プロローグ【過労死専門転生エージェント】ってどうよ⁉️
私は浜村美香。大学の薬学部の研究員。恋愛経験ゼロのリケジョ。いわゆる地味女である。
昨晩は、学会向け発表論文の最終チェックで徹夜。そのまま大学病院の薬剤課でアルバイトをして、研究室にちょっと寄ったら、学生に実験動物の世話を代わってくれと、頼まれてしまった。
断れない性分が恨めしい。掃除、餌やりがやっと終わった時だ。急に心臓が締め付けられるように痛くなった。息ができない。苦しい。
『私死んじゃうのかな?』
思えば、恋の一つもせず、異性とのキスさえしたことがない。このまま、人生が終わろうとしている。
「私だって恋の一つくらいしたかったわよ❢」
消えゆく意識の中で、思わず叫んでいた。
「その願い聞き届けよう」
突然、妙に厳かな声が響いてきた。同時に身体から意識だけ、吸い込まれるように出ていってしまう。残された身体は動かない。抵抗できないまま、奇妙な空間に着いた。
宇宙空間のように、星々に囲まれ、ポッカリ床だけが浮かぶ、壁のない部屋。
白い衣装に身を包んだ、白髪碧眼、長い髭を蓄えた老人が、豪華な机に座っている。アニメに出てくる、神様っぽいおじいさんだ。
その背面に、昭和っぽい怪しげなネオンが瞬いている。
【過労死専門転生エージェント】
なんじゃそりゃ!?
老人は美香をチラッと見ると、忙しげに机の上の書類へと目を落とす。
「過労死するような人間は根が真面目で働き者、お人好し。努力するから能力も高い。可能性の塊じゃ。だから、各界の創造神から、テコ入れ要員として、引っ張りダコなのじゃよ」
老人は機嫌良く話し続けながらも、書類にサインをしつつ、振り分けていく。
「転生条件も良いぞ。【特別待遇】じゃ。過労死ソウルには、死に際の願いを一つ叶えてやれるのじゃ」
とまどいつつも、ちょっと、期待でドキドキする。
「お主の願いは、『恋がしたい』じゃな」
『へっ?』
まあ、死に際にそう思ったのは事実だけど。
「魅了使い放題の淫魔として生まれ変わらせて進ぜよう」
老人は一方的にそう宣言すると、キラッと小ぶりの杖を振った。
「今世では恋のし放題、モテモテのウキウキじゃ〜」
意味がわからない。
問い返す間もなかった。
「では行って参れ。今度こそ楽しく幸せな人生を送るのじゃぞ」
老人は顔上げた。そこには、『良い仕事をした』という満足げな笑みが溢れている。
『まッ、待ッ、待って〜』
声が出ない。そのまま、意識が遠のく。
私は、問答無用で淫魔に転生するらしい。




