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1‐7.【ママンを魔塔の巫女に】ってどうよ⁉️

 グランディア帝国魔術学校の卒業記念舞踏会、プロムの会場を後にした皇帝陛下は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、足早に宮殿の長い廊下を進む。


「ヴィル。リサは【淫魔】だな」


 ヴィルと呼ばれた男は、ヴィルヘルム・フォン・デックアルヴ公爵。ダークエルフの国の大公で、グランディア帝国連邦の宰相を務める。


「ハッ。間違いないかと」


「早急に【闇の魔塔の巫女】として、招聘しなければならないな」


「しかし、陛下の【皇位継承時の密約】が……」


「ヴィル❢ あのままリサを野に放つわけにはいかんだろう。グーテンベルク家との密約は破棄だ❢ 破棄❢」


 皇帝は吐き捨てるように言い切る。


「……面倒なことになりますよ」


 デックアルヴ宰相は、ため息をつく。


『皇帝が焦るのも当然か……』


 グランディア帝国の皇帝は女帝と呼ばれる皇后とともに、5年に一度の皇帝&女帝選挙で選ばれる。そこで使われるのが、この【いいね♥でドッカーン❢花火】の人気投票のシステムだ。


 ちなみに【いいね♥でドッカーン❢花火】というのは、何を隠そう私めの命名ですの。我ながら良いセンスをしておりますわ♥ 私というのは、当然、【転生淫魔】のカトリーヌちゃんです。


 一般には【魔法花火戦】と呼んでいるようだが、残念ながら味気ない。ということで、ここでは【いいね♥でドッカーン❢花火】でいきま〜す。


 グランディア帝国魔術大学校の卒業記念舞踏会、プロムのプレイベントとして、【神エイト】のパレードと花火が行われるのも、将来、有望な若者を広く人々に知らしめると同時に、未来の皇帝&女帝候補の品定めも兼ねているためだとか。


 皇帝&女帝選の候補者は、男女一組のカップルだ。便宜上、女帝を皇后と呼ぶこともあるが、皇后(女帝)の権力は、皇帝と同等である。建国の祖の皇帝と女帝が、ともに力を合わせて、この大陸を【自由と平等】の世界として解放して以来の伝統だ。


 貴族制度があり、魔力による格差社会だというのに、【平等】を掲げるのも、どうかと思うが、前世でも【平等】の名の下に、貧富の格差は激しく、知性は偏差値で測られる競争社会だったことを考えると、魔力偏重社会ならではの実力主義の下の【平等】という考え方も成り立つのか。


 グランディア帝国連邦は、魔力で測られる競争社会で、その上、貧富の格差もある【自由と平等の国】なのである。


 公式には、魔力と才能さえ認められれば、平民であっても、皇帝&女帝選に出馬できる。皇帝候補は【闇属性】の魔法使い、女帝候補は【光属性の聖女】のカップルでなければならない。建国の祖が、光輝く銀髪をなびかせた【闇属性の神竜の血を引く皇帝】と、並び立つ女帝は眩いばかりの金髪に輝く【光属性の聖女】であったと伝えられているためだ。


 平民にも、立候補の権利、被選挙権があるとはいえ、実際には皇家と七大公の血を引く者たちが歴代の皇帝・女帝に選ばれ、国を治めてきた。【闇属性】と【光属性】が、非常に珍しいことと、圧倒的な魔力によるもので、このことに対する、国民からの不平不満はない。


 たまに、平民からも強力な魔力を持つものが現れるが、ほとんどが、貴族の養子や一代貴族として取り込まれている。


 リサの【いいね♥でドッカーン❢花火】を国民の多くが見てしまった以上、次期皇帝&女帝はリサの支持を得た者が有力になる。【淫魔】は闇属性であるので、リサ自身は女帝になれない。


 しかし、【淫魔】として【闇の魔塔の巫女】になってしまえば、皇帝&女帝選では【中立】を守らなければならない。ライバルに加担する事かできなくなる。


 一方、【闇の魔塔の巫女】は、通常の行事などでは、陰ながら皇帝&女帝に同行し、民衆の支持・人気獲得を後押しする。


 今帝のピョートル皇帝にしてみれば、なんとしてもリサを【闇の魔塔の巫女】として抑え込みたいわけだ。


 ピョートル皇帝は【無血の帝王】と呼ばれている。グランディア帝国では歴代、血なまぐさい帝位争いを繰り広げてきた。にも関わらず、現皇帝は4期連続、対抗馬無しの無風選挙で勝利してきた。


 対外的にも、大きな戦争も無く、国民の生活は安定し、堅実な治世が、支持されている。


 この【無風選挙】の立役者が、実はグーテンベルク公爵夫妻だという。つまり、私のお祖父さま、お祖母さま。


 ピョートル皇帝誕生の第一回選挙の時、最有力候補だったのは、実は、当時、【闇将軍】と呼ばれたお祖父さまと、【戦場の聖女】と慕われていたお祖母さまだった。


 選挙の数年前から、各地で大規模な魔物のスタンピードが起こった。お祖父さまとお祖母さまは、魔物討伐部隊の指揮をとり、自国のグーテンベルク公国だけでなく、グランディア帝国連邦各地で、スタンピードを鎮圧した。被害が最小限に抑えられたことで、二人は【救国の英雄】と呼ばれ、民衆からの圧倒的な支持を集めていた。


 そのまま【いいね♥でドッカーン❢花火】で、皇帝&女帝選を行っていれば、間違いなく、お祖父さまとお祖母さまが、皇帝&女帝に選ばれていたと言われている。


 しかし、お祖父さまとお祖母さまは、皇帝&女帝選に、立候補しなかった。


「皇帝&女帝選でピョートル支持する。その代わり、ピョートルが皇帝の間は、グーテンベルク家から、これ以上【闇の魔塔の巫女】を出さない」という【密約】を結んだからだ。


 当時、ピョートル皇帝は、第三王子として、皇帝&女帝選に出馬を表明しており、ほかに有力候補がいなかったため、お祖父さま&お祖母さまとの一騎打ちと言われていたのだ。お祖父さまたちの不出馬で、ピョートル王子が皇帝に選ばれた。


 これがピョートル皇帝が【無血の帝王】と呼ばれるようになった真相だ。


 国民の多くからは残念がる声が聞こえたが、お祖父さまとお祖母さまには、どうしても守りたいものがあった。リサ母さまだ。


 当時、まだ生まれたばかりのママンが【闇の魔塔の巫女】として、囚われてしまうのを何としても避けたかったからだ。


「なぜ、グーテンベルク家の娘たちばかり、犠牲にならなければならないのだ❢」


 お祖父さまはこの悪しき伝統に終止符を打ちたかったのだと言う。


 その皇帝&女帝選の前年、【闇の魔塔の巫女】が亡くなった。齢八十を超え、半世紀以上、巫女を務め上げた。彼女は【淫魔】ではなかったが、強力な闇魔法使いだったことから、【闇の魔塔の巫女】となった。彼女もグーテンベルク家の出身だった。


【淫魔】ではない【闇の魔塔の巫女】のことを【闇の魔塔の巫女(仮)】と呼んで区別するらしい。


 次の【闇の魔塔の巫女】にと、白羽の矢が立ったのは、お祖父さまの妹のエカチェリーナ叔母さまだった。


 闇の魔塔はグランディア帝国連邦闇魔術研究所でもある。叔母さまはすでに新進気鋭の研究者として知られ、次期所長は間違いないと言われていた。


 叔母さまは紫がかった黒髪に、深い紫色の瞳の美しい女性だ。中年にさしかかった今でも、十分、魅力的な美人と言える。しかし【淫魔】ではない。しかも当時、人生をかけた大恋愛が悲劇的な結末を迎えたこともあり、恋だの結婚だのには、全く興味を失くしていた。


 ということもあり、お祖父さまは渋々、叔母さまの【闇の魔塔の巫女(仮)】への就任を承諾した。


「但し、闇魔法の研究は自由に行う」という念書をつけて。同時に叔母さまは、史上最年少で、グランディア帝国連邦闇魔術研究所の所長となった。


 【淫魔】としての【魅了】の任務がなく、闇魔術研究所の所長である、エカチェリーナ叔母さまは、外出も自由で伸び伸びと、大好きな研究に打ち込んでいる。


 そもそも【淫魔】は、極まれにしか出現しない。グランディア帝国三百年の歴史の中で、記録に残っているのは、たった三人だ。特に初代【闇の魔塔の巫女】は、百年近く務め、闇魔法の向上・発展に寄与した。その間、ほとんど表に出ることなく皇室に仕えた。


【闇の魔塔の巫女】が、皇室からの要請以外には、魔塔から出ることなく、事実上の軟禁状態になってしまったのは、この初代【闇の魔塔の巫女】の働きぶりが、そのまま、慣習として、受け継がれてきたからだ。

 

 25歳で即位したピョートル皇帝は、まだ、40代になったばかりだ。少なくとも、後2期ほどは、皇帝を続けたい。続けられるものだと考えていた。あのリサの花火を見るまでは。


 特に次期皇帝選は建国300年の記念すべき年だ。その歴史的な瞬間を飾る皇帝は、自分しかいないと、ピョートル皇帝は考えている。


「ヴィル、グーテンベルク公爵夫妻を呼んでくれ。契約破棄の準備もだ」


「畏まりました」


 ディックアルヴ宰相は、直ぐに手配に取り掛かりつつ『姉上を呼べ、とは言わなかったな』と、皇帝の微妙な心の距離感を測っていた。

 

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