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第19話 別に恨んでないからちょっとかわいそうかも



「あー……こんな感じになっちゃったのか……」

「イリーナ、あなたね……」


 わたしとアイーダはイリーナに案内されて、シブーシの城壁内の貧民街っぽいところの廃屋までやってきた。


 その暗がりの中で椅子にしばりつけられた男がいる。

 王子の側近だった騎士団長の息子……あ、前騎士団長の息子か。


 見た感じ、それが本物なのかどうか、判別できないレベルでボロボロになってる。

 イリーナがそいつだというんだからそうなんだとしか言えない。


 もし別人の顔を潰してこいつですって言われてたとしてもおかしくないレベルの状態ではある。


 意識はあるのか、ないのか……。


 見えてる部分でいうなら、まず顔面がぼっこぼこだ。

 学園でも人気のイケメン騎士だったはずだけど、その面影はもはやゼロ。マジで皆無だ。


 視線を下げると、足のつめが全部はがされてるのも分かった。

 もちろん血の跡だらけ。

 おそらく手もそうなんだと思う。後ろに回されてるから手の方は見えないけど。


 それと……男性の象徴たるあのイチモツが、そのほとんどを切り落とされて床に落ちてる。

 あまりにも生々しすぎる状態だ。

 それを見てちっせぇなと思ったのはわたしだけの秘密にしよう。


 それでも……こんな状態でも生きてるのはわずかな呼吸音で分かる。


「……せめてあのような不浄のものは姫さまの目にふれさせぬよう配慮しなさい」

「あぁ、あれですか……」


 そう言いながら、イリーナは落ちていたイチモツをぽーんと蹴飛ばした。ナイスキック。

 確かに見える範囲からはなくなったけど……アイーダの気になるポイントってそこだったのか……。


「あとは股間もどうにかなさい。見苦しい」

「はいはい」

「返事は一度でよろしい」


 イリーナはそのへんにあった板切れを手に取ると、ああでもないここでもないと角度を調整して男の股間を隠すように置いた。


 ……むしろ、なんか変な感じがするんだけど。まあいいか。


「では姫さま。とどめをどうぞ」

「え? やらないわよ、そんなこと」


「よろしいのですか? 姫さまに対する冤罪、またその際には暴言もあったとか聞き及んでおりますが」


「姫さまに、暴言……」


 イリーナの言葉でアイーダが顔色を変えた。

 すっごい怒ってる。赤くなったし。


「ただちに処刑を命じてくださればわたくしがすぐにでも細切れにいたします」


 アイーダは剣の柄に手を置いている。斬る気満々だ。


 わたしは特に……恨んでもないから……なんだろう?

 ものすごくどうでもいい。


「剣が汚れるのはもったいないくらいくだらない相手だから別にやらなくていい。もともと学園でもどうでもよすぎて気にしてなかったし……実は名前もよく覚えてないくらいで……」


 未来の王子妃としては失格だったかもなんだけど、全然興味をもてない相手だったのだから許してほしい。


「ラインハルト・ド・スーベルニア伯しゃ……いえ。子爵令息でしたね、今は」

「ずいぶんと偉そうな名前だったんだ……」


 そう言われてみれば、バカ王子からはハルトって呼ばれてたような気もしないでもない。

 もはや見た目からしてほとんど別人のような状態だけど。


「それではどういたしましょうか?」

「このままでいいかな。貧民街で生きていけるんならそれはそれ。どうせ、わたしを連れ帰らないと戻れないんでしょ? 国外追放になったし?」

「そこは王家もきっちりやると思います。城主さまが許さないでしょうから」


 まあ、この人もまさかこんなことになるなんてって感じだと思う。

 恨まれたとしても、この痛めつけられ方だともう敵にはならないし。そのへん、イリーナはきっちりしてると思う。


 別にわたしの方は恨みとかもない。本当にどうでもいいレベルの相手だ。

 もっというなら国外追放の一端を担ってるんだからある意味で感謝してるくらい。


 ……いや、バカ王子たちは本当に何がしたかったんだろ。


 あんなパーティーで婚約破棄を王子に宣言させるんじゃなくて……普通に話し合いでの婚約解消とか白紙とかを目指せばよかったのに。

 たぶん、殴ることにはなったと思うけど……。


 もちろん、王家がメイルダース辺境伯家を取り込みたいという狙いをどうにかしないと穏便な婚約解消も難しかったとは思う。


 それでも事前の話し合いがあれば……わたしが王子ではなく王家を殴りにいってうまく婚約を解消できた可能性はあったはず。


 ……いまさらな話だ。言ってもどうにもならないのはわかる。


 まあ、アラミス連合の片隅でどうにか生き延びるくらいなら、自分の力で頑張ってほしいところだ。

 これからはたくましく生きてほしい。今はボロボロだけどね。






「……値上げ?」

「はい。この宿の宿代もそうですが、特に食料関係がずいぶんと値上がりしています。ここ数日で銅貨1枚だった屋台の串焼肉が銅貨3枚になっているようです」


 3倍はひどくない!?


 シブーシの商業ギルドで両替してからイリーナの案内で宿屋へと入った。

 ニライカナの時のような高級ホテルではないけど、落ち着いた感じのいい宿だ。


「……他には何かある?」

「シブーシの中では有力な傭兵団と言われているジゲーン傭兵団が昨日、演習に出たそうです」

「演習、か……」


 おそらく演習ではなく、本当にどこかを攻めるつもりではないかと思う。

 情報統制をしてるんだろ。

 ニライカナに反抗作戦を気づかれないように。


「……滞在費が足りなくなるということはありませんが、早めにクルセイド聖国を目指した方がよさそうですね、姫さま?」

「あのクソ王子は最後のデザートにしたかったのですが……この状況ならクルセイド聖国へ行くのも仕方がないです」


 王子は恋人と一緒にクルセイドに国外追放だったはず。

 国外追放になってもあのふたりが甘々な関係のままとは思えないからデザートにはできないだろ、たぶん。


 イリーナは王子にもさっきみたいな拷問をするつもりなのか……。


 それにしても……この状況なら仕方がない、か。

 イリーナは戦争が始まると予想してる。

 それなら相手は……やっぱりニライカナ国しかないだろ。


「美味しいものでも食べたかったのに……値上がりとかなら、当然、品薄になってるはず……」

「クルセイド聖国の食事はあまり期待できないと思われます」

「あそこはいろいろと食事に制限がありますからね……教義の関係で」


 クルセイド聖国はメシマズでもダンジョンがあるからいいんだ、別に。

 汗をかいたあとの屋台メシは最高なはず。


「……とりあえず明日にはシブーシを出て、帝国方面に行く」

「え? 帝国ですか?」

「もちろんクルセイド聖国を目指すけど……陸路じゃなくて海路で」


「それならアラミス連合で唯一の港町、イダセンでよいのではないでしょうか?」

「アラミスの船だと、クルセイドに行くまでの間にニライカナともめる可能性があるでしょ。だから帝国まで一度行って、帝国の船でクルセイドを目指す方がいい」


 わたしは今後の方針をふたりに説明した。

 帝国はアラミス連合とニライカナ国の関係には中立でやってるはずだ。

 今まで通りなら。


「……絶対に帝国で美味しいものを食べようと企んでますよ?」

「……分かっていてもそこは見逃してあげるのがよき侍女というものです、イリーナ」


 ふたりともかなり失礼な侍女だから!?

 そっちこそちゃんとして!?






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