1‐3.【淫魔(インプ)は塔に囚われる】ってどうよ⁉️
「あの雷はどうにもわからん……」
闇の妖精王はしばらくブツブツいっていた。
「考えてもしようがないか……」
急に口調を切替えて、妖精王が問いかける。
「オイ、ここの結界は大丈夫か?」
真顔に戻った妖精王が皆に確認する。
「この妊娠、出産は皇家に知らせておりません。万が一にも気づかれないように声も気配も漏れないようにしております。妖精王さまクラスの魔力でなければ、侵入するどころか、中の様子は、一切、感知されないでしょう」
紫がかった濃紺の魔女服を着た四十絡みの女性が答える。産婆さんのようだ。
「ふむ… ここにいる人間は皆、信頼できるということで良いな?」
「はい。私は闇魔術研究所の所長で、リサの叔母のエカチェリーナ・フォン・グーテンベルクです。現グーテンベルク公爵の妹に当たります。産婆だけでなく、この子の体調管理をしております。あとの二人は、リサの子供の頃からの侍女、ドリーとジェーンです」
「では、話しても構わんか…」
闇の妖精王の深刻な口ぶりに、ママンが私をギュッと抱きしめる。
「この子は魔力こそ認められないが、特上のオーラを発散している。ちなみに属性は闇。闇の申し子じゃ」
「ひッ❢」
ママンは身体を硬直させると、私を抱く腕にさらに力を込める。
「そうだ。オーラが豊富で闇属性。魅了のスキル持ちだ。スキルは魔力が無くても、オーラだけで発動するのは知っておろう」
闇の妖精王は痛ましげに言葉を切って、一瞬、間を置く。
「リサ、お前と同じように、【淫魔】のレッテルを貼られて、この【闇の魔塔の巫女】として、皇家に軟禁される可能性が高い」
「いやーッ❢」
ママンは叫んで泣きだした。
『えッ⁉️ ママンは軟禁されているの⁉️』
軟禁されている【闇の魔塔】での出産。何やら極上の悲恋の香りが……。不謹慎にも、ちょっとワクワクしてしまう。いかん、いかん。私は当事者だ。
窓からはほかの建物は見えず、月しか見えない。となると、ここは【闇の魔塔】の最上階か?
冷静に情況を考えてみる。せっかく、異世界転生したのに、いきなり、軟禁人生はないでしょ❢ だんだん泣きたい気分になってくる。
でも、ここで感情的になっていては、情況把握ができない。必死になって耳を澄ます。
「皇家も愚かなことをする。自分たちの都合だけで、この歪んだ慣習を続けおって」
「この【闇の魔塔】は、闇の精霊に感謝と祈りを捧げ、祝福を受ける場じゃ。俺は巫女を軟禁しろなどとはいった覚えはないのじゃが……」
闇の精霊王が忌々しげに言う。
「リサやこの子のように、オーラが極めて強大な人間は、そこに存在しているだけで、大衆の人気を集めてしまう。それが闇属性の使い手の場合、【魅了】というスキルで自分のオーラを自在に操ることができる。もちろん、レベルによって効果は違うが」
『それがなんで、【闇の魔塔】での軟禁になるのよ⁉️』
「皇帝や皇后よりオーラが強い人間は、叛乱の火種になりかねない。魅了を使えば、大衆の扇動など、簡単じゃからな。皇家にとって大きな脅威となる。だこら、【闇の魔塔の巫女】として、名誉ある軟禁をしているのだ」
『酷い❢』
「特に皇家の血を引く女性の場合、政争のタネになりやすい。男どもの愛欲と権力欲に火が着いて壮絶な争いが起きる。実際にひどい惨劇も起こった。杞憂とも言い切れないのだ」
闇の妖精王は、困ったものだと眉根を寄せる。
「リサの母親は、先帝の娘、現皇帝の妹じゃ。皇位継承権もある。父親は闇公爵だから、女王の配偶者としての適正がある。現皇帝の焦りも理解できる」
「皇帝は【闇属性】、皇后は【光属性】、いわゆる聖女と決まっておるからな」
「そもそも【淫魔】の女性は皇后になれないことになってしまった。このことが、話をややこしくしている。【淫魔】の力を皇家に取り込むためには、闇の魔塔に軟禁するのが手っ取り早いということだ」
闇の妖精王は、心底呆れたというように、大きくため息をついた。
『創世の皇帝が銀髪、皇后が金髪だからと言って、酷い誤解をしたものじゃ……』
この妖精王のつぶやきは私にしか、聞こえなかったかも知れない。
「皇家にとって、軟禁は【淫魔】の魅了の力を利用するのにも、都合が良い」
『利用⁉️ どういうこと⁉️』
闇の妖精王は、私をチラッと私を見ると、話を続けた。
「公式の場では、皇帝の後ろで、黒の塔の守り手が【カリスマ】の魅了スキルを発揮する。それだけで、大衆は熱狂する。皇室への支持が高まる」
「この国、グランディア帝国連邦は、多民族国家だ。人間族のほか、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人、魔人などと、その多彩な人種とその混血が集う【人種のるつぼ】だ。それだけに統治は難しい。多種多様亜人も多い。歴代の皇帝は、強大な【魅了】の力を借りて国をまとめ、安定させてきた」
「それだけに大元の【魅了】、カリスマのオーラが皇帝のものではなく闇の魔塔の巫女、【淫魔】のものであるとバレてしまうことはなんとしても避けたい」
あれっ? これって、ここにいる人たちには、常識? さっきから闇の妖精王は、私のために、私が置かれている情況を説明してくれている?
『ありがとう♥』
ちょっと嬉しくなって、キャッキャッとはしゃぐ。少しでも感謝の気持ちが伝わるといいな。新生児は普通、笑えないって聞いたけど、転生者のおかげが、多少の感情表現はできるようだ。
同時に、部屋にいた全員が、驚いた顔で私を見つめる。
ママンがハッとしたように泣き止んで、私をギュッと抱きしめる。
「これで皆にもわかっただろう。実に心地の良い【魅了】の力だ。妖精も人も幸せにする」
闇の妖精王が静かに目を閉じて、堪能するように大きく息をする。
「これはこれは……。素晴らしい【魅了】ですね。リサの【魅了】に日ごろから慣れている私でさえ、フワッとした気持ちになりました。そうなると、この赤子をなんとしても守らなければ……」
さっき闇魔術研究所の所長と紹介された伯母のエカチェリーナがキッパリと語る。
「ありがとう」
妖精王がお礼を言う。
『えッ⁉️ なんで⁉️』
「ま、わしの未来の嫁候補だからな♥」
といいつつ、闇の妖精王が身構える。
『雷が怖いなら、冗談はよしてください❢』
思わず突っ込む。
『怖いわけあるか⁉️ フフフ♥』
闇の妖精王は意味深な含み笑いをする。
『えッ⁉️ 私、オチョくられている⁉️』
「そもそも、【闇の魔塔】の巫女を【淫魔】などと呼ぶ奴らが気に食わん」
妖精王の口調を変わった。
「本来、【淫魔】というのは、サキュバスとか、インキュバスなどの魔族だ。チャームを駆使して、人間の精を吸い取る奴らじゃ」
妖精王が怒っている。
「オーラに溢れ【魅了】を使いこなす闇魔法使いを一緒にしてもらっては困る」
『さっき、妖精王さまも【淫魔】っておっしゃっていましたけど』
思わず、突っ込む。
「まあ、わしもつい、わかりやすく使ってしまうが……」
妖精王さま? 反省している?
「まあ、聖女をいただく、光魔導師どもが、【闇の魔塔】の巫女の圧倒的な力をやっかんで、【淫魔】などと、蔑んで呼び始めたのだろうがな」
「ですから、公式には【インプさま】とお呼びしているのですが……」
エカチェリーナ叔母さまが口を挟む。
「同じじゃ❢ どこぞの外国語に換えて、意味を曖昧にしたたけじゃ❢」
『そっか、でもママンが魔族でなくて良かった♥』
「ところでリサよ❢ これからどうするのじゃ⁉️」
闇の妖精王が突然、話題を変える。




