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のしっと気配があり、顔を上げた時、目の前に皿に乗った握り飯が出されていた。
腹が空いていた琴は、思わず手を出して握り飯を取った。ひもじくて目がまいそうだったのである。
食べているうちに、涙があふれて止まらなくなった。
隣に座ったのは、小吉である。皆が寝た後も月明かりで読書をしているような兄だ。未だ寝間着にならず、袴をつけている。
えぐえぐと声を殺しながら泣く琴の横で、兄は黙って座っていた。
大柄な小吉は、琴の何倍もあろうかという体を丸く折り曲げ、膝に腕を置いて空を見上げているのだった。
「ごちそうさま」
と、最後の米粒を飲み来んでから、琴は小さく言った。そして、おずおずと兄を見上げた。
以前、吉次郎が悪戯をして母を困らせた時、温厚な小吉が怒ったことがある。
優しい兄だが、怒らせると鬼よりも怖いのだ。吉次郎を踏みつけ、二度とするなとしかりつけていた。
吉次郎はわあわあと泣きわめき、二度と同じ悪戯はしなくなった。両親より、小吉がしかる方が効き目がある。
兄は自分をしかるだろう。
琴はそれが悲しかった。
小吉はしかし、いきなり鬼と化すことはなかった。
あっけないほど穏やかに「喰うたか」と言い、その大きな目で琴を見下ろした。表情に怒りはなかった。
その顔を見ているうちに、琴はまた泣けてきた。
ううと顔を覆うと、小吉の手が頭に乗った。
「怒らんとな」
琴は恐る恐る言った。
「怒らん」
小吉は言うと、ぐっと左腕を伸ばし、琴を自分の胸の中に抱いたのだった。