第17話 あたらしい国にやってきたけど……
「そろそろ山越えだから、こっち側はアラミス連合の領域か」
「……どちらの領域ともいえない大自然ではありますが、一応はアラミス連合側と考えてもいいでしょうね」
わたしが新たな国へと一歩を踏み出して喜んでいたというのに、アイーダはそこへ水を差してくる。
まったく、そういうところがよくない。わが姉は! 実の姉ではないけど。
ただ、国が変わると……また面倒なアレが……。
「……今度は何を売れば……」
「姫さま? どうかなさいましたか?」
「うん? ほら、国が変わるとお金が変わるでしょ。何を売ろうかと思って」
通貨はそれぞれの国が発行してる。紙幣は見たことないけど……。
別の国に入れば、その国の金貨や銀貨、銅貨が必要になるのだ。
隣の国の銀貨が使えないってことはないけど、すごく価値が下がったりもする。
要するに、取引の時にぼったくられるということ。
だから……商業ギルドのようなところで、適正価格での両替を先にしたい。
もちろん商業ギルドでの両替でも目減りするけど、ぼったくりとまでは言えないレベルだ。
「普通に両替すればいいのではないでしょうか? ニライカナ国とアラミス連合はほぼ同じしくみだと聞いております。ニライカナ国の商業ギルドと似たしくみはあるはずです」
「両替すると手数料をとられるし……それは仕方ないとしても、アラミス連合で敵対関係にあるニライカナ国のお金を両替したらトラブルになるかもだし」
「手数料はあきらめるべきではありませんか? ニライカナ国の硬貨では心配だというのであればヤーバナ王国の硬貨を両替しても……」
「まあ、どっちかというと……移動した国での生活手段っていうか、その国で収入を得られないとちゃんとした旅はできないっていうか……」
「旅をするだけならばその部分を心配する必要はないのですけれど……姫さまはそこも楽しみたいということでしょうか?」
「それ! さすがはアイーダ。よく分かってくれてる!」
「なるほど……ちなみに、ニライカナ国ではどのように現地の通貨を入手なさったのでしょう?」
わたしは自慢げに胸を張った。
ニライカナ国でのわたしの活躍をアイーダに聞かせてあげるのだ。
「空間魔法の収納に入れといた灰色ヒグマの毛皮を商業ギルドのオークションに出したらいろいろあって100万になった」
「……そ、そうでしたか……わたくしもいろいろと納得しました」
「え?」
アイーダがぐいっとわたしに近づいて顔を寄せた。
思わずわたしは半歩ほど下がる。
「姫さま」
「は、はい」
「姫さまは根本的に失敗なさっておいでです」
「ええ? なんで!?」
「灰色ヒグマの毛皮は産地となっているメイルダースでさえ、かなり高額なものです」
「うん。だからオークションにしたら高く売れるし、その後の生活も楽になるでしょ?」
そこで右手の人差し指を指揮棒みたいにする説教ポーズをアイーダはとった。
わたし、何か間違ったの!?
「高額な換金をすれば、目立ってしまいます」
「えっと……そういえば、確かにそうだったような……?」
「身に覚えが?」
「そのオークションでラフティに目をつけられて……ラフティの下部組織みたいなイシガー組だっけ? そういう連中ともめて……」
「なるほど。予想通りでした」
「うっ……」
「つまり、ニライカナ国での騒動は全て、姫さまによる灰色ヒグマのオークションが原因なのではないでしょうか?」
「で、でも、結局オークションにはならなくて!」
「それはそれで、おそらく商業ギルド内を騒がせたのではないかと愚考いたします」
「うう……」
は、反論できない。
ニライカナ国でいろいろと殴りはじめたきっかけは確かにあのオークションだ。
でも悪いのはわたしじゃなくてラフティだから!?
「……とりあえず、姫さまが殴るという行動以外でも、いろいろと力づくでやってらっしゃることは理解しました。この場合の力づくは財力の方でしょうか」
「うぅ……はい」
「姫さま。この先は……そうですね。小さめの鳥でも狩りながら進みましょう」
「え? 鳥でいいの? クマでもイノシシでも、なんならドラゴンでも大丈夫だけど?」
アイーダがわたしの戦闘力を理解してないはずがない。
「大物は……特に必要はありません。そもそも魔境の森でもないのにドラゴンはいないと思います。そうですね……あまりにも小さいとダメですが、食べられる肉がある程度とれる大きさの鳥をお願いします」
「うん。了解」
わたしはアイーダの指示に従うことにした。
アイーダはわたしの姉ポジの護衛兼侍女だし、もちろん信頼してるからその言葉にわたしは従うのだ。
アイーダは小さな山村を見つけると、わたしが狩った小さめの鳥を売って銅貨を入手した。
それを移動しながら繰り返して地道に銅貨を増やしていく。
「こうして、銅貨を集めるのなら目立つことはありません。あのくらいの山村なら猟師たちがいつもやっていることだと考えられます」
「で、でも、銅貨だと宿の支払いには足りないかも!」
ちまちまやってるのはちょっと大変かも。
もっと効率というか……手間は減らせないものか?
「大きな都市では普通に両替すればよいのです。ヤーバナ王国の銀貨数枚くらいならそこまで目立つこともないでしょう」
「うぅ……魔境の素材ならもっと高く売れるのに……」
「そうするとまた姫さまはトラブルへと殴りかかるのでやめた方がよろしいかと。メイルダース産としか思えない魔境の素材は間違いなくその国の大物を呼び寄せてしまうことでしょう」
「……はい」
わたしはやっぱりアイーダの指示に従うことにした。
そうやって進んでいくと、少しずつ樹木がまばらになっていく。
たまに生えている木も細くて小さいものになってきた。
やがて樹木がほとんど見えない、草原地帯になってくる。
アラミス連合は……草原の中の水源に都市を作った乾燥地帯の国なのだ。
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