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琴、薩摩おごじょ  作者: ひみつの物書き
5/5

 見ちょった者がおって、だいたいは分かっちょっ。


 兄は言った。

 

 同じ郷中の少年が、様子を見かけていたと言う。

 (そんなら助けてくれたら良かったのに)

 内心憤慨したが、誰もが兄のような振る舞いはできないのだと思えば納得できた。


 「俺のことを思ってやったことだ。どうして叱ることができる」

 と、小吉は言った。もう泣くな、と、琴の涙を太い指で拭った。


 「兄い、琴は悔しい」

 琴は訴えた。

 抱いてくれる太い腕。この温かな強い右腕は、もう真っすぐには伸びない。傷跡は一生消えない。

 

 「悔しいなら、郷中でいっばんのおごじょになれ」

 小吉は言う。

 

 悔しさで自分を磨く術は、小吉が既に体得している。

 今は、どうにもならない辛さ、哀しさ、悔しさに溢れている。人に手を上げても悔しさは変わらないものだ、と、小吉は言う。


 「明日、兄いと一緒に、相手の家に謝りに行くか」

 小吉は言った。

 琴が黙っていると「行くか」と、ちょっと怒った声になった。


 「あい」

 琴が頷くと、小吉はやっと笑顔になった。


**


 兄の笑顔が大好きだと、琴は思う。

 

 家族の誇りの兄は、長男なので、貧しい御前であってもおかずが他より一品多い。

 だけど兄は、自分にあてがわれたものを、吉次郎の皿に放り込み、琴を呼び寄せて、口の中に入れてくれる。

 小吉の食べる分がなくなってしまいますよ、と、母が言う。

 

 桃の節句でも、ひな飾りなどない。

 だけど、壁にはいつも、兄が描いたひな人形が貼り付けられていた。

 どうじゃ、うちもひな祭りができたぞ、と、兄は言う。


 (兄いが、そう言うなら、いくらでも頭を下げる。兄いが、そう言うなら、一番の薩摩おごじょになる)


 「謝りに行くのは怖いか」

 小吉がからかうように言うので、琴は「いいえ」と答えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 琴の健気さと強さにじんわり来ました。 気になったので少し調べてみたのですが、腕の怪我と家族構成以外は創作ですか? 歴史の一片を見事に小説にされているなと思いました。
[一言] とても心に響く作品でした。 真っ直ぐな兄妹ですね。
2024/09/24 22:07 退会済み
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