港の入口では話が通った。こっそり銀貨を2、3枚、イリーナは渡していたはずだ。
ワイロとか本当はちょっと抵抗ある。でも、そういうもんなんだろ。
その程度でうまく動けるんなら、やった方がいいに決まってる。
帝国の役人が汚職にまみれてたとしてもわたしには関係ないわけだし。
「……港の役人、びっくりするほど丁寧な対応でした。あの公子、なかなか影響力があるんですね……」
「まあ、あんなんでも公子ではあるんだし……」
「これでクルセイド聖国へ向かえるのはありがたいことです。ウルトたちとも合流できますから」
アイーダは最初の目的を達成できそうなので嬉しそうにしてる。
そう。
まずは王都の屋敷にいたわたし付きの上級使用人3人との合流が優先だった。
護衛騎士も含めるなら5人だけど、報告係としてメイルダースに向かったエドはもうカウントしなくてもいいだろ。
あとはウルトとも合流しないと、アイーダたちがメイルダース辺境伯家から処罰を受ける可能性があるのだ。主に、わたしのせいで。
……それにプラスで古代アイテムの調査も予定に入っちゃったけどね。
国外追放でいろいろと楽しみたいとは思ってるんだけど、その間にメイルダースが滅んでもいいとかはさすがに思ってない。
もちろん、どっちかといえばメイルダースが滅びるなんてありえないと思ってる。
それでも……身体強化を封じられたら厳しい戦いにはなる。
絶対に確認は必要だろ。
「海路だと……10日もかからずにクルセイダ聖国に着くはずなんで」
「いろいろ買い出しとかしといた方がいい?」
買い出しとかしなくても、わたしが空間魔法で収納してる物で大丈夫だとは思う。
でも、わたしが収納してない必需品とかがあると困ったことになる。
「食料なんかも船内で用意される高い部屋……一等船室というやつでしたけど、ちゃんと用意してもらえるみたいですよ」
「……そのあたりは……さすがは公子というところでしょうか」
「部屋がちゃんとあるのはありがたいよね」
残念ながら、お風呂とかはないと思う。ニライカナで乗った船も部屋はあったけどお風呂はなかった。
でも、カギがかかる部屋なら……猫の足がついたお風呂を収納から取り出せなくはない。お湯は魔法でどうにかなる。
魔法で水を出して顔を洗うだけとかでもいいし……いや。アイーダはわたしをゴシゴシと洗いそうな気がする。
「お待たせしました」
役人が男をひとり、連れて戻ってきた。
身なりが……予想外にマシなタイプだ。港で働く船員でも呼んでくるのかと思ってたのに。
船員は基本的にマッチョなタイプが多いから……ひょっとするとこの男も役人なのかも。
港の入口は検問所も兼ねてるはずだ。それなら役人が多くても不思議はない。
わたし、ニライカナ国で港にはちょっとくわしくなったからね。
「この男に船へと案内させますが……出港は明後日になりますので」
「あ、そうでしたか……」
イリーナが知らなかったという顔でそう答えた。
イリーナだけじゃなくてわたしも勘違いしてた。たぶんアイーダも、だ。
わたしたちは今日、すぐに船が出ると思っていたけど……どうやらそんなに都合よくはいかないらしい。
「港への出入りはこちらの札をお持ちください。明後日までの宿のあてはございますか?」
「問題ないです。どうにかできるので」
イリーナの返事に役人はうなずくと、視線をもうひとりの男へと移した。
「……こっちです」
男はそう言うと、歩き出す。
どうやら船へと案内してくれるらしい。
わたしたちは男の後ろに続いた。
「大きな船でございましたね、姫さま」
「ん? ああ、そっか。ニライカナで乗ったのわたしだけだもんね。あれと同じくらいの船だったんだよ、前に乗ったやつも」
だいたい全長は50メートルから70メートルくらいかな。
でも帆柱は1本だけだった。
今のこの世界だと、これが最新技術の船なのかも。
アイーダはお風呂でわたしをゴシゴシと磨いてる。わたしが収納から出した猫足のお風呂だ。
イリーナは情報を集めに出かけた。
予定外の2泊だけど……おさかなが食べられてわたしは幸せ……。
ここでも生魚はなかったけど……さらっと両面をあぶるだけで食べるやつはあった。最高だった。岩塩との相性もバツグンで……。
「あと少しでクルセイド聖国でございますね」
「……これでウルトとも合流できるわね」
「本当に……ありがとうございます、姫さま」
……お礼を言われると困る。そもそもわたしがみんなを王都に置き去りにしたのが悪かったのだ。そこは反省しかない。
「……クルセイドに行ったらダンジョンが楽しみ」
わたしは話題を変えることでごまかすことにした。
言ってるのは本音だけど。
「姫さま。ダンジョンに入ることを止めるつもりはありませんけれど……必ずわたくしもお連れ下さいますよう」
「わかってるって」
意外にも、アイーダはダンジョン入りを止めなかった。
絶対に反対すると思ったのに。
「……反対しないんだ?」
「10歳で魔境の奥地のドラゴンを狩っていた姫さまを止める意味がございません」
ああ、それはそう。
ダンジョン内のモンスターに負ける気はしない。
「ただ、ダンジョンにこの猫足を持ち込んだとしても、そこで利用できるかどうかが心配です」
「いや、さすがに無理だろ……」
アイーダはわたしをダンジョン内でもお風呂に沈めるつもりだったらしい。
それはさすがに無謀すぎる!?
でも、安全地帯とかがあるんならできるかも。
でも、こんな感じでわたしはクルセイダ聖国のダンジョンを本当に楽しみにしていたのだ。
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