最悪の運命の知らせ
4月13日、日曜日。天気は雲ひとつない晴天。
空は今、駅前で雪を待っている所だった。
「いや、おせぇ…」
さっきっから、1分ごとに時計を見ている。
集合時間は10時だったはずだが、今は10時15分。
女子の支度が遅いという伝説は、本当だったようだ。
空は、意外と時間はきっちりしているタイプなので、9時半には駅前についていた。
…ちょとだけ楽しみで、早く来すぎたのも認める。
だって女子と出掛けるのなんて初めてだよ!しかもデートって言ってたんだよ!
こんなの、期待しない男子の方がおかしいよ。
やることもないので、雪が来るであろう道をぼーっと眺めていると、10時17分。
17分遅れで、ゆきはやってきた。
陶器のように白い肌と、めちゃくちゃ手入れされていそうな、長い白髪。
もちろん学校じゃないので私服だ。
白のワンピースに、小さめのバッグと涼しげな格好をしている。
「ごめん、待った?」
申し訳なさそうに、お決まりのセリフを雪が言った。
1時間近くは待つことになったが、この美少女と1日デートできるなら安い気がしてきた。お釣りが来すぎて困るくらいだ。
「いや、俺もさっき来たところ」
怒るどころか、感謝しなきゃいけないので、俺もお決まりのセリフを言っておく。
出発するのかと思いきや、雪は何かを待っているかのように、俺をじっと見つめている。
「…」
数秒続く、無言の時間。
それでも、雪は俺を無言で見つめて待っている。
俺も察しは悪い方じゃないから分かる。この行動を直訳すると、「褒めろ」「可愛いって言え」とかの部類だ。
あえて、空気が読めないふえりをするか迷ったが、このまま一生終わらない気がしたし、無言が気まずいので、とりあえず褒めておく。
「くっそ可愛い」
ベタなせりふだが、本心だ。くっそ可愛い。
雪はほのかに頬を赤色に染め、目が合わなくなってしまった。
…普通に照れてて可愛い美少女なのだが、何かが引っ掛かる...
まぁ、気のせいだろうと片付けておき、「行くか?」とデートの始まりを雪に告げて、駅に向かおうとする。が、急に後ろから服をつままれた感触がしたので、俺が振り向くと、目線を下にして、俺の服をちょん、と引っ張っている雪がいた。表情は見えないが、めちゃくちゃ照れてそうだ。
「どこら辺が可愛い?」
雪は呟くように、ボソッと言った。
表情は見えないまま。そのせいで、どんな気持ちで言ったのかは全く分からないが、褒めておけば問題ないだろう。
「足がエロい」
言い終えた瞬間、雪の右ストレートが俺の顔に飛んできた。回避できずに、思いっきり顔面に拳が入った。
「いってぇ!」
反射的に声が出た。
「何か言いたい事無い?」
顔を真っ赤にして、雪が威圧してくる。
だが、俺の身長は178センチ。雪は150ちょいくらいだろう。体格差のおかげで、顔面を殴られても耐えられる位の痛みだったのでもうちょっとふざけてみる。
「腰の入った良いパンチでした...」
優しい笑みで、もう一発くらう?と、雪が圧をかけてくる。拳を握った手が震えてるので、コレは本気のやつだ。
「俺が悪かったです。雪さん、すみませんでした」
仕方ないので、俺は深々と頭を下げた。
仕方ないというか、最初にセクハラしたのは俺なので、頭を下げるのが当たり前なのだが...
雪は、はぁとため息を吐くと、何故か俺に感謝の言葉を口にした。
「ありがとう」
「セクハラしてくれて?」
セクハラして、感謝されるとか初めてだ。
「緊張、ほぐしてくれようとしたんでしょ?」
全て分かってたように、雪は不敵に微笑みながら俺の顔を覗き込んだ。
少し上目遣いになってるのもあって、めちゃめちゃ可愛い。思わず、ニヤケそうになる。
「バカな顔してないで行くよ」
どうやらニヤケが出てしまっていたらしい。
雪が駅のほうに向かって歩き出したので、俺も後ろから着いていく。雪が満足そうに笑っているのは、空の位置からは見えなかった。
・・・
電車の席に座ってから、10分。
雪がずっと、ジーッと俺の方を見つめている。
雪が美少女かつ、礼儀正しく座っている姿も絵になるっているせいで、周りからの、俺への視線も痛い。
中には、「あいつが彼氏?」「いや、絶対違うでしょ?w」とか、女子高生の失礼な発言も飛び交っている。
「...どうかした?」
めちゃくちゃ居心地が悪いので、やめてくれ、と言うニュアンスを含んだ疑問を投げかける。
「全然楽しそうじゃないなーって思ってた」
雪は、ため息混じりに俺に不満を投げつける。
だが、こ俺は、好きになってはいけない事、初めての美少女とのお出かけって時点で精一杯だ。
楽しむどころの話でなはい。
そう言えば、俺は雪に聞きたいことは沢山あった。
電車に乗ってる間に、聞きたいこを聞き出しておかなければ。
「なんで、俺にこだわるんだ?」
「...どういうこと?」
俺に、雪の警戒したような眼差しが突き刺さる。
「なんで、俺と出かけたいんだ?って聞いた方が早いか?」
雪がやれやれ、と肩をすくめ、諦めたように話し出した。
「私の能力が関係してるの」
やっぱりそうか。こんな美少女が俺と出かけたいんだなんて、おかしいとは思っていた。
だが、俺の想定よりも、雪の言うことは、最悪な事態を表していた。
「私のクエストに、あんたを惚れさせろ。って言うクエストが出てきたの。私はそのクエストをクリアする為に、空をデートに誘ったの。」
「は?」
思わず、おかしな声が出る。
「でも、安心して。空が無理矢理私に惚れようとはしなくても良いいよ。...その時死ぬのはアンタになるからなるべく惚れて欲しいところではあるけど」
雪が、窓の外を見ながらため息をつく。
俺の能力のせいで、俺が雪に惚れたら、雪は死ぬ。
雪の能力のせいで、俺が雪に惚れなかったら、俺が死ぬ。
どちらに転んでも最悪な未来に、俺は絶望することしか出来なかった...