第15話 わたしの強さの秘密を暴いた……らしい
「……身体強化ができないようです……」
「何か、仕掛けられたかな? でも、そういうのっておとぎ話でしか知らないけど」
わたしとアイーダは足を止め、背中合わせに立った。
あやしい気配が近い。見えないけど、それはわかる。
「ククク……やはり身体強化に頼っていたか。自分に自信があるヤツほど、いつもやってることができなくなったらダメになるものだ」
……これ、ブーメラン発言なのでは?
わざわざ話しかけてくるタイプは自信家だ。間違いない。
それが自分の隙になるとは考えていないタイプ。
もちろん、それだけの実力もあるのだとは思うけど、わたしにしてみれば誤差程度の問題でしかない。
それでもまだ声だけだ。姿は見えない。
わたしとアイーダの警戒は続く。
ただ、今は……アイーダの身体強化魔法が消えたことについて情報が必要になってしまった。
この原因が分からないと、この先の旅に不安が残ってしまう。
その情報は手に入れてから先に進みたい。
「おまえたちなど身体強化を失えばただの女でしかない。殺しもできないような甘ちゃんだからこういうことになる」
「……誰?」
「名乗るほどの名前はないのでね。答えるつもりは、ない」
「ずいぶん気取った感じで話すわね?」
「おやおや、余裕をみせてるつもりか? おまえの方もすでに種は割れている。これだけ情報を与えておいて、気づかれないとでも思っていたのか?」
「種? わたしの?」
わたしの種が割れてるって何?
意味が分からないけど……王宮なんかで使う高度な比喩表現?
王子妃としての教育で習った中には今の状況にあてはまるものがない。
種、種……うーん。やっぱり思い出せない。
まあ聞けばいいか。
「種って何? なんかの例えとか?」
「ククク……別に例えなどではない。おまえの強さの秘密のことだ」
「ああ、そういう意味か」
「おまえの異常な強さも、結局は身体強化魔法でしかない。ただし、目にも止まらぬ早さで一瞬だけ本当に必要な部位にのみ発動させている。その魔力操作の極みのような技術には感服するが、結局はこうやって魔力そのものを使えない状態にしてしまえば……問題ないということだ。もはや相手にならん」
黒ずくめの男が一人、森の中から姿を見せた。
暑苦しい感じしかない。
「この魔力を使えない状態って……」
「フフ……まさか我々の手にこのような伝説級の古代アイテムがあるとは予想もしてなかったのだろうな。おまえたちメイルダースにとっては最悪の相性のものだ。自慢の身体強化魔法が使えないのだから」
「伝説級の古代アイテムって……そんなすごいものが……」
ヤバい。マジでヤバい。
伝説級のレアドロ確定中ボスとか熱い!
魔力を使えない状態にする古代アイテムとかすごすぎる!
たぶん聖国――クルセイダ聖国にあるダンジョンで見つかったにちがいない!
なんて素晴らしいものを!
最高か!
「さて、大人しくつ……ぐばぁっ!?」
わたしは一瞬で距離を詰めて、いつものように黒ずくめの男を殴った。
もちろん、一撃で相手が動けなくなるのもいつも通りだ。
黒ずくめの男がわたしの動きを目で追えてなかったのも分かった。
「バ、カ、な……」
「バカはそっちでしょ」
最後の言葉とともに意識を失った黒ずくめの男。
今までの相手よりはほんの少しだけ強かったのかも。本人も自信満々だったから、他と比べたらマシなんだろ。
まあ……それでも圧倒的に弱いけど。
「……姫さまは身体強化魔法なしでわたくしたちの身体強化魔法以上に動ける人間離れした身体能力をお持ちなだけですから、魔力を使えない状態にしても意味はありませんので……」
わたしはアイーダのつぶやきをスルーしつつ、その男の身体をごそごそと調べていく。
周囲を探っても気配はこの黒ずくめの男の分しかなかった。
自信過剰だったし、ひとりだったのは間違いないだろ。
「……おいたわしい。このような野盗のようなことを姫さまは何度も繰り返してきたのですね。わたくしがついていなかったばかりに……」
「いや、そんなの繰り返してないから……あと、アイーダがいても必要ならいくらでもこういうことはするし。今、実際にやってるでしょ」
こうやって何かを奪うのはたぶん王都を出てからだとはじめてのことだと思う。
うん。はじめて……のはず。森の中なら。
暗殺者のアジトっぽいところは別腹でお願いします。
こいつ一人だけの気配しかなかったから……絶対にこいつが持って……あ、あったあった。これか。
「これが古代アイテムか……思ったよりも小さいかも……」
「……姫さま。もう少し、使い方や使用制限などをこの男に確認してからでもよかったのでは?」
「あ、つい……古代アイテムとかすごくほしくなっちゃって……」
わたしは奪い取った卵型の古代アイテムを確認して、スイッチっぽい部分を動かした。
「……どう?」
「……問題なく、身体強化魔法は使えるようです」
アイーダは身体強化魔法を腕にかけて……腕に魔力をまとわせるとすばやく剣を振った。
男の首が草の上にがさりと音を立てて落ちた。
……アイーダの中だと殺しておく方がいい相手だったみたい。
まあ、そのへんはわたしが気にすることでもないか。
「……うーん。ちょっと実験したいけど……回数制限とかあったら嫌だから、キープしとくか」
わたしは空間魔法で魔力を封じる古代アイテムを収納しておいた。
たぶん、これ……すごく便利。
この世の全員が魔法を使えない状態になったら、身体能力の高さだけでわたしって最強だと思うんだ……。
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