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第12話 状況を確認すると、やっぱりマズいよね……



「……どう思う?」

「姫さま? どう思うとは……?」

「ラフティって、わたしのことに気づいてる?」

「さあ、どうでしょうか……。ただ、わたくしが思うに、少なくとも姫さまのことを疑ってはいると思います。あれはそういう目でした」


 ホテルのスイートルームに戻って、わたしはアイーダに確認する。


 もちろん、監視役のナミーユは追い出してる。

 何度も追い出されるので泣きそうな顔でこっちにすがってくるのはちょっとかわいいと思ったけど。


「少なくとも?」

「確か、姫さまはこちらの国では最初に『ティーナ』と名乗られたとおっしゃいましたよね?」

「あー……」


 そこか。根本的なミスなのか。


 やっぱり面倒がらずに正体がバレにくい偽名の方が……いや、でも、無理だろ。

 完全な偽名でうまくやれるかといえば難しい。わたしにはたぶん無理だ。


「で、でも、全然違う名前にしたら呼ばれても反応できないし……」

「結果として、姫さまがメイルダース辺境伯の娘、ご本人であるという……一番の真実に手が届きそうになっております」

「うぅ……」


 わたしは悪くない、はずなのに!?


「……ただ、他の可能性もまだございます」

「他の?」


 わたしはぐいっとソファから身を乗り出した。


「落ち着いてくださいませ。あちらはまだ姫さまをただの間者……いえ。ただの、ではありませんね。ニライカナ国を混乱させるための間者と考えている可能性はあるかもしれません」

「ただの、ではないのとこ、いる?」


「メイルダースによる王都ヤーバナの包囲と、姫さまの入国の時期が一致しすぎていますから……王都の包囲によってニライカナ国が動かないようにメイルダースが手を打ったという見方もできるのではないでしょうか?」

「さらっと無視するのやめて? でもアイーダの言いたいことはわかったわ」


 まあ、そういうことか。


 一つは、わたしの正体がすでにバレている可能性。

 婚約破棄されて、国外追放になったからここにいるというのは事実だし……。

 名前がセレスティーナとティーナでカブってるのもあやしい。それはそう思われても仕方がない。


 もう一つはメイルダースの動きで動揺する他国を牽制するための間者。

 なるほど、アイーダの考えは理解できる。

 ニライカナ国の評議会が、さあヤーバナ王国が混乱してるから攻めようか、と思ったところで……わたしがいろいろと暴れ回ってるんだから。

 そういう風に思われてても不思議じゃない。


「まあ、姫さまが姫さまだと気づいている可能性の方がはるかに高いとは思います」

「あぁ……やっぱりぃ……」


 上げて落とすのやめてほしい……。

 アイーダはわたしの姉ポジなのでそのへんの遠慮はないのだ。


「今日、わたくしを護衛という形で同行させたことで……あちらは確信をもったのではないでしょうか? 護衛がいるとなると高貴な身分ということに……」

「ええ? だったら先に言っといてよ、それ……」


 アイーダを護衛にしなかったらよかった!?

 そもそも護衛の必要ってある?


「姫さまを護衛なしで行動させるとまたお逃げになるかもしれませんので」

「う……それを言われると……」


 わたしは少しだけ泣きそうな気持ちになった。

 アイーダは護衛ポジというよりも監視役の方だった。


 それにしても、マズい。

 こっちの人たちに正体がバレてるということは、当然、メイルダースにもすぐ見抜かれるということだ。

 メイルダースの関係者が本気で捜索してくると危険だ。すぐにバレそう。


「でも……そうだとすると、いろいろと気づくのが遅いっていうか、情報伝達が甘いっていうか……」


「姫さまは勘違いなさっていると思うのです。姫さまは特別なので」

「勘違い?」


「情報伝達は、普通はこのくらい時間がかかるものです」

「そうなの……?」


 魔法があるし、だいたい身体強化魔法で走ったら馬よりはるかに速いって人もいるのに?

 魔法じゃなくても伝書鳩みたいなしくみだってあるし……?


「まず、メイルダースでは一般的な身体強化魔法は、メイルダース以外ではほとんど使い手がいないというところからご存知ないのでは?」


「え? そうなの? みんな息するみたいに使ってるのに?」

「それはメイルダースだけです」


「そうなんだ……じゃあ、よその人たちが頑張って走っても馬より遅いってこと?」

「それはもうごく普通の、当たり前のことになりますね。馬は一般的に人間よりもはるかに速いので」


 そうなのか……。


 確かに、学園では誰も身体強化魔法なんか使ってなかったけど……わざわざ使うまでもないからだと思ってた。

 みんな弱そうだったし、あれで身体強化を下手に使うと死ぬかもだし。


「……あれ? じゃあ伝書鳩なんかは?」


「平常時ならともかく、内乱のような非常時に鳩など飛ばせば真っ先に射落としたり、魔法で攻撃したりするでしょうね。それに、鳩を飛ばした者は捕らえられ、拷問されるかと……」


 なるほど、鳩を飛ばそうとする時点で危険なんだ……。


「言われてみれば……そうかも……」

「もちろん、一部でそういう情報を止められずに、ということはあるかと思います」


 そうか。

 だから回復派だけがわたしのことまで先に把握していたのか。

 止められなかった一部が先に伝わったんだ。


「でも、魔法を使えばいろいろと……」

「姫さま」

「……はい」


「あれほど多種多様な魔法を使いこなせるのはメイルダースにおいても姫さまだけにございます。メイルダースには次点でウルトがおりますけれど、それでも姫さまには遠く及ばないかと」

「……そうだった」


 メイルダースの中でもわたしは特別だった。

 全部、前世の記憶のせいだ。

 魔境の森でのレベルアップと並行して魔法も研究して磨き続けたのだ。徹底的に。


「それで……今後の方針は……どうなさいますか?」

「できればすぐ別の国に逃げた方がいいよね?」


「そのおっしゃりようですと……嫌なのでしょうか?」

「嫌っていうか……今夜くらいはゆっくり休んでから逃げたいかな」


 ここのスイートルームって人間をダメにする感じなんだ……。


「このような高級な宿の高級な部屋だと……」

「あ、支払いは全部ラフティ持ちだから」

「……」


 アイーダがジト目をわたしに向けた。


 うん、ごめん。

 せっかくタダで泊れる高級宿だし、最後の1泊くらいはいいでしょ、たぶん。


 明日は朝から逃げるつもり。

 でも、クルセイド聖国か、アラミス連合か……どっちに行こう……?






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